黒衣の冒険者 その7
「な、ななななな!?」
虎の子のトロールを倒されてヴァラキは狼狽し、咥えていた葉巻を床に落とした。
「···スゲェ」
「···スゴイ」
離れた場所から一部始終を眺めていたシャーリーとアンネも、トモノリの強さに唖然となっていた。
「さぁ~て···」
立ち上がったトモノリは鷹のように鋭い視線をヴァラキに向ける。
「···次は貴方の番ですよ」
「ひ、ひいぃぃぃぃぃ!!」
ヴァラキは情けない悲鳴を挙げ、一目散に逃げ出した。
「···」
しかしトモノリは慌てる様子一つ見せずに、背中に背負っていた刀の鞘を掴むと、逃げるヴァラキに向けて投げつけたのだ。
「ウゲッ!?」
トモノリに刀の鞘を投げつけられ、ヴァラキは屠殺場の豚のような悲鳴を挙げて床にうつ伏せに倒れ、トモノリの刀の鞘の下敷きになったのだった。
同時に、ヴァラキの手から竪琴と小さな長方形の物体が離れ、床に転がった。
「全く···往生際が悪いですよ」
「う、ウルセェ!!」
トモノリに悪態を付きながら、ヴァラキは立ち上がろうとした···だが、
「···あれ?」
ヴァラキは立ち上がる事が出来なかった。
背中に乗ったトモノリの刀の鞘が、ヴァラキの体を床に押さえ付けていた。
「フヌッ!」
ヴァラキは両腕に力を込める。しかし、刀の鞘はびくともせず、ヴァラキは起き上がる事が出来なかった。
「ウオォォォォォォォォォォォ!!!なんなんだよチクショォォォォ!?」
ヴァラキは両腕のみならず、全身の筋肉の力を込める。しかし、いくら力を込めてもトモノリに投げつけられた刀の鞘はピクリとも動かず、ヴァラキは身動き一つ出来なかった。
「···え~っと」
「な、何やってんだアイツ?」
アンネとシャーリーにはヴァラキがどうして立ち上がれないのか検討もつかず、頭上に?を浮かべていた。
「ハァ···ハァ···なんなんだよ?一体···」
いくら力を込めても、刀の鞘はびくともせず、ヴァラキは息を切らした。
「あぁ、貴方にはそれを持ち上げるのは無理ですよ」
「···えっ?」
いつの間にかトモノリはヴァラキの目の前に立っていた。
見下ろすような形でヴァラキを見るトモノリの目には、イタズラを企む子供のような無邪気さが込もっていた。
「だってその鞘···」
トモノリは顔の前で左手の指を3本挙げて言った。
「···竜3頭分の重さがありますからね!」
『ど、竜3頭分!?』
トモノリの発言に、ヴァラキのみならずアンネとシャーリーも目を見開いて驚愕した。
「···ちなみに種類にもよるが、竜1頭の平均的な重さは、約1ズシーンじゃ!」(1ズシーン=1トン)
「···解説しなくて良いよ、フート爺」
律儀に解説するフート爺に、トモノリはため息をついたのだった。
「て、てめえ!そんな重たいモン背負って、あんなに素早く動いてたってのかよ!?」
「ま···そんなとこです」
ヴァラキの叫びにトモノリはなんでもなさそうに答えた。
「さぁ~て···」
トモノリは手にした刀の切っ先をヴァラキに突き付けた。
「ヒィィ!!」
「一応聞いておきますが···遺言は残してありますか?」
ヴァラキを見るトモノリの目には···アクマ族も恐怖で震え上がりそうな殺気が込もっていた。
「あ···あぁ···」
ヴァラキは股間の辺りに水溜まりを作り···そのまま気を失ったのだった。
『トモノリの刀の鞘がドラゴン3頭分の重さがある』っていうのは、小学生の時に読んだ『コロッケ!』というマンガの影響です(* ̄∇ ̄*)