ダゴネットの町
ダゴネットの町は灰色の壁に囲まれた町で、門には番兵が立っている。
「何だ、あんたら?」
警戒するような視線を向けられた陸斗はさて何と言おうかと考えたら、横から優理が口を出す。
「最近アヴァロンに招聘された異邦人です」
「ああ、あんたらがそうか。道理で見慣れない服を着てるわけだ」
彼女の言葉で番兵は警戒心を解いて道を譲ってくれたので、一礼して三人は通過する。
「異邦人って実は馴染みあるのか」
「少なくとも口伝に残っていて、受け入れる風潮があるくらいには一般的だそうよ」
陸斗は意外に思いながら優理の言葉を聞いているが、受け入れる態勢があるならずいぶんと楽になるかもしれないと感じた。
「どうせならレベルあげに適したダンジョンでもあればいいんだが」
と彼は石畳の通りを歩きながら言う。
いちいちモンスターを探して徘徊するより、モンスターが出てくるダンジョンを歩いたほうが効率が良い。
「町で聞いてみましょうか」
優理はそう言って通りがかった中年の女性に聞いている。
「この近くにダンジョンや宿屋はありませんか?」
「宿屋ならここが少し歩いたところに何軒かあるわよ」
金髪の中年女性はそう言って自分が来た道を指さす。
「ダンジョンはそうねえ。南には森があって、東には遺跡があって、北には塔があるわよ」
森とは自分たちが来たところだろうかと陸斗は思い、優理は質問する。
「一番難しいのはどれでしょう?」
「塔じゃない? 最上階に誰もたどり着けないから届かずの塔って呼ばれているのよ。モンスターも他よりも格段に強いらしいわ」
「ありがとうございます」
優理は礼を言って頭をさげて女性と別れた。
「まずは宿をとってそれから東の遺跡でレベル上げか」
陸斗が言うと、
「その前に買い物をお願いします」
優理が言う。
「言いたいことは解るんだが、手持ちの金で買い物できるか? 日本円なんて使えないだろう?」
陸斗は不思議そうに聞き返す。
ゴブリンやコボルトたちは思ったより狩れなかったので、彼らが持つコインには限りがある。
「どれだけお金が必要か把握すれば、狩りの目標に設定できるので」
と優理が返した説明に彼はなるほどとうなずく。
「目標があるのはたしかに良いな」
同意してから二人の少女の格好を見る。
「お前らの装備も買わなきゃいけないし、それがどれくらい必要になるのか把握しておくのはいいな。ついでにどのモンスターがどれくらい金になるのかも」
陸斗は言葉を切って若干の期待を込めて優理を見た。
「計算は得意なほうだと思うわ」
彼が自分に仕事を任せようとしているのに気づき、彼女は受け入れる。
「危険行為は浅草くん頼みになるんだから、それくらいはやらないとね」
「は、はい」
千尋もコクコクと首を振って賛成した。
「お金を稼ぐのは浅草先輩以外もできたほうがいいと思うんです。できればですけど。それなら浅草先輩が怪我しちゃって戦えなくても安心ですし」
陸斗にだけ大変な思いをさせるわけにはいかないという点で二人の気持ちは一致している。
「うん、金を稼ぐ手段が複数あるのはいいだろうな。一つの技、一つの武器に頼るのはよくないってのはうちの流派の教えだしな」
陸斗は師匠の教えを思い出し、今回の件にも応用できると考えた。
もっとも具体的なアイデアについては少女たちに丸投げするつもりだが。
「決まりね。千尋ちゃん、何かアイデアはある?」
「な、何もないです。ただ浅草先輩にお世話になりっぱなしじゃダメだなって思っただけで」
優理の問いに千尋ははにかんで答える。
「練馬はヒーラーなんだろ? だったらヒーラーとしてのレベルをあげてくれたら普通に戦力になると思うよ」
陸斗はそう言った。
「さすがに回復のたぐいは一切できないんでね」
千子村正流は攻撃と防御のみで、傷をいやすのは専門外だった。
「そんなファンタジーな流派じゃなかったんだ」
陸斗が言うと少女たちは苦笑する。
彼女たちからすればすでに彼の強さはファンタジーの領域に到達しているのだが、指摘していいのか迷った。
「それにファンタジーだと魔法攻撃しか通用しない敵だっているだろうし、そんな時は富士見の出番だよ」
「そうね。そのつもりでいるわ」
優理は微笑んで答える。