第十三話 脱出
約束の時間まであと5分。俺はこの家を出る。
母さんは日曜でもいつも通り出掛けていて、家にはいない。この家にはドアから出るにしてもパスワードが必要だし、窓からも出られない。
ただ、この建物自体はデータの実体化でしかない。だから、データをいじれば、家の壁に穴を開けるなんて簡単なことだ。5分後に、この家の玄関のドアに穴が開き、俺は長かった監禁生活を終える。久々の外の世界だ。
あと4分。
思えば、監禁されてから色々なことがあった。母さんは家中の物を壊し、捨てた。ポッドだけは壊せなかったのは、ポッドだけはデータの実体化ではないらしい。どうやら、データから作られた物でデータにログインすることはできないという話だ。
ポッドにはいい思い出も悪い思い出もある。ポッドを初めて利用したとき、その世界の広さに感動し、さまざまなところを歩いた。当時は、それが楽しくて仕方がなかった。だが、それが母さんにバレたとき、再び俺は母さんに縛られることになった。物理的にも、精神的にも。
あと3分。
Virtual Schoolに通うことができたのは、今でも奇跡だと感じている。普通ならば、母さんが俺がポッドを使うのを許すはずがない。だがある日、家に一通の手紙が届いた。それを見た母さんは、俺に急にVirtual Schoolを薦めてきた。手紙の内容が気になった俺は、後からこっそり見てみた。政府が特別に試験的に導入し、授業料が無料であるどころか、家庭への超高額な援助がついていた。母さんは金に目が眩んだのだろうか。しかし、その後俺の家がお金が増えた様子もなく、暮らしぶりは変わらなかった。
あと2分。
Virtual Schoolに通うことで、俺には居場所ができた。何より、母さん以外の人間と関わることができたのが大きい。俺はそこで、人の笑顔の優しさを思い出した。楽しいという感情を思い出した。だが、それが原因で母さんが再び発狂することが恐ろしく、母さんにそんなことを話すことはできなかった。学校はつまらない、そう思い込むことで、母さんとの暮らしが一番だと自分に言い聞かせた。そのおかげで、なんとか生活はやりくりすることができた。
あと1分。
俺はこのままでいいと思っていた。だが、ウイルスの出現、現実世界の真実、そして自分がその戦いに選ばれたこと、それを聞いたら、なんだかワクワクしてしまいそうだった。そんな気持ちを押し込めて、全く興味ないふりをした。他の仲間は、テロを起こした者に対する怒りがあったのだろうが、俺はそれよりも、楽しさが勝ってしまっていた。そして今、その戦いをきっかけに、束縛された生活から脱出しようとしている。
「5、4、3、2、1...」
目の前のドアに穴が開く。俺は今、監禁生活を解かれたのであった。
穴の向こうに、1台のクルマが見える。そこから、担任のババアがこちらに手を振っている。
俺は思わず駆け出した。家の門を開き、クルマの助手席に乗り込んだ。そして、何を思ったのかババアに抱きついてしまった。
「つらかっただろ?もうお前は自由なんだ。母親に縛られることなんかもうないんだぞ。」
俺は気づいたら涙を流していた。思えば、父さんが家を出ていって以来、母さんと話すことはあっても、母さんに触れたことはなかった。俺は、そのときからずっと人の温もりを感じずに生きてきた。ババアは、本物の母親のように温かかった。
「おいおいそんな小学生みたいにずっと抱きついて...でもまあ、小学生からずっと人と触れあって来なかったのだから、小学生のままの部分があっても仕方ないことだな。」
「母さん...母さん...」
俺はババアのことを母さんと呼んでしまった。俺には、そんな存在がずっと必要だったのかもしれない。
「出発するぞ、そろそろ離れてくれ。」
急に理性が戻り恥ずかしくなった。「早く行けよ」、そう小声で言った。
「これからがお前の新しい生活になる。学校には遅刻せずに来てもらう、というか私が叩き起こす。VBVSの活動も当然してもらう。いいな?」
「朝起きるのは苦手です。」
「わざと遅刻してたんだろ?」
「遅刻はわざとでも起きるのは遅いんで。」
「ぜってー叩き起こす!」
車内そんな会話をして二人で笑いあった。
「ところでババア。気になることがある。」
「なんだ?」
「今回は烏丸の命が狙われた、ということは烏丸がウイルスを倒したのを知っていた、ということだよな。」
「そうだな。」
「だけど、俺は狙われなかった。ウイルス討伐に貢献したにも関わらず。」
「お前はまだ能力発動してなかっただろ。しかも、今回はあのマジシャンのような男が見ていたようだし、学校にウイルスが送り込まれたときにもあの男がいたんじゃないのか?」
「その可能性も確かにあるけど、落とし穴に関しては完全に俺の案だ。そのわりに、あの男は俺のことをよくしらない様子だった気がするんだよ。」
「ほぉ。で、何が言いたい?」
「ババアはずっと戦いに参加しないけど、なぜかって考えたときに、もしかして、何か報告する義務がある?」
「急に話が変わったな。まあお前は勘が鋭い。私はウイルスの状況や討伐の報告を担当することになっている。」
「やっぱり。烏丸がウイルスを倒したなんてメールを入れられるのはあんただけだからね。」
「それで?」
「その報告を聞いた人の中に裏切り者がいるんじゃないかって。まあ、憶測の域をでないけどね。」
「なるほどな。次の報告会で、少し考えてみよう。」
「さあ、ここが新しいお前の家だ。」
「あんまきれいじゃねーな。」
「ふざけるな!住ませてやらんぞ!」
こうして、俺とババアの新たな生活が始まった。ウイルスたちとの戦いはまだまだ続きそうだが、新しく得たこの能力(?)で全部ぶっ飛ばしてやる、そう心に決めた。
まだ戦いは終わってませんが、きりがいいのでここで完結にさせていただきます。
なろうなので異世界転生で書こうと思い立ってのことです。
もし続きの要望なんかがあれば書くかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




