第七話 始動
戦いを終え、家に戻る。
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家に帰ってきた。まだ昼飯には早い時間だが、朝飯を食べていないので、もう腹が減っている。自分の部屋から出てリビングに向かうと、割れた食器や調理器具が散乱しており、泥棒に物色されたかのようである。が、そうではないことは分かっている。母さんがやったのだ。俺が約束を破ったからだ。朝飯を食べなかった上に「いってきます」も言わなかった。こんなことをしてしまったのは久しぶりだ。
このままではカップ麺も食べられないので掃除をすることにする。手を切ってしまわないように気を付けなければ。破片を踏んでも大丈夫なように、靴だけは履いておこう。どうせ新品で、外にも出ないのだから、屋内で履いても問題ないはずだ。
机の下には完全に冷めて固くなってしまった食パンがひっくり返っている。食器の破片が刺さっていて、もう二度と食べることはないだろう。食器とともに捨ててしまおう。
大きな破片を片付けたら、あとは掃除機ぐらいはかけておこう。ここまですれば、多分大丈夫だろう。
気づいたらもう2時だ。お腹がすいていたのも、すっかり忘れてしまっていた。それよりも、今日の朝のことを後悔している。遅刻したことではない。正直遅刻なんてどうでもいい。こんなことになるのなら、ちゃんと朝飯を食べて、いつも通り「いってきます」も言ってから出てくるべきだった。ただ今日は、あの化け物の正体を知りたいがために焦ってしまった。そんなことよりも、重大なことを知ってしまったが。
この世界が焼け野原で、今あるもののほとんどはデータを実体化させたもの。信用しようとしたって、なかなかできるもんじゃない。まだあの化け物がウイルスだったってことの方が納得できる。
ピピッ
メールだ。確認してみるか。
ポッドの中に入り、メールを開く。
『鶴川正人様
本日はウイルス討伐、お疲れさまでした。今回は烏丸様の活躍により、新たなウイルスを討伐することができました。ですが、まだ校舎の前には1体目のウイルスが凍結状態で残っております。いきなりのことで混乱していることも多々あるでしょうが、明日も8時30分にデルタ高校グラウンドに集合してください。
よろしくお願いいたします。 』
今日の手柄は烏丸か。まあ手柄がほしいわけでもないが。
掃除を再開する。
そういえば、この世界にある物がデータなら、そのデータはどこに保管されているのだろうか。俺たちはそこにアクセスをして、バーチャルスクールをしているはずだ。さすがにこの世界のデータを保管する容器を、その内部のデータからつくることは不可能なはずだ。戦争で地上のものが失われたなら、地下にありそうなものだな。
腹が減った。飯を食べるか。
「ただいまー。」
「おかえり、母さん。」
「あら、早かったのね。」
「あー、午後の授業はなくなったんだよ。先生が風邪ひいちゃったみたいで。」
「そうなんだね。待ってて、今ごはんつくるから。」
母さんは朝にあったことを忘れてしまっているようだった。俺が朝飯を食べず、「いってきます」も言わなかったことを。それだけじゃない。そのことに腹を立てて、家の中をぐちゃぐちゃにしたことも。
今日のごはんは餃子らしい。いい匂いがする。
他の奴らはテレビとか見て、ニュースを確認しているのだろうか。俺も兵庫の高校のテロに関しては、さすがに知りたいと思う。
「母さん、」
と言ってそれ以上言うのはやめた。もう一度同じ失敗をするつもりか俺は。
「どうしたの?正人。」
「ううん、なんでもない。」
「そうなの。何かあったら相談に乗るからね。」
「あ、うん、わかった。ありがとう。大丈夫。」
寝る支度ができた。今日のことに関しては、あまり深く考えないようにしよう。校長...いや総理大臣が来たときに、また改めて聞けばいいことだ。自分で考えたって、答えは出ない。さっさと寝よう...
目が覚める。今日は起こされていない。いつもよりも早く起きたようだ。時計を見る。7時23分。時間は十分にある。だが...
「正人、起きなさい、朝だよ!」
「ふぁーい。」
「あら、今日は一発で起きるのね。」
「俺だってそういう日もあるよ。」
母さんがちゃんと起こしてくれるから、早く起きなくてもいい。ちゃんと時間に余裕をもって食事などを済ます。今日のパンはまだ焼いたばかりでおいしかった。
「いってきまーす!」
そう言って、自分の部屋に入る。今日は時間があるから、メールでも見返してみるか。
母さんからと学校からのメールしかないが、virtual school以外で、文字を読むことがほとんどない俺は、メールは楽しく文章を読めるもののひとつなのだ。
あっ!!
気づいたときには時計は8時29分を示していた。急いでアクセスしなければ!
アクセス場所をデルタ高校グラウンドに設定!
よし!アクセス!
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「おっはよーございまーす!鶴川正人ログインしましたー!セーフ?アウト?」
「5秒アウトだ。」
「おっかしいなー、今日は早起きしたんだけどなー。」
「早く腕立てをしろ。」
「えっ、もうやらないんじゃ...」
「それは昨日だけだ。」
「マジかよ...」
今日はみんな笑ってくれてる。とはいっても、たった5人だが。居雀は今日いないようだ。もう参加しないのかもしれない。
「さて、No.1のことだが、昨日鶴川が提案したこと...」
「あっ、ちょっと待ってください先生。その前に...」
「どうした鶴川。」
「昨日は和を乱してゴメンな。みんなで協力してこれから戦ってこうぜ!」
「ああ、昨日は鶴川も戦いに参加して活躍したそうだな。ありがとう。」
「そんな...照れるなぁシッチョー。で、せっかくなんだし、チーム名みたいなのを決めるのはどうかな。」
「いいなそれ!」
「だろ?そこで一つ、考えてきたやつがあるんだけど...」
「えっなになに?教えて?」
「ウイルスバスターズ at Virtual Schoolで、UBVSでどうかな?」
「鶴川、ウイルスの頭文字はVだぞ。Virusだ。」
本気で間違えたので恥ずかしくなった。やはり英語は嫌いだ。
「えーっと、じゃあVBVSでいいかな?」
「いいんじゃね?なんかそれっぽいし。」
「異議なーし。」
「よし、じゃあ今日から...えーっとほんとは昨日からだけど...」
みんなで声をそろえる。
「VBVS、始動!」
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次回予告
第八話 作戦




