プロローグ
「覇破波ァッ!」
陸斗は気合とともに五センチある特殊鋼を切断する。
「うむ。さすが陸斗。見事な腕だな」
千子村正流の師範が絶賛した。
「それだけに惜しい。今が太平の世でなければな」
陸斗は一礼して剣をおさめる。
「生まれた時代間違えましたね。学校はつまらないし、ずっと師範と剣を交えていたいですよ」
彼は愚痴をこぼす。
剣を使った戦闘など今の日本であるはずもない。
「我らが千子村正流は応仁の乱の頃に初代村正によって編み出されたと言われているきっすいの戦闘流派。現代になじめるはずもない」
軽く五百回は聞かされた話だが、不満は陸斗もよくわかる。
彼らの剣は現代に浸透している剣道からすればあまりにも荒々しい邪道の剣だった。
「だからと言って何もしないわけにもいかん。『適者生存の理。強いだけの者は滅びると心得よ』が初代の教えだからな」
「上手くいってないですけどね」
陸斗はそう言って自分がいる道場を見回す。
他に誰もいない、すなわち門弟は彼一人だけである。
「実戦重視で荒っぽいのは示現流だって変わらないと思うんですが、あっちは大人気なんですよね。適応能力の差なんでしょうか?」
陸斗は首をひねった。
「あっちはドラマや時代劇の常連だからなぁ……」
師範はうらやましそうにこぼす。
「うちの流派の名前、有名なのは刀匠としてなんですよね。どうしてこうなったのやら」
陸斗は時代の流れの摩訶不思議さに首をひねる。
「宣伝戦略ミスという悲しい可能性が高いので学校に行け」
「関係ないですよね」
陸斗はそう言って刀を師範に返して踵を返す。
「学校なんて行きたくないなぁ。あそこに俺の居場所なんてないのに」
「高校くらいは出ておけ。最低限の金勘定ができないと道場経営だってままならない」
師範の忠告に彼は天をあおいだ。
「世の中ままならないなぁ。強いだけで食っていける世の中で、面倒ごとは全部安心して丸投げできる信頼できるパートナーがいる生活を送りたい人生だった」
「生まれてくるのが四百年ほど遅かったな」
師範の返しは身もふたもなかったが、実感がこもっているのは陸斗の気のせいではないだろう。
師範自身、強さ以外に特にとりえもない男だからだ。
それだけに「俺と同じ失敗するな」という警告は陸斗にとっては説得力がある。
「今の世の中じゃ評価されない落ちこぼれなんですよね。学ぶ流派間違えたかなぁ」
陸斗はそう愚痴りながらカバンを持って道場を後にした。
学校は退屈だし、人間関係は苦痛だし、勉強はしたくない。
それが彼の考えだが、適応しないと生きていくのが厳しいという現実がある。
「せめて何でもあり格闘技の武器部門バージョンがあればなぁ」
陸斗はぼやくが、理由はうっすらと理解していた。
彼自身、武器を取って戦えば相手を殺さない自信がない。
死者が続出になるリスクを想定できるからこそ、興行主もスポンサーも見つからないのだろう。
彼は剣の道を進んでいるが何人死んでもかまわないと思うほど、倫理観は壊れていなかった。
学校に行きクラスに入っても誰も彼に話しかけてこない。
嫌われて排除されているわけではないが、好かれているわけでもない置き物的存在が浅草陸斗という存在だった。
(あーあ、何か刺激的なトラブルでも起きないかなぁ)
授業を聞く気になれず陸斗が窓の外をぼんやりながめていると、黒い靄のようなものが学校の敷地に渦巻いていることに気づく。
(ん? 何だあれは?)
と陸斗が思った瞬間、渦が白く光って彼は意識を失った。




