その3 後ろからの一突き
「もうそろそろ、できないシリーズを止めて、本編に専念したらどうなの」
と、家内が宣託を下した。
「はい」
本当は書きたい「桜花改開発秘話編」で娘からかなりのご意見というクレームがついたので、気分を一新して別ジャンルの小説に手を染めてみた。
かなりエッチな問題シーンが登場する小説である。
ダダダダダッと書き始めると、これが意外に好調なのである。
ただ、あえぎ声なんかは発想が貧困なので、類似の小説をノクターンノベルズを読み漁り、あえぎ声辞書を作り、それをヒントに、このシーンではこれ、なんて想像するのも楽しい。
これはいい。絶好調。
約1週間で、文字数で約30000字、なんと原稿用紙にして80枚程度の作品ができた。
やはり、エッチなシーンは情景が思い浮かべやすいし、なにしろ筆者の思うがままに、欲望まる出しにそのまま書くだけで済む。
だいたい4000文字を目安に7話程度に分割し、各話にタイトルを付ける。
番号だけを振る作家さんもかなりおられるようだが、自分はネタバレになってもタイトルは付けたほうがいいと考える派だ。
まあ、7話程度なら簡単にイメージできるのだろうけど、100話にならんとする大作を書かれる作家さんはタイトル付けもさぞかしご苦労なことだと思う。
全体ができたら、あとは通しで読んでチェックをする。
結構、誤字・脱字が結構ある。
判りにくい表現や、勘違いしている設定など矛盾があるところを見つけ訂正する。
校閲という作業だが、これも結構楽しい作業だった。
さあ、仕上がったぞ。
今まで散々コケにしてくれた評論家様のご意見を伺おう、と思ったとき、ハタと気づいた。
内容が内容だけに、娘に見せるわけにもいかない。
潔癖症の娘のことなので、絶対嫌悪感を持つにきまっている。
今でさえ低空飛行の威信やらなにやらが全部吹っ飛び、汚らわしいものを見るような目つきで父を見るに違いない。
エッチ小説はお蔵入りか。
思いあまって、家内に見せてみた。
「まあまあの感じだけど、これは娘には見せられないよ」
おっしゃる通りです。
でも、このエッチ小説を書く体験は大変面白かった。
そこで続編を書こうと思い立った。
この作品が視点、主人公がエッチを企てる男性側だったので、同じ作品をエッチされちゃう側の女性視点で書いてみた。
エッチされちゃう背景をきちんと想定し、作品中ではぼんやりとしていた女性のキャラクターをしっかり立てる。
こんな性格で、どういったところに住んでなどきちんと想定する。
先の作品で、この女性が登場するシーン、男性と交わす会話をトレースしていく。
展開に無理があるシーンや会話もあるが、それをうまく補う心理、心情の揺れや動きを想像していく。
ちょっと都合よく出来上がった女性の性格に随分入れ込んでしまった。
そして、書き始める。
男性側視点の小説を下敷きに、段落毎に女性視点の文章を作り出す。
最初に書かれた男側で雑に描かれた風景に、女性の思いを加えると物語りが流れ始める感じがする。
ところどころ矛盾する会話やシーンも出てくるが、まあご愛嬌と思うことにする。
筆が進んで、最初の男性視点の話が29000文字程度だが、女性視点では31000文字程度の作品ができた。
こりゃ面白い。
しかし、残念なことに、やはり激辛評論家様には見せられない。
しょうがないので、また家内に見せたら、女性編は結構面白いとの評価を頂いた。
同じ話で女性視点編を設けたのは正解だったようだ。
ただ、現在登録しているID、つまり同じ作者名での投稿はご法度とのご宣託。
確かに、今の作者名で投稿すると娘には、エッチ小説を書いてしまったことがバレてしまう。
さあ、どうしようか。
投稿するとすれば、ノクターンノベルの系列なので、作者名は別に設定することができる。
ならば、とりあえず、投稿でもしてみようか。
このままでは、長編の小説は、志とは異なり、なんとノクターンノベルからとなってしまう。
本当にこれでいいんだっけ。
「変な所で迷わず、さっさとなんとかしなさいよ。
グズなんだから」
後ろから一突きされてしまった。