レベルアップ
「ニードルラビット三体で銀貨三枚分か……実入りいいのか微妙だな」
と陸斗がコインを数えてつぶやく。
「序盤としては悪くないと考えましょうよ。ほとんどあなたに倒してもらっている私が言うことじゃないけれど」
優理が慰めるように言う。
「思えば木の棒くらいは買えばよかったかもしれないな」
彼の言葉に優理は首をかしげる。
「そうかしら? 木の棒は折れるリスクがあるでしょう? 石だと壊れない限りは何回でも拾いなおして使えるじゃない」
彼女は石投げのほうが合理的だという考えのようだ。
「富士見はもしかしてサバイバルやキャンプの経験ってあるのか?」
陸斗はふと疑問に思って優理に問いかける。
「いいえ。ないけれど、どうして?」
不思議そうに聞き返す彼女に陸斗は感心した。
「こういうことに向いた考えができるから、実は慣れているのかと思ってね」
「へえ、そうなの」
優理自身はまったく自覚していなかったらしく、彼の発言に目を丸くしている。
「とりあえず安全にニードルラビットを狩り続けるのが無難かな」
陸斗が安全策をとるのは二人の少女のためだ。
彼女たちはそのことを理解し罪悪感にかられつつ、せめて足手まといにはならないと思う。
さらにニードルラビットを狩っていると、三人のスマホが震える。
「お、レベルが3になったか」
「私もレベルアップしたわ」
「私もです」
三人仲よくレベルアップしたようだった。
「何か変化はあるか? 俺は何もないんだが」
「私は【火のつぶて】を覚えたと出たわね」
陸斗の問いに優理が答える。
「私は【祈り】を覚えたみたいです」
千尋もそう報告した。
「へえ、二人とも呪文を覚えたのか。富士見のほうは使ってみてもいいかもしれないな」
「ええ。ようやくちょっとは戦力になれるのかしら?」
優理はあまり喜んでいない。
実際にたしかめてみるまでは慎重な姿勢を崩したくないのだ。
『二人は普通のペースだな』
黙っていたアロンダイトが口を挟む。
「アヴェンジャーってスキルは覚えないのか? それとももっとレベルが必要か?」
陸斗がちょうどいいと魔剣に問いかける。
『……アヴェンジャーはダメージを受けたり死にかけるのが前提のジョブだから、マスターとの相性はかなり悪いと思う』
予想もしなかった返事に彼は一瞬息を飲み、そして舌打ちした。
「つまりお前が疫病神なんじゃないか」
魔剣アロンダイトを装備したことで強制的にアヴェンジャーになったからだ。
『ダ、ダークソードは剣で戦っていればスキルを覚えるし、強いジョブだぞ。アヴェンジャーだってマスターみたいな規格外じゃなかったらちゃんと強いんだぞ!』
アロンダイトは最初言い訳じみた言い方をしていたが、途中から興奮してくる。
魔剣にしても選んだ使い手がまさか素手でモンスターをひと捻りしてしまう規格外の強さを持っているとは、夢にも思わなかったのだ。
「なるほど、そう言えば剣を使う必要を感じなかったら使ってないが、本当なら使ったほうがいいんだろうな」
陸斗は魔剣の言うことにも一理あると考える。
『素手でニードルラビットやブラッディベアを圧倒するって、誰だって想定できるはずがないよ』
アロンダイトはうなだれているような声色で言った。
「剣を使ってニードルラビットを半殺しか……素手でやるよりは難しいな。足を狙うにも低すぎるし」
陸斗はどうするべきか迷ってぶつぶつ言う。
「ニードルラビット以外を探すというのはどう?」
手を挙げて優理が提案する。
「魔法が有効そうなら私が戦ってもいいのだし。私だって戦えるようになっておきたいもの。そのほうが浅草くんの負担も減らせるでしょう?」
「まあ否定はしないが」
陸斗は彼女のやる気に水を差したくなかったので、聞き入れようと思う。
「じゃあニードルラビット以外を探してみるか。そのためにはエリアを移動したほうがいいだろうな」
同じエリアを徘徊し続けた結果、ニードルラビットとばかり遭遇しているので、彼がそう考えたのは自然なことだった。
「一度道を戻って反対の方向へ進んでみましょうか」
優理の発言に陸斗は無言で賛成する。
それが一番堅実な道だろう。




