町を探してみよう
森の入り口まで出て来たところで陸斗は立ち止まって、二人に問いかける。
「どうする? 戻って狩りに行くか? それとも町を探してみるか?」
彼としてはどっちでもよかったので同行者の意見を知りたかった。
「できれば町に行きたいわ。言葉は通じるのか、休めるところはあるのか、物資はどうなのか気になるもの」
まず優理が答える。
「私も……できれば休憩をしたいなって。足を引っ張って申し訳ないのですけど」
罪悪感に満ちた顔で千尋が言ったのは、陸斗が平然としているせいだろう。
「そうだな。休憩するのも腰を落ち着けそうな拠点を探すのも大事だな」
陸斗自身は二人の意見はもっともだとうなずいたが、アロンダイトは違う。
『その意見が人に言われるまで出てこないマスターってやばくないか? おかげで我、助言しそこねたんだが』
魔剣は悪意から黙っていたわけではなく、あまりにも陸斗が問題なさそうだったので必要性を感じていなかったのだ。
「そうか?」
陸斗は首をかしげ、優理と千尋は困った顔をして視線を合わせたものの、声にするのは遠慮する。
「まあいい。アロンダイト、とりあえず町まで案内してくれ」
『無理だな。我が知る頃と景観が明らかに変わっている』
陸斗の指示に対してアロンダイトは即答した。
「何だ、意外と使えないな。この魔剣」
彼は舌打ちしてため息をつく。
『不本意だ! 我は戦闘用の魔剣なんだぞ! 他のことは専門外だ!』
アロンダイトは傷ついた声で抗議する。
「何だかボケとツッコミを見ているみたいね」
優理がそっと感想をこぼし、千尋が「はは」とあいまいに笑った。
「アプリを見てみるわ」
優理はそう言って自分のスマホの画面をタップして操作する。
「現在地から最寄りの町はあっちみたい。『ダゴネット』というそうよ」
「ありがたい」
調べるたぐいが苦手な陸斗にとって彼女はよいパートナーになれるかもしれない。
『ダゴネットの町か。なつかしいな』
アロンダイトがつぶやくと、
「お前、しばらく黙っててくれないか?」
と陸斗は言う。
『ひどい!?』
抗議の声をあげた魔剣に同情するようなまなざしが向けられたので、彼は理由を話すことにした。
「だってお前伝説の魔剣なんだろ。ばれても平気なのか?」
『……我のこと、よい武器だと伝わっている可能性は低いだろうなぁ』
自覚はあったらしく、魔剣は陸斗の言いたいことを理解してため息をつく。
「それじゃ仕方ないわね」
陸斗を非難したそうな顔だった優理も納得する。
「情報交換グループによると青山さんが聖剣に選ばれたみたいよ」
そして彼女は情報を言った。
「へえ」
陸斗にとってどうでもよいことだったので気のない返事になる。
「興味なさそうね」
優理が若干抗議の意思を込めて見つめると、
「誰が聖剣とやらを手にしようと、今日や明日俺たちが生きていけるかという点に関しては影響ないだろう」
陸斗は切り返す。
「それはたしかに……」
優理はもっともだと思ったらしくあっさりと同意する。
「青山先輩がすべてのクエストを達成できるとしても、それまで私たちが生き延びられるかは別問題ですね」
千尋も弱弱しい声で認めた。
「合流できる距離にいるなら、その青山先輩とやらがいる場所まで俺が送ってもかまわないが」
陸斗はそう申し出る。
女子二名がいなくなるのは彼にとって足手まといがいなくなるのと同じだ。
しっかり者らしい優理は残ってフォローしてもらえたらありがたいという気持ちはあるが、無理に引き留めるつもりはない。
「ありがたい提案だけど、どこにいるのかわからないわ」
優理はゆっくりと首を横に振る。
「それに似たような人が他にもいるかもしれないし、青山さんに役立たずの後輩を受け入れる余裕があるとは限らないわ」
彼女は冷静に現実を捉えた発言をした。
「そ、そっか……戦える人、みんなの暮らしを支えられる人が何人いるのかわからないから」
千尋はハッとして彼女が言外に伝えたことを理解する。
「そういう意味で浅草くんにも迷惑をかけちゃうんだけど」
優理はそこで陸斗の様子をうかがった。
「さっき言ったように、戦闘以外の面倒ごとを引き受けてくれるなら俺はかまわないよ」
彼はもう一度言う。
情報収集、現在地確認、買い物、料理、交渉といったことを丸投げできる存在がいれば彼にとってメリットになる。
優理や千尋にしか頼めないというわけではないだけで。