初日終了
再び町を歩いて三人は食べもの屋を見つけるが、店内で食べるスペースがなかった。
「もしかして持ち帰り専門店なのかな?」
「みたいね」
「そういう文化なんでしょうか」
陸斗、優理、千尋はまたお互いの顔を見合わせる。
店内で食べる予定が狂ってしまう。
「店内での食事にこだわらなくてもいいんじゃないか。大事なのは味だろうし」
「……まあ贅沢は言えないわね」
陸斗の発言に優理が答えるまで少しの間があった。
店内の雰囲気なども楽しみたかった彼女にしてみれば、楽しみのひとつを失った気分である。
もっともそれが贅沢だという自覚はあったのですぐに気持ちは切り替えられた。
「売ってるのはパン、チーズ、ベーコンか」
「見事に野菜がないわね」
平気そうな陸斗とは違い、優理と千尋は不安そうである。
美容を考えるとバランスをよい食事を心がけたいところだった。
「少しずつ生活環境を整えていく、というのが理想かしらね」
というアイデアをすぐに口にした優理を陸斗は感心する。
「本当にタフな精神の持ち主だな」
学年一のS級美少女なんて評判になるくらいの容姿を持った優理だが、その真価は心にあるのだろうと彼は確信した。
「俺も見習うべきだな」
素晴らしいと思う人が身近にいるなら、手本にしたほうがよいと陸斗は思う。
「何を言っているの。私が落ち着いていられるのは、あなたのおかげでしょう」
そんな彼に好意をこもった笑みを向けつつ、優理は指摘する。
魔剣が「素手で勝つのも低レベルで勝つのもおかしい」と評価するモンスターたちを、まったく意に介さない規格外の強さを誇るのが陸斗だ。
彼がいなければどうやって自分と千尋の安全を確保するかで、彼女の頭はいっぱいになっていただろう。
「そ、そうです。浅草先輩と出会えて私たちは本当に幸運でした」
千尋もこくこくと何度もうなずく。
「そりゃお互い様だな。もっともこんな境遇になったことに感謝していいのかわからないが」
と陸斗は言う。
彼自身は別にアヴァロンに来たことに関してマイナスを感じていないが、少女たちは違うだろうと配慮したのだった。
「あまりうれしくないわね。正直なところ。日本で今は大騒ぎになっているんじゃないか、両親が心配しているんじゃないかって心配だもの」
優理は不安そうに言う。
「ですよね」
千尋は共感する。
(心配してくれる両親がいるのか。うらやましいが、この子たちは元の世界に帰れるようにしないとな)
陸斗は黙って考えていた。
彼のことを心配しそうなのはせいぜい師匠くらいだし、本気で心配してくれるかもわからない。
「剣を持ってさえいればクマだろうか恐竜だろうが勝てるように仕込んだはずだ」
とでも言って周囲の声を笑い飛ばしていそうだ。
「帰りたいならやっぱりクエストの達成をやるべきだろう。青山さんとやらに全部任せたら時間がかかるだろう」
陸斗は二人にそう提案する。
「そうね。私たちでも達成できそうなクエストがあれば、こなしていくのが一番ね」
優理はうなずいて同意した。
「浅草先輩はともかく、私たちで大丈夫でしょうか?」
千尋は不安そうに首をかしげる。
「レベルをあげていけば大丈夫になるだろう。こっちにはスキルもあれば魔法もあるんだから」
陸斗が可能性を提示した。
「そ、そうですね!」
「日本にはなかったものねえ」
千尋と優理は希望を再確認したことで顔色がよくなる。
不安になると見落とすものが出るものだ、という師匠の教えを陸斗はなつかしく思う。
「腹いっぱい飯を食って、今日のところは眠って、また考えよう」
「ええ。お金が貯まればお風呂にも行けるし、装備だって買えるでしょうし、馬だって手に入るかも」
陸斗が呼びかけるように言うと、優理がさらに今後の展望を話す。
頑張ればできることを口にすることで自分を鼓舞しようという狙いだ。
「馬が手に入れば遠くにも行けますよね。他のみんなを探しに行けます」
千尋は二人につられるように言う。
「みんなも同じことを考えてくれたらいいわね」
と優理が答える。
三人は料理をそれぞれ購入して宿に戻って食べた。
そして明日に備えて眠りにつく。
三人の初日はこうして終了した。




