S級美少女たちと情報交換
陸斗が待っていると彼の通っている高校の制服を着た二人の少女が姿を見せる。
「あら、浅草くんだったの」
栗色の髪を肩までまっすぐに伸ばした美少女がホッとした顔になった。
「富士見も来てたのか」
彼女は富士見優理と言って陸斗と同じクラスの女子で、学年一の美人だとぼっちの陸斗ですら耳にしたことがあるルックスである。
隣にいる小柄で童顔な少女について陸斗は知らなかった。
「彼は同じクラスの浅草くんだから心配しなくていいわよ」
「う、うん」
おどおどとした少女は優理の言葉を聞いてようやく安心する。
「浅草くん、こっちは私の幼馴染の練馬千尋さん。学年で言えば一つ下の後輩になるわね」
優理は陸斗に少女のことを紹介した。
「そうか。変なところに飛ばされた者同士よろしくな」
「は、はい」
陸斗があいさつをすると千尋はぺこっと頭をさげる。
「ところでまさかと思うけど、浅草くんが倒したの?」
優理の視線はブラッディベアの死体に向けられた。
ひっと怯えた声は千尋のものだ。
「ああ。意外と弱かったよ」
陸斗が答えると優理の顔が一瞬引きつる。
「そう言えばうわさで浅草くん、剣術か何かやってると聞いたことがあったわね」
「うん。そのおかげで何とかなりそうだよ」
「心強いと言っていいのかしら。とりあえず一緒に行動させてもらえたらうれしいのだけれど」
優理と千尋は遠慮がちな視線を彼に向けた。
「別にいいよ。戦うのは俺がやるから、それ以外の面倒ごとを引き受けてくれるって条件なら」
陸斗は交換条件を持ち出す。
元々戦いに専念したい男なので、優理と千尋が丸投げ先になってくれるなら彼のほうこそありがたい。
(練馬はどうだか知らないが、富士見はたしか成績だって優秀だったはず)
女子人気もあるはずなので、会話術がダメということもないだろう。
これが現地人だったらさすがの陸斗だって多少は警戒したかもしれないが、相手は同じ境遇の日本人、それも同じクラスの女子だ。
「そうね。守ってもらうんだもの、できる限りのことをしたいわ。ね?」
「は、はい」
優理はすぐに引き受けたし、千尋にも異論はないらしい。
「決まりだな」
「その前に少しいい? 安全のために私と千尋ちゃんもレベルあげをしたいのだけれど、手伝ってもらうことはできる?」
優理の確認に陸斗はうなずいた。
「ああ。お前たちにその意思があるなら手伝うよ。何となくだけど、ある程度は強くなっておいたほうが安心だろう」
たしかな根拠なんて何もないのだが、彼の剣士としての勘がそう言っている。
「そうよね」
優理は同意して自分のスマホを取り出して彼に見せた。
「私のジョブはメイジで千尋ちゃんはヒーラーみたいだけど、浅草くんは?」
「アヴェンジャーになってた。よくわからないよな」
「アヴェンジャー?」
優理と千尋に聞き返されても陸斗は黙って肩をすくめる。
そこで優理は視線をクマの死体に向けた。
「ドロップを集めないの? お金にもなるらしいんだけど」
「え、何だそれ?」
陸斗は訳がわからないと聞き返す。
「……浅草くん、もしかしてアプリの攻略グループを見てないんじゃない?」
「存在すら今初めて知ったよ」
優理の問いに対して、陸斗はそんな返事をする。
「そう」
彼女は戦い以外は丸投げしたいと言っていたことを思い出し、かなりのモノグサなのだと判断した。
「グループにはジョブについての考察、敵の倒し方、アイテムの集め方が書かれているわ。みんな手探り状態だし、情報の正確さに期待しすぎないほうがいいでしょうけど、参考になるんじゃないかしら」
「うーん」
陸斗はしぶしぶアプリを起動させて操作し、攻略グループの項目を引っ張り出す。
優理が言ったようにいろいろな情報が項目別に分けられ、少しずつ書き込まれていた。
「俺が知りたいとしたら金の稼ぎ方と街への行き方だな」
と陸斗は言う。
当面困りそうなことはその二つだろうと彼は思うのだ。
「倒したモンスターに触れたらドロップ品とお金に変わるらしいわよ」
優理はそう言うが、自分でやろうとはしない。
陸斗が倒したのだからということだろうと思い、彼は自分で手に触れる。
ブラッディベアの死体は毛皮と銀色のコインへと変わった。
「へえ、こうやって金を稼ぐのか」
そう言ってコインを集めた陸斗は二人に言う。
「せっかくだしもう少し狩っていくがいいか?」
「ええ」
優理は即座に、千尋はおずおずとうなずく。