お前のようなレベル1がいるか
陸斗が歩いていくと前方から小学生高学年くらいのサイズの犬頭の生き物が現れ、彼を見て牙をむき出しにした。
『コボルトだな。妖精の一種だが、奴らは闇に堕ちてモンスター化した存在だ。やれるか?』
「ああ」
魔剣の言葉にうなずいて彼は石を拾って指弾を撃つ。
高速で撃ち出された石はコボルトの頭部を貫通し、赤い雨が降った。
「何だ、弱いな。剣を抜くまでもない。最初の敵だからか?」
陸斗は意外な弱さに首をひねる。
『いやいや、指弾一発で敵を倒すってレベル20くらいはないと無理だろうに……コボルトは強くはないけど、弱くもないんだぞ。本当にマスターはレベル1なの?』
アロンダイトはまず絶句し、次に疑問を浮かべた。
「そのレベルなんだが、レベル20はレベル1の20倍強いってことになるのか?」
陸斗は引っかかっていた部分をたずねる。
『いや、レベルは習熟度を表す指標みたいなものだから、単純に20倍ということにはならないぞ。マスターの場合はすでに普通のレベル1の20倍くらいは強そうなんだが……』
「そういうものなのか」
返答にうなずいて彼は次の獲物を探す。
「剣を使って戦って名をあげたら、有名になってそれで生活できるのか?」
ヒマなので新しく質問をしてみる。
『流派を興すということか? それならできるはずだが、我が知っている時代とどれくらい変わったかが問題だな』
「町とかに行って情報を集めないとダメか」
面倒だなと陸斗は思う。
彼は元々精力的に活動するようなタイプではない。
やりたいことだけやって、他のことは誰かに何とかしてもらいたいと願うダメ人間タイプだ。
「その前にレベル上げとやらをしておくか。強くなっておいて損はないだろ」
陸斗はそう言って歩き出す。
『マスターの場合、レベルアップしてもいいのかという問題があるような……』
魔剣の疑問は無視して彼は剣を抜いて、遭遇した小さな鬼の群れを斬り捨てていく。
人間対異形の戦いというには一方的な蹂躙劇だった。
「弱すぎるな。まあ情報が不足している段階でいきなり強敵と戦わされるよりはマシだが」
陸斗はそう感想を述べる。
強敵と戦いたいという剣士としての欲求と、いきなり面倒はご免だという事なかれ主義の部分が混ざっているのだった。
『ためらいなく殺すとは頼もしいな。サムライだったか? かつてやってきた異邦人もためらいなく命を斬り捨てたらしいが』
「俺らの国にサムライがいたのは相当前なんだが……そう言えばお前は封印されていたんだっけか」
なら時代に空白があっても仕方ないと陸斗は納得する。
『そんなに血しぶきを出していると血の臭いにひかれて獣種がやってくるぞ?』
アロンダイトはそう忠告した。
「血に誘われてくるのが獣なのはこっちでも一緒か。ところで獣に知性があって会話が出てきて、情報を持っているということはないか?」
持っているなら痛めつけて情報を引き出したい。
陸斗がそう話すと、魔剣は呆れた。
『一応戦略をもって動いていたのか。強敵と戦いたくないと言いつつ、獣種を誘うのか? コボルトよりもはるかに強いぞ?』
矛盾しているように感じたのだろうが、陸斗には自覚がある。
「まあ森をうろついてたらそのうち遭遇しそうだからな。獣の一匹ともあわずに抜けられるほど、優しい森って可能性は期待しないほうがよさそうだ」
『一理ある。マスターは馬鹿なのか馬鹿じゃないのかわからんな』
理由を言えば魔剣アロンダイトは理解を示す。
「馬鹿だと思うぞ。少なくとも知恵者とは言えない自覚はある」
陸斗はそう言って剣をかまえた。
そこに一匹の黒いクマのような生き物が姿を見せる。
彼は手刀を作って腕を勢いよく振りぬいて衝撃派を飛ばす。
するとクマの首から上が飛び、血しぶきが舞い、巨大な体が崩れ落ちて地面が揺れる。
「千子村正流、鷹翼斬……どうも体はナマってないようだな」
陸斗は満足そうに自分の手を見た。
『手刀、それも衝撃派でブラッディベアを一撃死って、マスターって人間なの? 本当にレベル1なの?』
アロンダイトから畏怖の声が混ざる。
陸斗のスマホが振動したので、彼は画面を見た。
【レベル2にあがりました】
「お、レベルアップだ」
『レベルアップしちゃったか……』
アロンダイトの声に別の女性の声が重なる。
「あっちから音が聞こえるので行ってみましょう」
「も、もし怖い人だったら?」
二人組らしい少女たち会話に陸斗の意識がそっちに向く。