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小さな一生  作者: Black
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理由なき優しさ

デート前半部です。


 しばらくして「彼女」と連絡を取り合う内にお互いに映画が好きだと言うことで、二人で映画を観に行く流れになった。

僕は上手くいきすぎて騙されているのではないかとすら思ったが、そんなことより幸せが込み上げて不安を真っ白に消してしまい、どうでもよくなった。


しかし、ここで問題なのは生まれてこのかた女性との恋愛どころか、女友達もいなかった僕がいきなり本命と遊びに行くなんて、失敗のビジョンしか見えないことだ。


失敗なんてしたくない僕はデートの一週間前に下見をしていた。

ただし、一人ではなく女の子に連れ添ってもらいながら。そうあの友人とである。


 下見をする事になった経緯を一文でまとめると、デートをする事を何処からか聞きつけた友人からお節介を焼かれたと言うに尽きる。


 まず初めに、結論から言えばとても楽しかった。男友達とただ遊ぶのとは違う、その非日常はひたすらに僕の興奮を駆り立てた。

そんな僕にとっての最高の一日を回想していこうと思う。





  その日の朝、緊張する訳ないだのなんだの言っていた僕は目が覚めた時から、ガチガチに緊張していた。それは今まで経験した緊張のどれとも違う気がした。


 緊張しながらも日常の動きというのは体に染み付いているもので、気づけば僕は家を出る準備を終わらせていた。

ただ、いつもと同じような服装は少し気が引けて、いつもより長く服を選んでいたことは、認めるのが悔しい事実である。


 集合場所は「彼女」との都合を考えて家から少し離れた場所の駅に決まっていた。そのため、下見とはいえ、そこに集合するところから始めるべきだと、友人に言われた。


集合時間の30分前に着くための電車に乗ると、そこには友人がいた。

僕に気づいていない様子の友人は、頻りに髪を弄っている。彼女を意識下からなのか、服も前回のような派手なモノでなく、清楚なモノを着ていた。


なぜだろう。


不思議と違和感はなく、どこか落ち着きさえ感じるその友人を見て、僕は少しの間間抜け面を晒していたらしい。こちらに気づいた友人は、挨拶をするよりも先に、顔を一度背けてしまった。

 

肩を震わせる友人を見て、僕は気を引き締め直して近くに行き、自然を装い声をかけようとした。

 

爆笑された。


 電車の中だというのに、人目を惹くほど、人が引くほど友人は笑っていた。

 居たたまれなくなった僕は、一気に近寄り、人差し指を自分の口に当てるジェスチャーをした。

友人は、分かったと何度も頷きながら口角を緩ませていた。

 

電車内の気まずい雰囲気と共に目的の駅まで乗り合わせ、そこで友人の手を取り足早に電車を降りた。

 なんとも表現しづらい雰囲気が流れるかと思ったが、そんな事はなく。

友人はキチンとツッコミを入れてきた。


「どーゆー顔なん!」

 というや否や友人はまた笑みを浮かべ始める。

見惚れていたなんて恥ずかしいことは言えない僕は

「うるせぇっ」

と拗ねた子供のように返事をした。

 そして、友人に対し密かに復讐を誓いつつ、今日は下見に付き合ってくれてありがとう。とお礼を伝え、

「とりあえず、初めの店に向かおうか。」

と、デートの下見を始めた。


 まず初めに向かうのは、どこにでもあるようなファミレスだ。朝飯を食べていない僕のお腹は空いており、何度も鳴っていた。ただそれは僕だけではなかったようで、彼女も一際大きな音を鳴らしていた。

復讐するなら今だ。と思ったが。

希がらしくなく赤い顔で恥ずかしがっていたので、

「俺さ、朝飯食べてないからさ、そこの店についてきてくれない?」と切り出した。

「うん。ありがと。」そう言って笑顔でいう友人を見ていると、なんだか恥ずかしくなって来たので

「なんのことかさっぱりだな。」と、照れ隠しをする僕に

「…うん、ありがと。」聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟いた。


ファミレスに入り、ウェイトレスの案内で席に着く。

お互いに注文をしたあたりから会話が再開された。

「恋バナでもする?」悪戯な笑顔を向けながら、希はそう聞いて来た。

するような話がない僕がどうしたものかと渋っていると、

「まあ、そんな深い話はしないからさ」

と食い下がって来たので仕方なく話に乗る事にした。

「じゃあ、君から話してよ?」


そんなことは想定の範疇で僕は自分の何もない過去の中の搾りかすを話した。

まあ、他愛もない幼稚園の頃の微笑ましい話だった。名前も覚えていないような遠い記憶だが笑顔の似合う女の子と大人になったら結婚しようねという微笑ましい約束だった。

なぜかそのことだけは覚えているのだ。


こんな話をしたらつまらない、と文句を言われると思っていたが、案外好感触だったようでどこか懐かしい笑顔をしていた。少しその笑顔とあの子の笑顔が重なって見えるようだった。

次の友人の話を聞こうと思っていると。

何かを察したのか、「そろそろ行かないと映画始まるかもね」と少し早口に言った。

勿論、そんな詰めた予定にしていないのだからそこまで時間が無いはずがない事ないのは知っていたが。

まあ、いいか。


そこから僕らはファミレスを出て映画館のあるショッピングモールに向かった。






予想ではあと2or3話程度続きます。

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