届かずの塔4
陸斗は奥の階段をのぼって第二階に着いて、少し待つ。
すると翼のある悪魔を象った石像が出現する。
『ガーゴイルだな。強さ的にはオーガと同じくらいだが、物理攻撃には滅法強いぞ?』
アロンダイトが忠告してきた。
「見た目は石なんだが、実はもっと硬かったりするか?」
陸斗はそう問いかける。
『いや、見た目通りの硬度だぞ。石や岩の強度って知ってるか?』
「知ってる。石や岩なら俺たちの国にもあったし、昔修行で使ったもんだ」
なつかしいなと彼はつぶやいた。
『……うん?』
アロンダイトは聞き間違いかと思う。
次の瞬間、陸斗は一瞬でガーゴイルとの距離を詰めて、その体を真っ二つに切り裂いていた。
「石や鉄くらいは切断できるのが千子村正流のたしなみだ」
『そ、そうか……』
事もなげに陸斗が言い放つのを聞いて、アロンダイトは自分の声がひきつることを自覚する。
『石や鉄を斬るなんて、レベル40くらいじゃないとできないはずだが……マスター相手には今さらすぎるか』
どこまでも常識が通用しない男だと魔剣は思う。
「銀貨七枚か。おまけにレベル14になったぞ。けっこう美味い敵だったが、オーガより本当に強いのか?」
不思議そうに首をひねる陸斗に、アロンダイトは言った。
『スピードはないが、はるかに硬い。それに空も飛べる。オーガより倒すのはずっと難しいはずなんだよ。マスターは誤差扱いしてしまったが』
オーガとガーゴイルの違いを誤差にしてしまうとは、どこまでも非常識な強さである。
「この分だと三階に行ってみてもいいな。みんなのレベル上げ要員になれそうなモンスターが続けて出るかもしれない」
『……マスターに危機感を持てというほうが無理なのか?』
アロンダイトはとうとうそんな疑問を持つまでになってしまう。
陸斗は階段をのぼって三階へと足を踏み入れる。
出現したのは牛の頭と鉄の斧を持った大柄な怪物だった。
『ミノタウロスだな。パワーと耐久力はオーガを超える怪物だ』
アロンダイトが教えてくれる。
「お前がいると攻略情報がいらないから楽だな」
『不本意だけどな! 我は剣なんだ!』
陸斗の感想にアロンダイトは叫びを返す。
剣であることにこだわりがあるらしい。
「ンモオオオオオ!」
ミノタウロスは珍妙な鳴き声をあげながら小走りで距離を詰めてくる。
陸斗は軽快なステップで右に避け、後ろに回り込んで背中から斬りつけた。
一撃で死んだミノタウロスは床に崩れ落ちる。
『マスターは背中から斬りつけるのは卑怯、という感覚はないのか?』
何を思ったのか、魔剣はそう問いかけてきた。
「何を言ってるんだ。背後を取られるほうが悪いだろ。しかも今のは正面からの戦いで、不意打ちしたわけじゃない」
陸斗は答えながらミノタウロスの死体に触れて換金する。
「銀貨十枚にレベル17か……こんなものなのか」
けっこうケチだよなと言いつつ彼は四階にのぼった。
次に出て来たのは紫色の植物モンスターで、毒々しい赤い花を咲かせていた。
『ベラドンナか。こいつは蔓にマヒ毒があり、実と種が腐敗毒というモンスターだ。接近戦の天敵だぞ。安全を考えるなら遠くから倒すしかない。撤退したほうがいいんじゃないか?』
アロンダイトは律義に説明と忠告をおこなう。
「なるほど。じゃあ二人を連れて来れるのは三階層までだな」
陸斗は言って居合のかまえを取る。
そして高速で剣を抜くことで生まれた衝撃派をもってベラドンナの体を粉砕した。
『な、なんだと……』
「千子村正流、砕月。拳法で遠当てがあるなら、剣術であってもいいだろうと開祖が編み出した技だ」
陸斗はそう説明する。
『何を言ってるのかわからん……マスターの国、実は勇者並みに強い奴らだらけなんじゃないのか?』
「俺が一対一で勝てない相手、知らないけどなぁ」
気づいたら師匠よりも強くなっていたし、と陸斗はなつかしむ。
「もっとも世界は広いんだから、俺より強い人がいてもおかしくないと思う」
彼は武術の可能性と世界の広さを純粋に信じていた。
『マスターが勝てない相手が普通の世界にいてたまるかと言いたいんだが……』
アロンダイトは理解したくないという思いを込めて答える。




