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第十一話 解放

 2体のウイルスが迫る。もう、無理か...


 ドンッ


 愛花が俺を突き飛ばす。


「正人が一番能力発動に近いんでしょ!絶対コイツら倒してよね!」


 そう俺に言い残し、2体のウイルスの同時攻撃にやられ、ログアウトしてしまった。

 本当の自分、能力...一体なんなんだ。俺はどうしたらいい?どうやったら戦える?そもそもなんで戦ってる?俺がやる必要があるのか?どうせならこのままログアウトしても...


「下手をすれば、現実世界の烏丸の家が崩れ、烏丸が死に至ってしまうかもしれない。」


 その言葉が頭をよぎった。中二病の変な奴ではあるが、仲良くなった一人の友、烏丸。烏丸の家が攻撃され、死ぬかもしれない。でもどうしたら?本当の自分って...?


 ウイルスたちが迫る。もう、逃げ場はない。袋の鼠。誰も助けは来ない。


 ううっ、頭が痛い。逃げ場がない状況。思い出したくもないあの時が思い出される...



 -----6年前、鶴川正人10歳-----


「正人は私の言うことだけを聞いていればいいの。あんな奴は正人の父親でもなんでもないんだよ。」

「母さん、やめて。なんで父さんを追い出すようなことしたんだよ!」

「父親なんかじゃないって言ってるでしょ!正人、あなたはねぇ、私がいなくちゃ生きていけないんだよ?わかる?それなのにアイツは、逆に私を正人から遠ざけようとする。アイツはあなたを殺すつもりなの!」

「違うよ母さん!父さんはそんなつもりじゃなかったんだって!僕を殺そうとなんてしてるわけないじゃん!」


 バシッ!


「正人、よく聞きなさい。あなたにはね、私が必要なの。私さえいればいいんだよ。他のものなんて必要ないの。外に出る必要もない。テレビ?ゲーム?そんなのは必要ない。私だけいればいい。あなたは一生、ここで私と一緒に暮らすの。ご飯も私がつくってあげる。勉強だって私がいれば大丈夫よ。だからもう学校なんてくだらない場所はやめて、ずっとこの家にいればいいの。わかった?」


 母さんの顔は今まで見たこともないほど笑顔だった。気持ち悪い笑顔だった。僕は涙が止まらなかった。もうここから逃げることなんてできない。頷くしかなかった。


「そう?ようやく分かってくれたのね?じゃあここにある必要の無いものはすべて捨ててしまいましょうか。」


 そう言って、母さんは家の娯楽になるものはすべて破棄した。書籍、電子機器などのほとんどを。見るも無惨に破壊した。

 父さんの部屋にあったものはすべて破壊し、破棄した。そのときの母は、さらに気持ち悪い笑顔をしていた。

 しかし、一つだけ壊せないものがあった。父の部屋にあった、Virtual School Podと書かれたものだった。材質は分からないが、どんなものでも壊そうとしても壊れず、動きもしなかった。


 母さんとの二人の暮らしでは、いくつかのルールが決められていた。あいさつをすること。体を清潔にすること。ご飯は毎食たべること。

 ルールには決められていなかったが、僕がテレビとかゲームが欲しいなどと発言したら、家の物が壊された。その片付けは、いつも僕がやっていた。朝起きるのが苦手だから目覚まし時計が欲しいと言ったことがある。私が起こさなくていいって言うの?などと言われ、その日は家中の時計が壊された。


 家からは出られない。家中の窓は塞がれ、玄関はパスワードつきの鍵が内側にもつけられた。

 僕の部屋はなかったから、父さんが使っていた部屋が僕の部屋になった。ポッドは初期化されており、自分のデータをつくって母さんのいない間にログインするようになった。


 ある日、僕がポッドを使っていたことがバレた。そのときのことが思い出される。母さんは僕を柱に縛り付け、口をふさいでこう言った。


「正人はね、私以外必要ないって言ったよね?よりによってあんな奴の残した物を使っていいわけないよね?わかる?あなたはね?逃げられないの。ずっと、永遠に...」



 -----現在-----


 頭が...痛い...。

 嫌な思い出がよみがえる。

 No.3が母さんとかぶって見える。お前はもう逃げられない、そう聞こえた。逃げられない、もう終わり...


「絶対コイツら倒してよね!」


 不意に愛花の顔が思い出された。愛花だけじゃない、最近仲良くなった、良介に烏丸。それにクラスの皆。腕立てをしてるときに笑ってた皆の笑顔。そんな自然な笑顔を思い出す。なんで俺は毎回腕立てしてんだっけ...。そうか、俺は好きなんだ。母さんの笑顔とは違う皆の笑顔が、俺は好きだ。こんな訳の分からないが戦いに巻き込まれたけど、実は楽しみにしてたりする。ババアだって、実際は嫌いじゃあない。あれ、ババアの声が聞こえる気がする。どこからだろう?上?あ、そうか、ババアはまだいるんだったな...


「おい鶴川ァ!そこでやられたら腕立て2万回だぞコラァ!」


 は?うるせぇよ。俺は本当は好きで腕立てやってんだ!自然な皆の笑顔が見たい。そのためにやってんだ!それが見れる学校が好きでたまんねぇんだよ!2万回もやる意味あるか!本当は...本当は皆が好きなんだよ!授業はめんどくせぇが、それを含めて学校が楽しくて仕方ないんだ!


 母さんとの時間以外楽しいって思っちゃいけないと思ってた。でもそんなことねぇ!そうは思えねぇ!楽しいものは楽しいんだ!

 体に力が入る。心の底から声が出る。


「腕立て2万回もやるわけねぇだろ!うっせーぞ!ババアアアアァァァァ!」


 ドオオオオォォォォン


 !?

 ウイルス2体が吹き飛んでいる。


「何が...起こったんだ...?」


 体から力が溢れてくる。手に意識を持つと、集中的に力が集まってくる。


 バァン!


 え?爆発した?

 体のあちこちを見るが怪我はない。


 グオオオオォォォォ


 敵が再び襲いかかる。

 これが俺の能力なら...手に力を込めて...


「殴る!」


 バァン!

 ウイルスが吹き飛んだ!

 これが...俺の能力!!


「ようやく気づいたな。あのバカめ。束縛からの『解放』か...」



お読みいただきありがとうございます。

ようやく主人公が強くなりました。やっぱり小説家になろうではもっと早く主人公が強くなった方がよかったのかな、とか思ったりします。


次回予告

第十二話 正直

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