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宿屋

「宿はどうする? きれいなところがいいんじゃないか?」


 陸斗自身は野宿でも平気だが、女の子はそういうわけにもいかないだろうと気を遣う。


「安いところでいいわよ。お金に余裕ができるまではやむを得ないわ」


 優理の言葉に千尋は小さくうなずく。


「そうか?」


 陸斗は二人がかまわないならと『風に揺れる草』という名の安そうな宿に入って受付でたずねる。


「料金前払い制で、一人一泊小銀貨二枚だよ」


 受付に座ったハゲ頭の男性がぶっきらぼうに答えた。


「これで足りる?」


 陸斗が拾った銀色のコインを見せると、男性は驚いたように見る。


「銀貨五枚と小銀貨十枚か。充分すぎるな。何日分なんだ?」


「ブラッディベアはともかく、ゴブリンとコボルトも意外と金になるのか」


 小銀貨とやらが思っていたよりも価値があることに陸斗は目を丸くした。


「うん? ブラッディベア? お前さん、あれを狩ったのか?」


「ああ、大した強さじゃないだろ?」


 序盤の敵だしとは言わなかったが、受付のおじさんが無表情になる。


「……言ってることが本当ならモンスターギルドに行って、素材を買い取ってもらったほうがいいぞ。そうすりゃ後銀貨数枚くらいにはなるはずだ」


「ありがとう」


 半信半疑という顔をしながらも親切に教えてくれたので、陸斗は礼を言った。


「モンスターギルドとやらに行けばさらに金になるのかな?」


「ちょっと待って」


 優理が彼に待ったをかける。


「換金はすべきだけど、部屋はひとつにしましょう。部屋ひとつだとお値段はいくら?」


「えっと、小銀貨三枚でいいぜ」


 おじさんの答えに彼女は満足そうな顔で陸斗を見た。


「ね? 安定してお金を稼げるまでは出費は抑えましょう」


「お前らはそれでいいのか?」


 ひとつの部屋に男と女が寝るなんて心理的抵抗はないのだろうか。


「ためらう気持ちはあるけど、命には代えられないでしょう」


 陸斗の問いに優理はきっぱりと言う。

 彼が視線を千尋に移すと、彼女はおずおずと口を開く。


「自分でお金を稼げてないですし、出費を抑えるのに賛成です。私だけだったらきついですけど、優理先輩も一緒なので」


 正直な意見だったので陸斗としても受け入れやすかった。


「お前らがいいなら俺は別にいいんだが」

 

 自分一人で稼ぐことに彼は抵抗を持っていなかったが、女子たちはそれが嫌だと言うなら考慮すべきだろう。


「というわけでひと部屋で頼みたい」


「あいよ。二階の205を使いな」


 番号がふられた銀色のカギをおじさんは渡してくれ、


「あんたらモンスター狩りをやるなら、ギルドでそれ用のものを買ったほうがいいんじゃねえか?」


 と助言もくれた。


「わかった」


 陸斗は返事して一度階段をのぼって部屋に行く。


 部屋は一人用らしくベッドは一つしかなく、さらに二人が床で眠るのがやっとな広さしかなかった。


「最初はこんなものでしょうね」


 優理は言ってから陸斗に話しかける。


「とっさの機転、上手かったわね。クマの毛皮も全部銀貨に変わってるのに」


 だから彼らはモンスターギルドに行ったところで追加報酬は発生しない。

 陸斗のあの答えは宿屋のおじさんにそれを隠すための反応だったのだ。


「何をどこまでしゃべっていいかわからないからな。何も言わないのが無難だろうと判断した」


 陸斗はそう言ってから二人に問いかける。


「俺としてはこのまま遺跡に行きたいんだが。銀貨で何が買えるのかわからないしな」


「そうね。銀貨三枚を三万円と仮定した場合、そんなにいい装備は買えないでしょうね」


 優理は彼の考えが理解できると同意した。


「あんな強そうなクマで五万円くらいなんでしょうか……?」


 千尋は憂うつそうな声をあげる。


「俺にしてみれば大した相手じゃないから平気だぞ。何頭も狩らないとお前らのレベルあげができないのが難点だが」


 陸斗はそう返す。

 

「私はメイジ、魔法使いなのだけど使える呪文がないのよね。どこかで覚えなきゃいけないのかしら」


 優理はそう言ってスマホを操作する。

 攻略グループで情報が出ていればと思ったのだが、何もなかった。


「みんなまだ手探り段階みたいね。めぼしい情報がないわ」

 

 優理がため息をつく。


「クマを倒せば銀貨五枚相当になるって言っても、みんなには倒し方を教えなきゃいけないんだろうなぁ」


 と陸斗が言えば彼女は苦笑する。


「たぶんあなたのやり方は他の人には無理よ」


「だろうな。余計なことはやめておくか」


 陸斗はそう返事した。

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