黒衣の冒険者 その4 ※挿し絵あり
2019年初の投稿。短いですが、4話目です。
「ピギィィィィィィィィィィィィ!!」
日が傾いて街が真紅に染まり、豚鳥のいななきがそこかしこで響き渡る頃―
トモノリは聖ルチアーノ神殿を後にして、ギルドへの帰り道を歩いていた。
「ん~・・・」
歩きながらトモノリは、自分の人差し指を口に咥えていた。それも、先程『アンネの唇に当てていた方の人差し指』を、である。
「あぁ・・・アンネさんと間接キスしてしまった・・・」
そう呟くトモノリの顔は幸福の極致にあったが、その頭の上のフート爺は複雑な顔をしていた。
「・・・おい、いい加減止めとけ。明らかに危ない奴じゃぞ」
「えぇ~?良いじゃないのぉ~誰の邪魔にもなってないし~♪エヘヘヘ」
トモノリの目はやに下がり、不気味なくらいのニヤついた笑みを浮かべていた。
その姿は、傍から見たら明らかに不審人物である。
「ハァ~・・・」
そんなトモノリの脳味噌お花畑な姿に、フート爺はただただ深いタメ息をつくしかなかった。
「・・・ところで、報酬はいくらじゃ?というか何じゃった?」
「・・・え?あぁ、それなら・・・」
フート爺に言われて、トモノリは神殿を去り際にアンネから『報酬』として受け取った小さな巾着袋を懐から取り出した。
子供の掌に包めるくらい小さな巾着袋は口の部分が麻紐できつく締められ、揺れるたびにジャラジャラと金属音がなっていた。
紐を解いて巾着袋の口を開けて中を覗き込むと・・・コパー銅貨ばかりが5~60枚近く詰め込まれた中に、5~6枚のジルバ銀貨が入れられていた。
「小銭ばかりか・・・」
仕事の報酬の内容にフート爺はあからさまな悪態をつくものの・・・
「ま・・・まぁ、こんなモンでしょ」
トモノリの方は、苦笑いを浮かべて巾着袋の口を閉じて懐にしまった。
「・・・でも、そう考えるとやっぱりおかしいなぁ」
「『おかしい』?何がじゃ?」
トモノリの何気ない疑問の言葉に、フート爺は目敏く反応した。
「・・・あのヴァラキっていうマフィアだよ」
トモノリは先程までの脳味噌お花畑な姿が嘘のように眼を鋭くする。
「冒険者への報酬に小銭しか出せないくらい貧乏な神殿を、何で目ん玉飛び出るくらいの大金出してまで欲しがるのさ?それも、今までショバ代の取り立てだってしてこなかったっていうのに・・・」
「・・・神殿の方は潰して、残った土地に賭場か娼館でもおっ建てる気なのではないか?ヤクザもんが土地を欲しがるといったら、この2つじゃろう」
フート爺は常識的な返答をするが、トモノリは「それは無いよ」と首を振って否定する。
「もしそうだとしたら、大金叩いてまで平和的に買おうなんてマネしないで、もっと強引なやり方でアンネさんの事を追い出している筈だよ。それに、6万ゴルドなんて大金、どんな大掛かりな賭場や娼館でも1日、2日・・・どころか1年、2年くらいで取り戻せるような額じゃないよ」
「・・・ウム、言われてみれば確かに・・・」
トモノリの意見にフート爺も同意する。
「と、すれば・・・神殿や土地その物よりも・・・何か別の目当てがあるはずだけど・・・それが何なのか・・・」
トモノリは顎に手を当て、「うんうん」と唸りながら頭を捻るが、欠片も見当がつかない・・・その時だった。
「・・・おい、トモノリ」
「・・・ん?何?」
「左、向いて見ろ」
フート爺に促されて、トモノリは左の方に顔を向ける。
そこには・・・
「・・・はいっ!・・・今夜には間違いなくっ!」
いかにも「私は悪人です」と自己主張していそうなくらいガラの悪い男が、公衆用のテレフォンオウル(注:電話の代わりとして使われているフクロウの事)の受話器を手にし、何度も頭を下げていた。
「・・・ん~?」
その男の顔に、トモノリは見覚えがあった。
「あの人・・・さっきの・・・」
その男は先程、聖ルチアーノ神殿でヴァラキの取り巻きの一人としてアンネに掴みかかってきた人物だった。
「・・・はいっ!じゃあその手筈で!・・・はい・・・はい・・・それでは」
会話を終わらせると、男は受話器をテレフォンオウルの頭に戻し、「イヒヒヒヒ・・・」と不気味な笑いを漏らした。
「・・・これでようやく・・・あの神殿の『お宝』が手に入るぞ・・・ヒヒヒ・・・」
「へぇ・・・『お宝』って何のことですか?」
「・・・エッ!?」
男が振り向くと・・・横で話を聞いていたトモノリがまるでゴミでも見るかのような目をして立っていた。
「お・・・お前、さっきの!?」
「・・・覚えていてくれていて幸いです」
それだけ言うと、トモノリは男の襟首を掴んで引き寄せ、殺気を込めて睨みつける。
「ひぃっ!」
「さぁ・・・詳しく話を聞かせてもらいましょうかぁ?」
男を睨みつけるトモノリの目には、怪しい光が灯っていた。
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