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ANTI HERO~悪が望む英雄譚~  作者:
反英雄の誕生
2/24

兄弟の日常

本編開始です。

「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

「へぇっへ!! どこに逃げるんだ坊主ゥ?」


 赤毛の少年は必死に足を前に出す。


 ゲラゲラゲラ

 ニタニタニタ


 後ろには丈が倍はありそうな男が2人、嘲笑うかのようにじわじわと少年に近づいていく。


 捕まったら、死ぬ。


 しかし現実は残酷。疲れから自分の足が絡まりその場で転んでしまい、あっという間に追い詰められてしまった。


 少年は兄が命を懸けて稼いだ時間をゴミにした。


 何とか態勢を直そうとするが少年の体力は既に無く座る事が限界だ。はやる動悸を抑え、少しでも距離を取ろうと体を引きずらせるが、抵抗空しく目の前に男が立つ。


「ッたく、無駄に手こずらせやがってこのガキ!!」

「ぐふぅッ……!!」


 男が少年の頭部を蹴り飛ばし、少年は1m程吹き飛ぶ。

 周囲のゴミで切ったのか、額からは血が流れ、目は涙が滲む。

 ボロボロの体には「満身創痍」の言の葉が良く似合っていた。


 力の無い自分には何もすることが出来ないのか。怒りと悔しさが胸の中で鈍よりと掻き回している。


(助けて、ヒーロー……)


 絶望的な状況に少年は兄の口癖を思い出す。




~~~




 ここはスラム街、またの名前を第3ゴミ処理場。空は一年中薄黒く淀んでおり、晴れたことは一度もない。秩序が崩壊して以降、復興の目途は立っておらず、辺り一面が戦争で破壊された建物や道具で溢れている。


 そんな劣悪環境で暮らしている少年が2人。


「兄ちゃん~あつめて来たぜ」

「お、いつもより多いな。ありがとうアカ」

「へへっ」


 赤毛の『アカ』と灰毛の『カイ』はこのゴミ山で生計を立てている兄弟だ。着ている服は薄汚れているが、ここで暮らすにはこれで十分である。

 今2人がしているのは日課の鉄屑漁り。ここの住人は捨てられたゴミから再利用出来そうな素材を集め、それを売って生活費としているのだ。この兄弟もまた例外ではなかった。


 カイはアカに礼を言うと集めて来た釘を見つめ続ける。すると釘はカタカタと蠢きだし、次々と()()()()()()()


「おぉぉ!! 兄ちゃんスゲー!!」

「はは、少ししか浮かせられないけどね」


 カイの適正道具(ソウル)は"鉄釘"である為、1m程だが浮かせる事が出来る。カイはその能力を利用し集めた鉄釘を大量に運んでいた。


 因みにアカの適正道具(ソウル)は未だ判明していない。適正道具(ソウル)は個人差があるため、自力で判別するのはとても難しいのだ。

 カイの場合は初めてのゴミ拾いの際、自覚したため幸運であったと言えるだろう。


「それじゃあチェンさんのとこに行こうか」

「分かった!!」


 カイは優しく語り掛け、アカは元気に返事をする。


 しばらく歩くと二人は目的地の場所に到着した。そこは掘っ立て小屋で出来た出店が数件並んでおり、人が行き来している。

 二人は慣れた足取りで進み、目当ての人物であろう眼帯姿の厳つい男に話しかけた。


「チェンさん」

「ん? お、カイにアカじゃねぇか。元気にしてたか?」

「お陰様で」

「チェンのおっさん!! 久しぶり!!」

「ガハハッ!! アカは相変わらず元気だな。カイ、釘はそっち運んでくれ」

「分かりました」


 眼帯の男『チェン』はこの辺では珍しい金銭と交換してくれる貴重な人物。またチェン自身の人当たりが良いお陰もあり、2人はこの店の常連となっていたのである。

 カイは浮かせていた大量の鉄釘を指定された床に落とす。


「今回も多いな」

「アカが張り切ってくれたお陰ですよ」

「兄ちゃんの方がスゲーぞ!!」

「仲睦まじい兄弟だこって。ほら、今回の報酬だ。少し色付けさせて貰ったぜ」

「毎回本当助かります。ほら、アカもちゃんとお礼言って」

「ありがと、おっちゃん!!」

「ガハハッ!! 気にするこたぁねぇ。っと、そうだカイ」

「何ですか?」


 チェンは大笑いした後、神妙な顔つきでカイに話しかける。


「最近、ここらを伯爵級のヴィランがを縄張りにするなんて噂を聞いてな。目を付けられん内に早めに出たほうが良いかもしれん」

「伯爵級……何でこんなとこに」

「何でも新しい産業に手をつけるんだとか」

「兄ちゃん、()()()()()ってなんだ?」

「あぁ、アカは知らなかったね」


 盗み聞きしたのか、質問するアカ。「聞こえてしまったか、やれやれ」と口にしそうな顔をし、特に嫌がる様子もなく説明を始めた。


「昔、貴族っていう偉い人同士のグループがあってね。男爵、子爵、伯爵ってグループの中でも順番があったんだ。今じゃヴィランの格付けに使われてるけどね」

「? ヴィランはえらいのか?」

「どちらかと言うと、偉さより悪さの順番じゃないかな」

「ふーん。兄ちゃんは物知りだな!!」

「はは、アカには難しかったかな」


 廃れたこの世界では勉強は満足にすることは出来ない。まして、知らない用語なんて言われても理解出来なくて当然だ。


「とにかく巻き込まれないように気を付けるこったな」

「はい、チェンさん。ありがとうございます」

「おっちゃんまたなー!!」

「おう!! 元気でな!!」


 カイは受け取った銅銭を麻袋に入れ、アカを連れ市場の奥へ進んでいく。

 チェンは二人を見送った後、暗い顔で溜め息をついた。


「……全く、本当にクソッたれた世の中だ。子供が好きに遊べねぇのに正義なんて語ってられるか」


 チェンは懐から葉巻を取り出し、口に加え火をつける。ゆらゆらと揺れる煙は晴れない空に伸びていった。




おまけ(設定説明)

カイ12歳、アカ8歳

±1歳くらいの見た目です。

因みにヴィランの階級は腕っぷしよりかは地位的な意味合いの方が強いです。

追記:年齢を変更しました。


感想評価ブクマよろしくお願いいたします。

Twitter→@iu_331

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