届かずの塔8
陸斗は八階に行って待っていると青い皮膚に赤い一つ目、棍棒を持った大きな怪物が姿を見せる。
『キュクロプスか……腕力と耐久力に定評があるジャイアントの一種だ。中堅レベルのダンジョンのボスで出てくるレベルだ』
アロンダイトが説明するとキュクロプスは咆哮し、大気がビリビリと震えた。
「なるほど、たしかにワンランク上の迫力がある」
陸斗は肌と本能で敵の手強さを感じ取る。
『ここからは慎重に』
アロンダイトが言うより速く、彼は地を蹴った。
キュクロプスの剛腕が彼の頭を狙って振り下ろされる。
陸斗は薄皮一枚で避け、胸元を狙って斬り上げた。
赤い血が流れるが、キュクロプスはぎょろりと距離をとった彼をにらみつける。
「浅かったか。頑丈さは予想以上だ」
「ガアアアアアッッ!」
『狂暴化した。ずっと強くなるぞ』
魔剣の忠告通り、殴りかかってくるキュクロプスのスピードとパワーは先ほどよりもあがっていて、一撃で床が陥没した。
「大したパワーだな」
陸斗は剣をおさめて居合のかまえをとる。
そして床を蹴って跳躍し、首を狙って居合切りを放つ。
その一閃はキュクロプスの左腕をまず両断し、次に太い首を切断した。
『何だと』
アロンダイトが驚愕の声を漏らす。
「千子村正流・雷閃」
陸斗は魔剣に教える意味で話した。
「とうとう技を出す必要が出て来たか。レベルが高いんだな、この塔」
彼の独り言にアロンダイトはさらに驚愕する。
『マスターは今まで技なしで戦っていたのか? つまり少しも本気じゃなかったのか!?』
「本気じゃないと言えば語弊がある気がするが、間違ってはないな」
陸斗はどう言えば伝わるのか迷い、結局説明は後回しにした。
『うそ……だろう?』
魔剣は驚きや困惑を超えて拒絶するような声を出す。
「うそついてどうするんだよ。おっ、銀貨二十枚か」
陸斗はうれしそうに言ってからぽつりとつけ足す。
「あんまりわりに合ってるようには思えないな」
『たしかにそうだろうが……ダメだ、何から言えばいいのか混乱する』
アロンダイトはまるで悶絶しているような声色を放つ。
「まあいい。九階層へ行こう。キュクロプスよりも強いんだろうか?」
『どうかな? ここまで見るかぎり強さと関係ない順番もあったぞ』
自分の声を聞き流した陸斗に対し、魔剣は律義に応答する。
「そうなのか?」
彼は不思議そうに首をひねった。
彼にとって七階以下の相手は誤差のようなものだった。
『わからない時点でマスターは異常なんだぞ。……我は同じようなことしか言ってない気がしてならないんだが』
アロンダイトはぼやいている。
ツッコミと愚痴しか言ってない現状を魔剣は自覚していた。
「レベル26になったし何とかなるだろう」
『そういう話じゃないんだが、わざとなのか?』
わざなのだが、陸斗は答えず階段をのぼる。
九階にあがった彼の前に姿を見せたのは大きな石像だった。
武器は持っていないが大きく頑丈そうな両拳が備わっている。
『ストーンゴーレムか。ガーゴイルと違って空は飛べないが、その分攻撃力も耐久力も大きく向上している』
「なるほど」
アロンダイトの解説に陸斗は剣を抜いて上段のかまえをとった。
ストーンゴーレムは彼を敵と認め動き出す。
陸斗はなめらかに前進し、ストーンゴーレムの正拳突きを右に避けて、上下に真っ二つに切り裂いた。
『なん……だと……』
切ったアロンダイトが驚愕する。
『何だ、今のは!?』
「千子村正流・鋼断ちだ。鋼鉄を斬る技なので、当然石だって斬れるというわけだ」
陸斗は平然と答えた。
『マスターの国では石を斬るのが普通なのか!?』
「国じゃどうかは知らないが、俺は毎日練習で斬っていた」
ただの日課だと彼は話し、アロンダイトを絶句させる。
『いったいどれだけマスターに驚かされればいいのだろう……』
「何かお前、驚くのが仕事になっているよな」
陸斗がしみじみと言う。
『好きでやっているわけじゃないよ!?』
アロンダイトはたまらず叫ぶ。
まったく緊張感のない一人と一振りだった。
「次は十階だが、そろそろセーブポイントとかほしいな」
『せーぶ?』
彼の言いたいことは魔剣には伝わらなかった。




