四殺目「死神ちゃんは手を繋ぎたい」
今日は死神ちゃんこと黄泉の服を買いにショッピングモールへ来た。
何故なら、服がゴスロリしかないからだ……。
「あ、これ可愛い♪ お、これも良い♪ 孝杉さん♪ どっちが似合うと思います?」
「あのさ黄泉。俺達は服を買いに来たの分かってる?」
「もちろんろんです!」
「だったらさ……なんで水着選んでる訳?」
「部屋着にしようと思いまして! 今は暖かいですし♪」
「まあ、今は六月だから夏も近いし分かるよ? でもさ、水着が部屋着っていうのは、いささか過激じゃない?」
「別に見るのは孝杉さんだけだし良いじゃないですか~! で、どっちにします?」
「黒のフリフリが付いてる方で」
「はーい♪ じゃあ、次は外で着る服を選びましょう!」
まったく。人の金だと思っていい気なもんだ。
両親の保険金があるから生活には困ってないし、服ぐらいなら買ってやれるが、あんまり無駄使いは申し訳なくて出来ないんだぞ。
「せっかくだからペアで買いましょうよ♪」
「それは恥ずいから無理」
「え~! ペアルックした~い!」
「あんまりわがまま言うとアイス買ってやらんぞ」
「これにします」
「よろしい」
思考回路は子供かよ……。
黄泉はアイスと刑事ドラマが大好きだ。
いつも帰るとアイスを食いながら刑事ドラマの再放送に釘付けになってやがる。
そろそろ働いてもらうか家の事をさせるかしないとな。
「いや~! いっぱい買いましたね!」
「本当だよ! まあ、これだけあれば着まわし出来るから、次の季節まで買わなくて済みそうだけどな」
「はい♪ よーし! じゃあ、ハンバーガー食べてアイス食べて帰りましょう!」
「なんでお前が決めんだよ……まあ良いけど」
「やったー! アイス♪ アイス♪ ハンバーガー♪ そしてアイス♪ アイス♪」
「アイスでハンバーガーを挟むな! 胸焼けするわ!」
そんなこんなでハンバーガーとアイスを食わして帰宅する事にした。
それにしても、黄泉と歩いてるとやたら視線が飛んで来るんだよな。特に男から。ま、可愛いからしょうがないけど……。
「ねえねえ、孝杉さん!」
「ん、なんだよ?」
「私も半分持つんで、手を繋ぎませんか……」
「なっ、そ、そ、それはっっ」
それは恥ずいぞ! というより、女の人と手を繋いだのなんて、昔遊んだ"はとこ"の美優ちゃんぐらいだぞ!
あと、母ちゃん……。
ムリムリ! 意識したら手汗MAXだわっっ。
「いや、荷物重いし俺持ってるよ……」
「そう、ですか……死神の私となんて、繋ぎたくないですよね……」
いや、そういうんじゃないんだよ?
ただ恥ずかしいだけなんだからっっ!
「バ、バス停までなら……」
「うん! それで良いです♪ やったー!」
黄泉に軽い方の荷物を持たせ空いた手と手を繋いだ。
俺もそうだが、ほんのり湿っていた。
こいつも緊張していたのか?
いや、死神がそんな事で緊張する訳ないか。
「なんかこうしてると、デートみたいだな」
俺のそんな一言に、黄泉は意外そうな顔をした。
「へ? デートですよね? 私はそのつもりだったんですが♪」
「そ、そうだな! デートには違いない」
「良かった……」
ホッとしたような余韻を残して黄泉は静かになる。
俺は、黙っていれば可愛いなと、黄泉の横顔を覗いていた。
「知ってます? デートって、最後にちゅーするんですよ」
「タコみたいな唇やめろ」
「え、じゃあどんな口をすれば良いんですか!? もしかして下の口にちゅーするの?」
「せんわボケっ!! どこにもちゅーなんかするか!」
「えー、それじゃデートになりませんよ~」
「手を繋いだだけで十分だろ」
「孝杉さんってピュアですよね」
「やかましい」
「童貞?」
「うん」
「あ、やっぱり」
「いやいやいや! あまりにナチュラルに聞くから返事しただけだし!」
「初体験はいつ?」
「産道を出た時かな」
「ナチュラルに気持ち悪いですよ」
「だよね。うん、ごめん。童貞」
「じゃあ、私が貰っても?」
「あ、うっ……」
言葉に詰まる事聞くなよ。
うん、と答えても良いものか。
その答えはまだ出そうにない。
「まだダメか~! もっと誘惑しないとな~」
「独り言なのそれ」
「あ、バス停着きましたよ」
「あ、うん、そうだな」
バスが来るまで数分程度。
手を繋ぐのはバス停までだと言ったが、その手を離す事が出来なかった。
バスに乗り込み家まで三十分。
一言も話さず、過ぎる景色だけを見ていた。
家について鍵を開ける時に、火照ったその繋がれた手をやっと離した。
「孝杉さん……ありがとう♪」
玄関先で礼を言う黄泉。
自分の部屋に向かうため階段を登っていた俺は、
「なんの礼だ? ああ、服の事か。どういたしまして」
振り返りもせずそう答えた。
「それもありがとうだけど、違いますよ~! ずっと繋いで――」
「あー、腹減った! 今日のご飯はどうすっかなー!」
黄泉の声を遮り二階へ消える俺。
恥ずかしくて先を聞いていられなかった。
「照れ屋さんなんだからー! でも、可愛い♪」
そんな言葉は、聞かなかった事にする。
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