諸刃の刃
最近暑いですね。皆さん熱中症にはお気を付けくださいね。
「ハァハァ……!!」
息を切らしながら傭兵の言葉を思い出すアカ。
『じゃあ強化だけ鍛えれば良いじゃん』
『このアホ。相手が強化に加え操作や幻想使ったらコッチが圧倒的に不利だろ』
『あ、そっか』
『大丈夫か、このガキ……まぁいい。要するに____殺るんだったら短期決戦、長引く程テメェが死ぬと思え』
バットを持つ右腕を見れば未だ震えている。ほんの少し強化しただけでこの有様。しかも想定よりも体力が削られていた。
団長が与えた"誰にも邪魔されない圧倒的な力"。それは使用者であるアカでさえ振り回されてしまうモノであった。
(何だこの出鱈目な力……!? 全然言う事を聞かねぇ!!)
幸運にも一撃目でカバのメイスを破壊した今、カバは無自覚者となんら変わらない。しかし、圧倒的不利なこの状況でカバは邪悪に笑う。
「まさか、お前ごときに壊されるたァ驚きだぜェ?」
「カバ、メイスなしでどうする気だ」
「どーするゥ??? コースんだよォ!!!」
天に手を伸ばし、叫ぶ。
「落ちて来い!!!! 俺の相棒ォオオオオオ!!!!!!」
そう言い放った次の瞬間、まるで神が与えた聖剣が如くメイスがカバの足元に降り落ちる。あらかじめ隠してあったメイスを操作したのだろう。
「!? それは、あの時の……!!」
「そう!! カイの野郎をボコしたメイス……そのカイゾー版だ」
「…………兄ちゃん、そうだ兄ちゃんはどうしたんだ!!」
何故忘れていたのか。目の前に居るこの男は自分と兄をバラバラにした張本人。アカは溢れる憎悪を隠しもせずカバを睨み付けるが、当の本人は何処吹く風と聞き流す。
「あ? そんなの俺さまがボコしたに決まってんだろ。アレは面白かったぜェ。アイツ血だらけになりながら『アカぁ、アカぁ』ってなっさけねぇ声出してよォ。はは!! 思い出したら笑えて来たぜェ……!!」
「カバァァァ!!!!」
「ははははは!!!! お前もボコボコにしてやんよォ!!」
運命の悪戯か、因縁を持つ二人はどちらも近距離戦特化__先に音を上げた方が負ける。
「フルスウィングゥ!!!!!!」
「キロバスタァ!!!!!!」
金属バットとメイスがかち合い、火花が散る。総重量100kgは超えているメイスを受け止める度、アカの筋肉が"ブチブチ"音を立てながら千切れていく……が、それでもアカは根性で堪え反撃する。
しかし、その攻撃はあまりにも諸刃の剣。
「ウォゥラァアアア!!!!」
「かはっ……!!」
勝負に負けたのは__アカであった。
力を与えられたとはいえ、それに自分が追い付いていないのだから当然の結果である。超重量のメイス相手に猛攻していたアカの腕はまるで火傷後のように爛れていた。
「もう終わりかァ? もっと俺を楽しませろォ!!」
「ぐふッ!!」
カバの猛攻は止まらず、何もできずただ悪戯に吹き飛ばされる。その事実に、悔しさにアカは息を粗くし力強く噛む。
(クソクソクソッ!! 動け、俺の体!! こんなもんでくたばってんじゃねぇ!! アイツだけは、兄ちゃんを殺したアイツだけは!! 絶対に__)
襲い来る無力感、怒り、そして憎悪。少年が力を望めば望む程、胸の中の黒いドロドロとしたものに心が飲まれていく。
『誰かを殺す力を__』
『誰にも邪魔出来ない、圧倒的な力を__』
『オレに__殺す力をくれェエエエ!!』
頭に響く団長の声。それに答えるかの如く体は軋み骨は砕け肉は裂け……"殺す力"が溢れ出す。まるでそれは命を燃やすよう……だが、それで殺せるのならソレは少年の本望なのだろう。
誰かを救う為でなく、己が復讐の為に殺す__それが■■■なのだから。
(俺は……オレハァアアアア!!!!!!)
「やめてェ!!」
おまけ(設定説明)
「どうしてアカが負けているのか?」。それには色々と理由があるのですが、分かりやすく言えば「対人経験の差」と「新しい力をうまく使えていない」せいです。そもそも力を与えられていなければ互角に戦えもしなかったのでこの結果が妥当だと判断し書きました。
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