集団転移と魔剣アロンダイト
本日2回目の更新
「ん……」
陸斗が目を覚ますと見知らぬ森の中だった。
「え?」
その事実に気づいて慌てて身を起こし、周囲を見回すがあたりは木、木、木である。
一本一本が彼の背よりも高いだろうとは比べなくてもわかった。
そのせいかどうか解らないが、何となく暗い。
上を見ると青く晴れた空が遠く感じられる。
「ここ、どこだよ?」
見た限りだと陸斗は学校の制服を着ていて靴もはいているが、荷物はない。
ズボンや制服のポケットをまさぐると財布とスマホだけは持っている。
「どうなってんだよ」
彼がつぶやいた時、
【みなさん、ようこそ。ここは忘れられた地アヴァロンです】
突然若い女性のソプラノボイスが脳内に響く。
「アヴァロン?」
フィクションではたまに出てくる名前だなと陸斗は思う。
そして同時に「みなさん」という呼びかけ方が気になった。
(俺しかいないなら俺に呼びかけるはずだが、他にも誰か来ていそうだ)
誰が来ているのだろうか。
ぼっちの陸斗でもつき合いそうな人ならいいのだが。
【みなさんはこれからここで暮らしていただき、クエストを達成していただきますが無償とは言いません】
女性ヴォイスはもったいぶるように一度説明を区切る。
【クエストを達成すれば大きな報酬を受けられます。この地で豊かに暮らすことができるでしょう。そして大クエストをすべて達成すれば帰還のゲートが開かれるでしょう】
「帰還のゲート? 帰れるってことか?」
説明を聞いた陸斗は思わずつぶやく。
【みなさんを帰すことは可能です。ここアヴァロンの地はみなさんが地球と呼ぶ星にあるのですから。そして願い事を叶える聖杯もあるのですから】
「何だって?」
思いがけない言葉に彼はぎょっとする。
見たこともない場所にいつの間にか来ていて、さらに摩訶不思議な方法で説明をされているのだ。
てっきりファンタジー小説に登場するような異世界が舞台だと思い込んでいたが、否定されたのである。
【聖剣に選ばれた勇者に期待するといいでしょう。ではよい冒険を】
そう言ってアナウンスは消えた。
「説明がなさすぎだろ、ふざけんな」
陸斗は怒るよりもあきれる気持ちのほうが強い。
衝撃が大きすぎたし、展開を理解しようとすることにエネルギーを使ったせいもある。
「とにかく何とかしなきゃか」
陸斗はぼやくように言って立ち上がるとスマホが振動して通知音が鳴った。
「何だ?」
取り出して画面を見ると「アヴァロン攻略がインストールされました」という表記が出ている。
「はぁ? 勝手にインストールされたのか?」
画面をスクロールして削除を試みるが、
【警告! 22の大クエストが達成されないかぎり、このアプリは削除できません!】
警告のメッセージが表記されると同時に大きなアラームが鳴る。
「22の大クエスト?」
意味がわからないが削除できないのは、この地に自分を連れてきた存在の不思議な力によるものだろうと陸斗は見当をつけた。
「考えたってわからないな。とりあえず何か武器を探すか」
見たところ近くに誰もいないので、いざという時に助けを求められない。
どんな動物が出るのかわからない以上、まずは武装したいところだ。
『聞こえないのか……誰かいないのか』
女性にしては低い声が陸斗の耳に届く。
「誰だ?」
陸斗が声を出すが、女性の声は反応しない。
『聞こえないのか……』
迷ったものの彼は声がするほうへ向かうと決める。
「危険だろうが、そもそも安全な場所なんてあるのかって話だ」
怖気づく自分自身にそう言い聞かせて歩き出す。
陸斗は森の奥へと進んでいき、やがて小さな祠を発見する。
相変わらず女性の声は聞こえてくるので、祠を開けてみると一振りの剣が刺さっていた。
陸斗は魅入られたように柄に手を伸ばして力を込めるとあっさりと抜ける。
『おおお……ついに我を抜く者が現れたか……む? アヴァロンの民ではないようだが?』
黒い刀身が空気に触れ、歓喜の声を漏らした声が急に冷静に問いかけてきた。
「ああ。なんて言えばいいのか。俺はアヴァロンの地に転移してきた人間だよ。正直事情は全然わからない」
会話は通じるのかと疑問に思いつつ陸斗が答えると、
『おお。異邦人か。何にせよ我の新しいマスターには違いない。これからよろしく頼む』
剣らしき声が返事をする。
「ああ。俺は陸斗。お前の名は?」
『我が名はアロンダイト。竜を屠り、聖騎士を討ち、怨讐の魔神と化した者なり』
剣はそう名乗った。