三殺目「死神ちゃんは誘惑したい」
それは、俺と黄泉の奇妙な同棲生活が始まって数日後の事だった。
「あのさっ……」
「あ、おかえりなさ~い」
学校から帰宅すると、俺のTシャツと中学の時の短パンを履いた黄泉がソファの上でポリポリとポテチを食べながら刑事ドラマを見ていた。
「お前ダラけ過ぎ!」
「え~、だって、今は休暇中みたいなものですし~」
「この野郎っっ!」
「孝杉さんもこっち来て一緒に見ましょうよ♪ なんなら膝枕して上げても良いですよ?」
騙されるな孝杉! 確かに胸は大きいし顔も可愛いから誘惑に負けそうになるが、あいつは超馬鹿だ。
そして死神。殺さないと言ってはいたが油断した所を間接的に殺しに来るかもしれん。ここは冷静に!
「来ないんですか? あ、膝枕しながら耳掻きもして上げますよ♪」
「くっ、騙されないぞ! そんな事言って……」
「ん? どうしたんですか後ろ向いて」
俺は気づいてしまった。
Tシャツから透けるあのポッチ。
間違いない。あやつ、ノーブラだ。
「あの~、黄泉さん。もうちょっとしっかりした格好をした方が良いですよ」
「どうしたんですか改まっちゃって」
「いや、せめてあのゴスロリっぽい衣装を着て貰いたいな~と。ほら、黄泉さん死神だし」
「あれは仕事着ですもん。それより、なんで敬語なんです?」
「ではせめて、ブ、ブ、ブラジャーを着けて頂けませんかね……」
「私ノーブラ派なんですよね~。あれ? もしかして孝杉さん……興奮しちゃいました? フッフッフッフッ」
「下卑た笑い方すなっ! 別に興奮なんてしてねーし!」
「ふーん。じゃあ、なんで後ろ向いてるんです?」
「こ、これはっ、その……」
「という事は……こうやって押し付けても興奮しないんですよね?」
あ、ちょ、背中にポッチと柔らかい感触が……。
「あれ~、孝杉さん? そのテントはなんですか? パンパンに膨らんでますけど」
「これはあれだっ、キャンプに行く予行練習だ!」
何言ってんの俺!? 兎に角治まってくれ息子よ!
「へ~、じゃあ、私も入って良いですか?」
「だ、ダメダメ! これは一人用のテントだから!」
「だったら逆に、私の寝袋に入って・み・ま・せ・ん・か……暖かくて……気持ちいいですよ……」
「ひやぁぁっ、ダメェェ……耳に息を吹きかけないで……」
「私にはかけて良いですよ? 真っ白な練乳を……」
「お、お、お母さああああーんっっ!」
バタンッッ。
動揺し過ぎて自分の部屋に逃げてきてしまった……。
なんなんだあの死神!
あれじゃ死神じゃなくてエロ神だ!
きっとこれは、何かの罠に違いないっっ。
威を決した俺は、とりあえずリビングへと戻ってみた。
「ちょ、お前……なんて格好してんだよ!」
「どうです?」
そこには、俺が小学生の時のTシャツと短パンを履いた黄泉がいた。
まさにチビTとチビ短。ぱつぱつのそれは、肌に吸い付き輪郭がよりリアルに映し出されている。
カーブを描く豊満な胸。
先っぽのポッチは、もうボタンみたいなもの。
下は下で紐パンの紐が見えるほどだ。
なんちゅー、けしからん格好だ……。
「お前それ、恥ずかしくないの?」
思わず聞いてしまった俺に、黄泉はニヤリとしていた。
「いいえ♪ だって、ここには私と孝杉さんだけですし……押してみませんか"コレ"」
コレってポッチの事だよな?
うーん、是非とも押してみたい。
いやいやっ! ダメだ絶対!
「早く押して下さいよ~。コレを押したら……色々始まりますよ?」
何が始まるんですか!?
おい、俺の足! 勝手に動くんじゃねぇっ!
「そうそう。こっちだよ~」
「違う! 違うんだ!」
「ほーら、もう少しで押せるよ~」
「やめろ! やめるんだ俺の指!」
ポッチまで後数センチと迫る俺の人差し指。
このままでは、始まってしまうっっ!!
ピンポーンッッ。
「あ、誰か来た……今行きまーす!」
「ちっっ」
あぶねえ~! もう少しで押すとこだった……。
まるで核爆弾のスイッチをチンパンジーの目の前に置いたぐらい緊張したぜ。
「はーい。今開けまーす」
ガチャッ。
「あっ、宅配便です」
宅配のお兄さんから荷物を受け取る。
しかし、やたら重い荷物だな。
送り先は……田舎のじいちゃんばあちゃんだ。
「あ、孝杉さん。それは?」
リビングに戻ると黄泉が興味ありげに聞いてきた。
「あ? ああ、田舎のじいちゃんとばあちゃんからだ」
「確か、孝杉さんのお祖父様とお祖母様は、今は亡きお父様の方ですよね? お母様の方はもう既に亡くなられていますから」
「良く知ってんな。さすが死神って事か」
「ええ♪ これでも死神ですから! リサーチはバッチリです!」
胸を張るな胸を。
ポッチが強調されんだろ。
「それで、その箱の中身は?」
「今開ける――おっ、ジャガイモと人参と玉ねぎだ! これで今夜はカレーが作れるぞ! ありがとう……じいちゃんばあちゃん。また遊びに行くからね」
「やったー♪ カレー食べてみたかったんです! 私、先にお風呂入ってこよー♪」
「いつの間に沸かしたんだよ!?」
「いや~、事が始まるかと思って準備しといたんですけど、失敗しちゃったんで」
「そんな所を念入りに準備すなっ!」
「ま、次の計画があるので良いんですけど♪」
「変な計画立てるなよ……」
「はーい♪」
スキップしながら風呂場へと消える黄泉を横目に、俺はカレー作りに取り掛かった。
カレーと言えば独り暮らしにはありがたい料理。
作るのも簡単で、次の日も食える。
余ったら冷凍しておけるので大変便利な料理だ。
それから暫くして、風呂から上がった黄泉がバスタオル一枚で出てきた。
それも、ギリギリ上と下が見えない感じの絶妙なタオルの巻き方をして……。
「お先に頂きました孝杉さん!」
「あ、ああ……風邪引くから早く着替えろよ」
「孝杉さんも、頂いて良いんですよ? 私の事……」
「要らん要らん! 今はカレー作りで忙しいんだ! さっさと着替えてこい」
「あれ? おかしいな……お風呂上がりはこの格好で出て行けば襲って来るって先輩言ってたのに……」
先輩なんてもん教えてんだ!
そんなもん良いからこいつに常識を教えてくれ!
「よし、こうなったら!」
バサッ。
「おいっ、今タオル取ったのか!?」
「どう思います? 確かめてみて下さいよ……」
気になってしょうがなかったが、俺は絶対に見ないと心に誓いカレー作りに専念した。
「孝杉さん。私も手伝います♪」
「あ? いやいや、だったら早く着替えてこいよ」
「もう着替えてますよ?」
「え?」
俺は思わず振り向いてしまった。
「あ、エプロン着てる……お、お、お前まさかっ!?」
「そのまさかです。好きなんですよね? 男の人は」
それはダメだ。それはズルい。
そんなの、裸より破壊力があるじゃないか!
「裸……エプロン♪」
「おじいちゃんおばあちゃん助けてええええーっっ!!」
俺は遠く離れた祖父母に、来る筈のない助けを求めた。
「よーし♪ 回っちゃおう!」
「ダメだっ! やめてくれ! 俺のライフは、もう『0』なんだああああああーっっ」
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