オークション会場
次の日。アカはバットケースを背負い、団長、傭兵、使用人の4人はエレベーターに乗っていた。全員スラム街へ行くためローブを被っており、一見誰が誰だか分からない。
使用人はレバーをいつもとは反対側に倒すと、4人を乗せたエレベーターは地上へと昇り始める。
暫くしてガタンと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
「……外だ」
目に入るのは懐かしいゴミの数々、4年前と何ら変わりない景色がそこには広がっていた。どうやらエレベーターの在処をゴミ山で隠していたようだ。
「本当にディダードって地下にあったんだ」
「おい、行くぞ」
「あ、はい!!」
懐かしい思い出から現実に戻される。
アカは気を引き締め、オークション会場へ向かった。
~~~~~
エレベーターの場所から数十分後、4人はオークション近くの市場に入り込んでいた。そこはスラムの市場と違い、綺麗な露店が並んでおり活気に溢れていたのだ。
「ここが、市場……?」
市場を見て度肝を抜かれるアカ。それもそのはず。アカの知る市場は「ボロボロで薄暗い場所」、こんな「明るい場所」ではないのだ。それに、ギャップを受け入れられない理由はそれだけではなかった。
「金も人手もスラムの連中とは違うからな。比べるだけ無駄だ」
「……」
何とも言えない、ドロドロとした重い何かに声を潰される。
(何で活気に溢れているんだ。ここはヴィランが作った市場のはずなのに…………)
何で、こんな奴らが。
口には出していない本当の気持ち。少しずつ、だが確実に"憎悪"はヘドロのように溜まっていた。
その事にアカはまだ気づいていない。
ドロドロとした何かを胸に秘めながら、4人は目的地へと歩き続ける。
~~~~~
「やーっと着いたかァ」
出発から約1時間、ようやく4人はオークション会場に辿り着いた。オークション会場は露店の何倍も大きく、周囲には客と警備の姿が見える。
「あそこが入口のようだな」
「いかがいたしましょう」
「とりあえず裏から侵入するか」
「はいよォ」
「おい、ここは関係者以外立ち入り禁」
「『黙れ』、『そこに立っていろ』」
「____ッ!?」
団長達は構わず裏口に向かう。もちろん裏手にも警備は付けられていたが、男達が警告を言い終えることは無く、直立不動になる。未だ団長の適正道具の能力は不明だが、恐らく動き出すことは無いだろう。
「行くぞ」
4人が進んで行くとそこはオークションの商品が仕舞われている部屋のようで、大量の宝石や道具、水晶などが置かれている。
(……キレイな石だな)
「使用人、取引の帳簿が無いか調べてくれ」
「畏まりました」
(そうだ、俺も何か探さないと……)
「____べ!! グズグズするな!!」
(……誰か居る)
団長達が作業をする中、アカもまた兄に関するヒントが無いか部屋を虱潰しに探していると、奥の部屋から男の叫び声が聞こえて来た。
アカは声のする部屋の前に進み、僅かに空いた扉の隙間を覗き込む。その軽率な行動にアカはすぐさま後悔する事になる。
「何だ…………これ」
部屋にいたのは首輪を付けた人間。
恐怖しているモノ、絶望しているモノ、諦めているモノ____皆、死んだ顔をしている。
そこに居るという事は彼らの正体はただ一つ、"商品"だ。
「こんな、こんなのって……ッ」
ここで「人間が売られているということ」は前々から知っていた。だが「人間を人間の道具にする」という残酷さをアカはちゃんと理解出来ていなかったのである。
嫌悪感に耐えられず扉から離れようとする……が、次の瞬間、バチンッと人の叩かれた音が部屋から聞こえた。音が気になり、思わず振り返ってしまうアカ。
そこには栗色の髪をした少女と庇われている小さな子供が蹲っていた。
「お、お姉ちゃん……」
「これくらい平気よ」
子供に微笑みかける少女にアカの心は大きく揺さぶられる。自分と同い年程度の少女が小さな子供を守っていたからだ。悪意で吐きそうな空間であるにも関わらず誰かを守ろうとするなんて凄いなんてもんじゃない。
「おい、いい加減にしねぇと首のソレ爆発させんぞ!!」
「ッ、分かったからこの子達に手を出さないで」
「それはてめぇらの態度しでぇだな。分かったならとっとと歩けェ!!」
「…………」
その光景をアカはただ眺める。「見ているだけで良いのか」、「止めるべきではないのか」……自分が何をしたいのかが分からない。
(俺は……どうしたら……)
「まさか、助けたいなんて思ってないだろうな?」
「ッ!! ……団長」
いつの間にか背後に居た団長にアカは驚く……いや、それ以上にゾッとした。自分でも分からない気持ちを言い当てられた気がしたから。それ故、団長の問にアカは答える事が出来なかった。
「お前は何しに来た。自分のせいで売り物にされた兄を探しに来たんじゃないのか?」
「それは……分かってます」
団長の言う通り、ここには兄を探しに来たのだ。他のことにかまけている暇はない。それにあそこには金髪の少女が居る、きっと大丈夫だろう。
だから____これはしょうがないことだ。
誰が頼んだ訳でもないのに必死に言い訳を考える。
そして、罪悪感と諦めがアカの胸を締めあげた。
おまけ(設定説明)
奴隷を見て嫌悪するのはアカ君が箱入り娘状態だったからです。
カイに守ってもらい、ディダードで安全に育ったアカは他人の負の感情に慣れていません。
それなのに人間の負の遺産「奴隷」を見ちゃったら、そりゃ嫌悪感くらい抱きますよ。
少女の運命は如何に!! お楽しみに。
モチベアップの感想評価ブクマお願いしま
Twitter→@iu_331