市立天楽坂高校狂騒曲
その日、市立天楽坂高校にいた人間581名は全員地球から忘れられた魔法の島アヴァロンに強制転移させられ、バラバラに投げ出された。
アナウンスを聞いた者たちの大半がパニックになる。
突然知らない場所へと飛ばされたあげく、まともな説明もなかったのだから当然だろう。
もっとも例外も存在した。
浅草陸斗たちがそうだし、勇者に選ばれた青山を中心にしたグループもそうだった。
青山たちはまずは聖剣を使ってモンスターを狩り、地道に資金を稼ぐことを選ぶ。
他のメンバーたちも数に物を言わせて、モンスター退治をしようと考える。
だが、残念ながらすべてが上手くいったわけがない。
「うわぁ! 来るな、来るな!」
一年男子たちは四人がかりでコボルト退治に精を出していたところで、ブラッディベアに遭遇してしまった。
悲鳴をあげながら逃げる二人、しりもちをついて動けない二人に別れる。
「こ、この」
開き直った一人が持っていた武器を投げつけるが、意に介さずブラッディベアは距離を詰めて一人、また一人と血の雨を降らせた。
断末魔の悲鳴が響いて残り二人の恐怖がさらに増す。
うち一人がつまずいて転んでしまう。
「ば、馬鹿野郎!」
一人は叫んだが止まらない。
ブラッディベアはすぐに追いかけてきて、真後ろにまで迫っている。
彼らは知らなかったがブラッディベアの最高速度は馬よりも速く、場合によっては走る馬を捕えてエサにすることもあった。
馬よりも圧倒的に遅い人間など、ブラッディベアにとってはウスノロにしか思えない。
さらに悲鳴が聞こえ、残り一人は失禁しながら走り続けたが、ブラッディベアはゆうゆうと追いつき、惨劇の最後を実行した。
悲劇は一つだけではない。
女子のグループたちはこわごわコボルトを倒したあと、ゴブリンに襲われる。
一体一体は女子よりも弱いゴブリンだが、武器を持ち数が多いとなると話は別だ。
不慣れな戦闘に疲労していた女子たちは格好の獲物だった。
押し倒され衣服を引き裂かれ、のしかかられた女子は一人や二人ではない。
ゴブリンにメスはいないので、人類とカテゴリーされる人間、エルフ、ドワーフ、獣人などのメスを襲って子どもを産ませる。
ある意味人類の天敵と言える種族だ。
そのことを身をもって体験し、泣き叫ぶ女子の数は十や二十ではきかなかった。
集団転移の初日を終える頃、生存している転移者は400名を下回っていた。
もっとも、人の身に悲劇が降りかかるのは何も転移者にかぎった話ではないが。




