黒衣の冒険者 その3 ※挿し絵あり
お待たせしました。3話目です。
[それから30分後]
先程まで何十匹ものナマズネコが我が物顔でのし歩いていた庭園で、今度は小さなたき火が焚かれてナマズネコが丸焼きにされていた。
周囲には肉の焼ける良い匂いが漂い、嗅ぐ者の食欲をそそらせる。
焚き火の上では、先程シャーロットに仕留められたナマズネコが、口から尻の穴に掛けて串を貫通された姿でこんがりと焼かれており、フート爺を被り直したトモノリが焚き火とナマズネコの番をしていた。
「ハァァァァァァ……美味しそうな匂い……」
「全く腹が空いてくるのぉ。まぁ、わしには腹は無いがな」
こんがり焼かれていくナマズネコを眺めながら、トモノリとフート爺は口の端からダラダラと湧水のようにヨダレを流していた。
「トモノリさ~ん!」
「お~い!持ってきたぞ~!」
神殿の方から声がしてきた。
アンネとシャーロットの二人が小皿やフォークや包丁、調味料等を持ってきていたのだ。
「あぁ、どうもありがとうございます。こっちも良く焼けてきたとこです」
「みたいですね。すっごく美味しそうな匂いがします」
「なぁなぁ!早く分けようぜ!腹減ってしょうがないよ!」
「はいはい、ちょっと待って下さいよぉ~♪」
シャーロットに促され、トモノリは鼻歌混じりにナマズネコの丸焼きを包丁で三等分に切り分けていく。
軽く刃を押し当てるだけで肉汁が溢れだし、牛肉とも豚肉とも鶏肉とも違う匂いが鼻をくすぐる。それだけで口の中からヨダレが溢れ、腹の虫がグゥーグゥーと催促してくる。
ナマズネコの肉を切り分け、綺麗に皿に盛りつけると、トモノリはアンネの持ってきたバターを乗せる。
焼き立ての肉に乗せられたバターは、トロリと溶けて肉汁に混ざり、ますます美味しそうな匂いを醸し出していく。
そして、トモノリは頭上のフート爺の中に手を突っ込んで小さなガラス瓶を取り出した。手の中にすっぽり入るくらいの瓶の中には何やら真っ黒い液体が入っていた。
「それって……もしかしてお醤油ですか?」
「えっ?アンネさん、知っているんですか?」
まさかアンネが瓶の中の物を知っているとは思っていなかったトモノリは、驚きの混じった声を出す。
「ジパング皇国のソースですよね?子供の頃、父のお友達から旅行のお土産で頂いた事があるんですよ」
「なるほど……」
話を聞きながらトモノリは瓶の蓋を開けて、ナマズネコの肉に醤油を少しずつかけていく。
バターと醤油、そして肉汁の3つが混ざり合うと貴族御用達の高級レストランの料理にも負けない程の良い匂いが生まれた。
3人の口からは無意識的に大量のヨダレが溢れだしていた。
「うわぁ!すっげぇ美味そう!じゃあ早速……」
シャーロットは我先に皿を取ろうとした……が、トモノリはそれを手で制した。
「まだ駄目ですよ。ちゃんと座って、『いただきます』って言わなきゃ」
「あっ……あぁそっか」
トモノリに言われて、シャーロットは腰を降ろし、アンネもそれに倣う。
そして3人は、皿の上に置かれたナマズネコの肉に向って合掌した。
「大地の恵みとその犠牲に感謝して……」
『天におわします十二人のレジェンド・ヒーローの方々に感謝して……』
『いただきます』
食事の前の祈りを終えた後は、ささやかな昼食会が始まった。
まず一口目を口にしたシャーロットが目を輝かせながら叫んだ。
「うめぇ!!マジうめぇやコレ!」
ナマズなのかネコなのかよく解らない生き物の肉を食べているというのに、シャーロットはまるで生れて初めて超高級料理を食べた子供のように「うめぇ、うめぇ」と連呼していた。
「本当に……モンスターのお肉がこんなに美味しいなんて初めて知りました」
「まぁ……一般の方々はそもそも『モンスターの肉を食べる』なんて発想しませんからね・・・せいぜい食べても豚鳥の肉位でしょうし・・・」
「冒険者の方って、いつもこんな食事しているんですか?」
「いや……『いつも』って訳じゃあ……」
純粋な目で聞いてくるアンネにトモノリはしどろもどろに頬を掻く。
「……平和じゃなぁ」
トモノリの頭の上に被られたフート爺はしみじみと言った感じで呟いた。
しかし……
「エラく楽しそうじゃねぇの」
のどかな午後の一時はそんな一声で終わりを告げた。
三人が振り向くと、チャラチャラしたチンピラ染みた格好をした赤毛の男がぷかぷか葉巻を吹かしながらニヤニヤと笑いながら立っていた。
その後ろには男の取り巻きと思われるガラの悪い男達が5~6人程、金魚の糞のように集まっていた。
チンピラ染みた男の取り巻き達は、揃いも揃ってゴロツキとしか形容のしようのない男達の集まりで、人間の他にリザードマンやゴブリンらしき奴まで混ざっている上に、腰には大振りの剣や連発銃といった武器をぶら下げていた
「よぉ、アンネさん」
チンピラ染みた男はかけていたサングラスを額の方にずらすと、口から葉巻の煙を吐き出しながらニヤニヤと顔に笑みを浮かべた。その目は溝の底のように淀んでいた。
「……またですか、ヴァラキさん」
呼びかけられたアンネは裾を軽くはたきながら立ち上がると、汚いものでもみるような目をチンピラ染みた格好の男に向ける。
「ちょっと、ちょっとぉ~。そんな目で見るの、止め下さいよ~。俺ぁ~これでも穏便に済ませたいんスからぁ~」
チンピラ染みた格好の男―ヴァラキはアンネの視線を軽く受け流し、その顔に薄ら笑いを浮かべる。
「……何度いらっしゃられても、答えは同じです。この神殿をお売りする事はできません。そもそも、この神殿とその土地はエレサロームの教皇庁が所有権を持っており、私はここの管理をしているだけです。私の一存で……それも教団外部の方への売却の是非を決められません。早々にお帰り下さい」
淀みなく言い切ると、アンネはヴァラキに対して深々と一礼した。
「フゥ~……それはもう何度も聞いたッスよ。でもねぇ~、俺もこの土地買わないと、色々とマズイですよぉ~。色々とねぇ……フゥ~」
一方のヴァラキは、そんなアンネの態度にも一向に引き下がる様子を見せず、葉巻をプカプカと吸いつつ、吐き出した煙をわざとらしくアンネの頭に吹きかける。
しかし、煙を吹きつけられているアンネの方は、鬱陶しそうに顔を歪ませるも、そこから一歩も引くことはなかった。
「……オイ」
ヴァラキが葉巻を持っているのと別の手で指をパチンと鳴らすと、後ろに控えていた取り巻き連中の一人が大きな巾着袋を手に持って前に出てきた。
ヴァラキはその取り巻きから巾着袋を受け取ると、袋の口に巻かれた紐を解き、袋の中身をアンネに見せる。
「とりあえずねぇ~……こっちとしてはこのくらい用意できたんですがねぇ~……ダメですかねぇ~?」
「………えっ!!!?」
巾着袋の中身を一瞥したアンネは、目の前の事態が信じられないかのように目を丸くして驚いた。
『?』
横で話を聞いていたトモノリとフート爺、そしてシャーロットはそんなアンネの態度の変化に顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かばせた。
どういうことなのか、気になった二人と一個はアンネの横から同じく巾着袋の中身を覗き込み……
『おおおぉぉぉ……!!!』
すぐにアンネの急変の理由を理解した。
巾着袋の中には、キラキラと輝く新品のゴルド金貨が、『これでもか』と言わんばかりに、ぎゅぎゅうと詰め込まれていたのだ。
10枚・20枚どころの話ではない。目算からして、100枚……いや1000枚以上は入っているかもしれない。
3人と一個が固まっていると、ヴァラキは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。
「ちょうど1袋に付き、ゴルド金貨1000枚、それを10袋で1万ゴルド持ってきてましてぇ~。足りないなら、あと5万ゴルド程、合わせて6万ゴルド出せますが……」
『ろくまっ!!??』
ヴァラキの言葉に3人は絶句する。そんじょそこらの一般庶民には、一生かかっても手に出来ない程の金額を提示されれば誰だってそうなるだろう。
「そ、それだけあれば……王室や貴族御用達の超高級レストランのフルコース料理を丸々3年間は食べられる……」
「森がスッポリ入るくらいの庭付きの屋敷が買えて………御釣りで牧場が買えて……」
「母校に全額寄付すれば……後輩たちにもっと充実した学生生活を送らせる事も……」
トモノリもシャーロットもアンネも突然の話に危ない薬でも飲んでトリップしたかのようなうつろな目となり、口の端からヨダレを垂らしながら思い浮かんだ願望を口に出していた。
「……フフフ」
横で見ていたヴァラキはそんな3人の様子を見て勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていた。
「おぉ~い、お前ら~、しっかりしろ~、正気に戻れ~」
唯一正気だったフート爺が3人に呼びかけるものの、トモノリもシャーロットもアンネもトリップから一向に回復する様子は見えなかった。
「……はぁ」
見かねたフート爺は深くタメ息をつくと……瞬時にトモノリの頭を力の限り締め上げた。
「………イテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテ!!!!!!!」
フート爺に頭を締め付けられた事で、トモノリは一気にトリップから覚め、あまりの痛さによりその場で下手なダンスでも踊るかのようにのた打ち回った。
「……えっ?」
「……あっ?」
そのトモノリの様子にアンネとシャーロットも顔を向ける。しかし、その目はまだ虚ろなままであった。
ある程度トモノリの頭を締め上げると、フート爺はフワリとトモノリの頭から離れて……
「……イタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!!!!!!!!!!!!」
「イデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アンネとシャーロットの頭も力の限り締め上げたのだった。
「……え~っと……」
一方のヴァラキ達は、その様子を眺めながら顔を引き攣らせてドン引いていた。
[数分後]
「……どうじゃ?目ぇ覚めたか?」
『はい……』
「よろしい」
トモノリ達が正気に戻った事を確認したフート爺は、またトモノリの頭に被り直された。
「あ、あのぉ……」
そこで、先程から無視されていたヴァラキが恐る恐るといった感じで声をかけてきた。
「あら、ヴァラキさん。まだ居たんですか?」
「居たよ!なんか変な帽子の所為で話の腰折られたけど、忘れんなよ!」
何だか、色々とグダグダになってしまっていた。
「え~っと……」
改めてアンネはヴァラキに向き直った。
「……本音を言えば……嬉しくないと言えばウソになりますけど……先に申しました通り、いくらお金を積まれましても……」
「……オォ、コラッ!姉ちゃん!!」
煮え切らない態度のアンネに、ヴァラキの取り巻きの一人が額に青筋を浮かべて掴みかかってきた。
「ヒトが下手に出てりゃあ付け上がりやがって!さっさと土地の権利書寄こしやがれってんだよ!!」
「で、ですから……それは……」
アンネはあくまでも気丈に振る舞おうとしていたが、額に青筋を浮かべたガラの悪い男に凄まれた事で、その声は涙交じりになってしまっており、手も震えだしていた。
そこに「まぁまぁまぁ」とトモノリが割って入ってきた。
「良い大人が女の子相手にそんな怖い顔していたらダメですよ。ここは穏便に……」
「ルッセー!てか、さっきから気になってたけど、何なんだよ、テメェーは!?」
「ただのしがない冒険者ですよ。これがその証拠」
そう言ってトモノリはヴァラキの取り巻きに自分の左手首に巻かれた冒険者腕輪を見せる。
側面に着いているボタンを押すと、腕輪表面の画面にはトモノリの顔写真と名前、そして『レベル:74』というトモノリ自身の強さを表す数字が表示される。
「……だから何だってんだよ!関係ねぇ奴は引っ込んでろよ!」
ヴァラキの取り巻きはそう言ってトモノリを払い除けようとしたが……
「はい、ストーップ!そこまでだぜ、兄ちゃん」
脇に居たシャーロットがチンピラの頭に連発銃を突きつけた。
「ヒィッ!」
先程まで強がっていたヴァラキの取り巻きも、頭に銃を突きつけられたことで弱弱しく悲鳴を挙げた。
『……このヤロー!!』
それを見た他のヴァラキの取り巻き達は、切れた様子で武器を手に飛び掛かろうとしたが……それをヴァラキ本人が手で制した。
「……落ち着けってお前ら」
「兄貴………」
「………良いんですかい?」
「まぁ………今の所はな」
そう口にするヴァラキの顔には勝ち誇るかのような笑みが浮かんでいた。
「そんじゃアンネさん、今日のところはお暇しますよ。また来ますよぉ~♪」
そう言ってヴァラキはアンネに背を向けると、安い葉巻の匂いと煙だけを残して取り巻き連中を引き連れて去っていった。
「はぁぁ………」
ヴァラキとその取り巻き連中が居なくなると、アンネは深いタメ息をついて、その場にへたり込んだ。
「あぁ、あの……大丈夫ですか、アンネさん?」
「え、えぇ……ありがとうございます」
心配そうに声を掛けてきたトモノリに、アンネは疲れに塗れた顔でそう答えた。
「ほら、立てよ。飯の続きだ」
「あ、はい……」
差し出されたシャーロットの手に捕まると、アンネは弱弱しく立ち上がった。
「たく………一体なんなんだよ、あのチンピラ臭い野郎は?」
苦々しい表情を浮かべるシャーロットに対して、アンネは頭痛を耐えるかのように目頭を押さえて苦悶の顔を浮かべる。
「……ジョゼフ・ヴァラキ。『カリオストロ・ファミリー』っていうマフィア屋さんのアンダッテオレワ支部長ですよ」
「……え!」
アンネの言葉を耳にし、今度はトモノリが驚きで顔を歪ませた。
「『カリオストロ・ファミリー』って言ったら……オイローパ最大規模のマフィアじゃないですか!こう言ったら失礼かもしれませんけど……なんでそんな大組織のメンバーがこんな田舎町の小さな神殿を、しかもあんな大金を出してまで欲しがるんです?」
トモノリの当然とも言える疑問を受け、アンネは疲れ切ったという風に深いタメ息をついた。
「そんなの……私の方が知りたいですよ……」
椅子に腰かけると、アンネは溜まっていた物を吐き出すかのように、自身の心情を語り出した。
「私がここに配属されて3年間……最初の頃はショバ代の要求すらなくって、完全に無視していたのに……今年の春の月の初めごろから、急に『この神殿を買い取りたい』って言い出して……『私は管理を任されているだけで、教団外部の人には売れない』って何度言っても聞き入れてくれないし……それも、来るたびに袋の中の金貨が10枚、100枚って増えていくし……私は本当にここの管理をしているだけなのに………」
そう口にするアンネの顔は、病気を疑いたくなるほど青くなっていた。
「なんか……本当に辛そうだなぁ……あっ、アタシの分、食うか?」
「あぁ……ありがとうございます……」
シャーロットから肉を一切れ分けてもらうと、アンネはそれを深く味わいながら食べていった。
「私も……この神殿が神学校を卒業してから初めての赴任地なので……なんとか『明日』までは守り通さないと……って思いまして」
「……『明日まで』?何で『明日まで』なんじゃ?」
アンネの呟きに、それまでトモノリの頭の上で話だけ聞いていたフート爺が割り込んできた。それに対して、アンネは嬉しそうに顔を綻ばせながら答えた。
「……実は明日、後任の神官様が赴任してくる事になっているんです。それも、その人は『司教』の位を持つ方なので、きっとヴァラキさん達にはっきり『NO!』って言ってくれる筈なんです。だから、私がここを守るのは明日までという訳なんです」
嬉しそうに告げるアンネの顔には、花のように可愛らしい笑顔が浮かんでいた。
「へぇ~、そりゃあ良かったじゃねぇか。あっ!もしかして……」
何事かに気が付いたらしいシャーロットが自分の依頼用紙を広げる。
「『春の月の35日目までの神殿警備並びに巫女の警護』って……」
「はい、後任の神官様が来るまでの間……って言っても明日までなんですけど……ヴァラキさん達が強硬手段に出ても大丈夫なように、ナマズネコ退治と一緒にギルドに依頼していたんです」
「なるほどなぁ~」
「……えっ?」
アンネの言葉に合点がいったらしいシャーロットに対して、トモノリは納得いかなそうに顔をしかめた。
「あの……僕はここの依頼、一つしか紹介されなかったんですけど……」
「あぁ……そりゃそうだ。ホラ」
シャーロットは自身の依頼用紙をトモノリに見せる。
「……特記事項のところ、見てみろよ。『女性冒険者専用』って書いてあるだろ?」
「えっ?」
言われてトモノリは依頼用紙を見てみると……
「あ……本当だ」
確かに、特記事項欄に『※この依頼は女性冒険者専用です』とはっきりと書かれているのが見て取れたので、トモノリは少し残念そうに項垂れた。そんなトモノリの様子を見て、アンネは苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい。私は巫女なので、依頼を受けるのは冒険者だとは言っても、男の人と一緒というのは少し抵抗があったので……」
「あぁ!いえいえ!僕は別に気にしてなんか……」
アンネに謝られて、トモノリはまたしてもシドロモドロとなった。それを見てシャーロットはニヤニヤと笑っていた。
「しっかしなぁ……こういう時、『黒衣の死神』が居れば、あんなチンピラ共なんかギッタンギッタンにしてくれんのになぁ……」
シャーロットの何気ない呟きに、ナマズネコの肉を頬張っていたトモノリの身体がピクリと震えた。
「黒衣の、死神……ですか?」
「そ!全身黒尽くめの格好して、ドラゴンの大群もあ………っという間に倒しちまう程の実力を持つ凄腕の冒険者・・・近頃、アタシら冒険者の間でかなり名前が知れ渡ってる奴でね。まぁ……かく言うアタシも、ウワサでしか知らないんだけどさ」
「へぇ……」
シャーロットの熱の入った説明に、アンネは思わず感心してしまっていた。
「……」
女子二人が盛り上がっているその横で、トモノリはただ黙々とナマズネコの肉を食べていた。
「そう言えば……」
そこでアンネはトモノリに向き直る。
「『黒尽くめの格好』って言ったら、トモノリさんもそうですよね」
「……ブグゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
アンネの呟きを耳にして、トモノリは盛大にむせ返って口の中の物を思いっきり噴き出してしまった。
「ゲホッ!ゲホッ!」
「と、トモノリさん!?大丈夫ですか!?」
「あぁ、はい……なんかへんなところに入っちゃったみたいで……ゲフゲフ!!」
心配するアンネにトモノリはさも平気そうに言うが、その咳き込みは止まりそうになかった。
「ヒャハハハハハハハハハッ!!」
シャーロットの方は咳き込むトモノリの姿を見て大笑いしていた。
「……いや、確かに『黒尽くめの格好』してっけど、このアンちゃんは違うって。よく見なよ。ドラゴンどころか虫1匹殺せないくらいヒョロヒョロだし、着てる服なんか継ぎ接ぎだらけの古着だし、背中の刀も古道具屋でも扱わねぇくらいボロボロだし、唯一凄いのは頭に喋る帽子被ってる事だけじゃん!」
「あぁ……はいはい……そうでしょうねぇ……」
シャーロットにボロクソに言われて、トモノリはふて腐れるように頭のフート爺を目深に被り直した。
「そうですか?でもさっきナマズネコを……」
と、アンネが先程のトモノリがナマズネコを追い払った時の事を話そうとしたが、トモノリはすかさず人差し指をアンネの口に押し当てた。
「ムグッ」
いきなり口に人差し指を押し当てられてアンネはトモノリに抗議の視線を向けるが、トモノリはアンネと目を合わせると、自分の口の前にもう一方の人差し指を立てて、「しぃ~……」と言いつつウィンクを送った。どうやら、『先程の事は他言無用』と言いたいらしいと察したアンネは、とりあえずコクリと頷いておいた。
「?二人ともどうかしたのか?」
「いいえ何でも」
「そうそう!何でも無いです!何でも!」
慌てて誤魔化すトモノリとアンネにシャーロットは首を傾げるのだった。
感想よろしくお願いします。