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第五話 能力

 

「まさか総理大臣が関わっているなんて...」

「関わっているなんてレベルじゃない。主導でやっているんだ。」

「あ、あの...こ、校長先生はそそそ総理大臣だったんですよね...ほ、他の先生たちもみんな、ええ偉いひとだったり、えーっと、その...」


 居雀がババアに聞く。


「そういう人もいる。今日はここに来ていないが、銀町先生なんかも、政府の要人だ。」

「政治家に銀町なんて人聞いたことないですけど...」

「その通りだ、鴨島。彼の本名は銀町ではない。偽名を用いている。誰かは教えられないがな。」

「じゃあ、黒田先生は...」

「私か?私は黄金総理の姪だ。」


「えええええ」

「じゃあ、総理大臣の姪っ子ってこと!?」


 皆が口々に叫ぶ。


「そういうことだ。厚彦おじさんに頼まれてな。会社をやめ、君たちの担任になったのだ。おじさんが頼める人間の中で唯一自由な時間をとることのできる人間だったからな。」

「えっと...白井先生は?」

「私ですか?えーっと、ちょっと言えない仕事をしてます。」

「白井先生のように実際何をしているか隠してる人も多い。ただ、どの人もおじ...黄金総理が信頼を寄せている人物だ。気にしなくていい。」


 銀町先生の正体はあっさりばらしてよかったのか。


「ところで先生!」

「なんだ?鶴川?」

「ウイルスはなんの目的なんですか?どうしてここを襲ったんですか?」

「そのあたりについては私も知らされていないのだ。本当のことは総理と銀町先生しか知らない。」

「え?」

「ただ、あくまで憶測だが、日本の支配を目論んでいるのではないかと思う。」

「それってどういう...」

「このデータそのものを奪うのでは、と思う。なんらかの理由で現実世界の真実を知り、データを奪って現実世界を支配するつもりなのだろう。あくまで予測だが。」


 本当にそうなら幼稚だな全く。そんなことして何になるんだか。


「とにかく、これ以上のことは私たちは知らない。知りたければ、次に総理が来たときか、銀町先生に聞いてくれ。」


「それで、僕たちはどう戦えばいいのでしょうか。」


 おいおいシッチョー、戦う気満々じゃないか。


「本当の自分を出す、それがあなたたちの能力になるの。」

「具体的に教えてください!」

「あなたたちの心に聞いてみたら?私にはわからない。」


 なんで大事なところがうやむやなんだよ。これだからババアは。



 ドォン!!



 !!

 この地震は!まさか!

 振り返ると、新たな化け物が。昨日とは違う、巨大なヘビ見たいな、いや、ミミズか...


「来たか、No.2!

 みんな、私の能力は浮遊。自由自在に空を飛べる。でも、たったそれだけ。戦うことはできない。空から指令を送る。」


 くっそあのババア、開幕から逃げやがってコノヤロウ!そうだ、白井先生や加橙先生は...

 まわりを見渡す。


 いない!

 なんで教師陣は軒並み逃げてんだ!生徒を守ろうとかないのかよ!


「心配しないで、ここはバーチャル、死ぬことはない。昨日あなたたちも体験したでしょ、強制ログアウト。ただし、アカウントが壊れるから、修復に3時間近くかかる。ログアウトは死と同義だと思って!」


 あの野郎、死んでもいいのかダメなのかはっきりしろよ全く。でも本当の自分を出すって一体どういう...


「フハハハハ」


 ん?誰だ?


「ついに、ついにこの時が来たか!」


 烏丸...?

 あいつ、あんなしゃべれたのか...?

 というか、なんか雰囲気おかしくね?


「皆よ聞け!ついに我の本当の力を見せるときが来た!出でよ炎の聖剣!グラン·ブレイズ!」


 訳の分からないことを口にしたと思うと、目の前に燃え盛る剣が現れた。ってええ!?何が起こっているんだ?


「我が炎は神の怒り!この世を破壊するウイルスめ!さあ受けてみろ!


 ブレイズ·ゴッド·スラアァァッシュ!!!     

 」


 ドオオオォォォン


 煙があがる。バーチャルでも煙ってあがるのか。


 煙が晴れる。

 ヘビのウイルス...No.2は完全に真っ二つになった。


「なんだ今の...すげえ!!」


 鴎野が声を出す。


「一人目の能力発動者は、烏丸みたいだな。」


 ババアが降りてきた。


「それにしてもすごい威力だ。烏丸。」

「おいそこの教師。我が名は烏丸などではない。勇者クロウザだ。」

「ありがとう、クロウザ。あなたのおかげで現実世界とバーチャル世界を守ることができた。」

「礼には及ばん。我はそのためにここに呼ばれたのであろう?」


 いちいち話し方がムカつく小物っぽい勇者だ。だが間違いなくアイツは今「勇者」だった。能力ってこういうことなのか?というか、教師たちはこうなることを予測していたのか?


「皆、これが、この世界の『能力』。本当の自分になることができる。烏丸は、普段はほとんど話さない大人しい人。でも、彼の本当の姿は、勇者。」


 本当の姿が勇者ってどういうことだよ。この世界では、こうなるってことか?だとしたら、このバーチャルの世界、何でもアリかよ。


「へへッ、じゃあ俺も。出てこい、スーパーミラクルソード!」


 何も出てこない。


「あれ?」

「鴎野、それはお前の本当の姿ではない。本当の自分自身が、能力になるのだ。」


「あわわわわ。」

「大丈夫か?居雀。」

「せ、先生、わわ私、こんなの無理です!も、もう帰ります。」


 シュン


 居雀はログアウトしてしまった。当たり前だ。むしろ他の奴はよく逃げないな。まあ死んでも平気だし。俺みたいに暇潰しのやつもいるのだろうか。


「先生、つまり烏丸くんは本当の自分自身が勇者だから、今のようなことができた、ということですね。自分でも言っている意味がわかりませんが。」

「烏丸ではないクロウザだ。」

「その通りだ湿鳥。お前も自分自身を見直してみることだな。」


「本当の自分...一体なんだろう。なすびちゃん、わかる?」

「さあ?愛花もわからない?

 っていうか、その呼び方やめてって言ってるでしょ!」

「いいじゃん、一富士二鷹三なすびちゃん♪」

「とにかく、本当の自分を探さないと、僕たちは戦いに参加することすらできない、ということだな。」


 全員なんでこんなやる気なんだ?よし...


「ねぇみんな...こんなのやる必要なくね?そもそも俺たち全然関係ないし。なんなら全部勇者クロウザさんが倒してくれるっしょ。」

「正人、あなた本気で言ってるの?あなたは昨日のテロのニュース見てないからそんなこと言えるんでしょ!正人には心がないの?」

「けんかはやめなさい!あなたたちはこれから協力してウイルスたちを倒していかなきゃいけない。仲間割れしてる場合じゃない。」


「おい、あれ見ろって!まだアイツ倒れてねーぞ!!」


 鴎野の指差すその先には、二体のヘビのウイルス。二鷹が叫ぶ。


「まさかアイツ、分裂するの!?」


「フッ、どんな奴が相手でも、この勇者クロウザがすべて成敗してやろう!!」



今回もお読みいただきありがとうございました。


次回予告 

第六話 勇者

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