本当にしたい事
一章もいよいよ大詰めです。
殺意に身を委ねようとしたその時、アカの目の前に誰かの背中が現れた。
(あの子は……まさか)
アカが驚くのも無理は無い。殺し合いの真っ只中、二人の間に入り込んだのは自分が助けようとしたあの少女であった。
「これ以上、この子を傷つけないで……!!」
少女はアカを庇うように両手を広げ、カバの前に立ち塞がった……体が震えているにも関わらず。
怖いだろう、恐ろしいだろう。しかしそれでも少女はカバをジッと見つめその場から動こうとしなかった……だがそれはカバを余計に怒らせるだけだ。
「アァ? 誰だお前。せっかく良いとこだったのに邪魔しやがってよォ……ぶっ殺すぞこのアマァ!!!!」
カバの抱く感情は戦いを邪魔した事に対する怒りのみ。獰猛に浴びせられる怒気の中には明確な殺意があった。
フーニスの護衛として人を殺し続けたカバ。そんな人殺しの殺気は少女に死の恐怖と絶望を与えた…………がしかし、彼女はそれに耐えた。唇を噛み恐怖を騙したのである。
少女は目から流れる涙を誤魔化そうともせず、恐怖を掻き消すように必死で叫んだ。
「……この子は、この子だけは私の声を聞いてくれた。だから、私はこの子を絶対に見捨てない!!」
『大丈夫、兄ちゃんが守るから』
「兄……ちゃん?」
4年前と同じ今の状況があの時の言葉を思い出させる。
どうして彼女がこんなにも他人の為に命を張れるのかは分からなかった…………だが、その行動は間違いなくアカの心を大きく揺さぶった。
(俺は兄ちゃんに守られて……また、守られちまうのか?)
優しくて、いけない事をしたら叱ってくれて、悪い奴らなんかよりもずっと強くて、必ず守ってくれて…………そんな兄にアカは憧れたのだ。
(そうか……だからオレは兄ちゃんみたいな『誰かを守れる人』になりたかったんだ)
アカはようやく思い出し、理解した。
本当にしたい事__それは「大好きな兄のようになること」であると。
じゃあ自分は今、いったい何をすれば良いのか……そんな事、考えるまでもない。
「はァ……じゃあ死ね」
「……!!」
恫喝にも怯まない少女にカバは痺れを切らし、彼女の脳天目掛けメイスを降り落とす。
あっという間に迫りくるメイス。「回避不能」、無意識にそう察した少女は静かに目を"ギュッ"と瞑る……が、いつまで経っても衝撃がやって来ない。
ヒーローは遅れてやってくる。
「ありがとう、君のおかげで助かった」
「ッ!?」
前方から聞こえるその声に少女が驚きながら目を開けると、そこにはメイスを金属バットで受け止めるアカの姿があった。
「アンタ、血が……」
「はは!! まだそんな力があったなんてなァ!! 驚いたぜェ!!」
カバが今だ歯向かうアカに興奮する一方、少女は血塗れの体を見て顏を青ざめていた。荒れる息、無数に出来た青あざ、赤黒く腫れた両腕。戦えるような体じゃない事は誰が見ても明らかだ。
「はぁ、はぁ……ッ」
「…………逃げなさい」
「悪いけど、それだけは出来ない」
「!? どうして!! アンタ、本当に殺されるわよ!?」
少女はアカの蛮勇を非難する。今にも倒れそうな体なのに自分を助ける為に死んでほしくなかったのだ……だが、アカはそんな事をまるで気にもしてないかのように笑みを浮かべた。
「おいおい。まさかその女を守りながら戦う気かァ? ボロボロで今にも死にそうなのによォ???」
「へッ……何当たり前の事言ってんだ、お前」
「……あ?」
あの子を守る為? 兄の仇を討つ為? 違う、そんな他人行儀な言い訳は似合わない……全部、俺がしたいからするんだろうがッ!!
「俺はもう逃げない……俺が俺で在る為にカバ!! お前を倒すッ!!」
金属バットをカバに向け、力強く宣言した。
そしてアカは……■■は改めて名乗り上がる。
「俺は【反英雄】……傲慢で偽善な__ヒーローだ!!!!」
ヒーローはそう言って"ニイッ"と口角を上げた。
闇落ち回避してタイトル回収とか、アカ君の主人公適正が高すぎる()
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