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はじまりの2
広がった視界に、異形がいるから驚いた。
というのも、住み慣れた家の、見慣れた畳間の、座り慣れた籐家具の座椅子に、得体の知れないなにかがが確かに鎮座しているのだ。
男は膠着した。
異形はこちらを琥珀色の眼でじっと眺め、やがて鋭い爪を生やした指を、下の畳に指して見せた。
異形の指した指につられて、男が視線を落とした先には直径70cmはあろうかという穴が開いていた。
昨日、大の字になって微睡んでいた時には決して開いていなかった穴がだ。
異形はまた、片方の手に持つ白い袋を指差して見せた。男はもはや異形の指示通り視線を運んでいた。
あれは俺のビールだ。冷えたビールだ。
結露で透けた袋から曙ドライのロゴが見える。
それを持っていたはずの手元は、いつのまにか重みを感じなくなっていた。
視線をあげると、男は冷えたビールの自由落下を見た。次の瞬間には、男の全身の細胞が穴に落ち行くビールを救う為に躍動した。
男は穴に吸い込まれ、部屋には昼下がりの静寂が染み込んでいった。