朝議とは
グレイエール王国―――――神聖グレイエールとも呼ばれるこの国は、王政ではない。
祭事を行うのは大神殿であり、政は王と王妃、そしてグレイエール七大貴族が協議制で行っている。
ただ、王妃はすでなく次の王妃を娶らずにいるため現在は次期女王となる王の娘が加わることになっている。
王城の一室、赤い天鵞絨に覆われるその場所で朝議は行われる。
きらびやかに輝くクリスタルのシャンデリアの下には、大きな円卓。その周りにずらりと並ぶ革張りの椅子。
朝議が本来の意味をなさなくなったのはいつからか―――――。
王を中心に宰相ランスロット公爵、将軍フェンデル公爵、エーシャル公爵、ヴィンセント侯爵、キャタピラ伯爵、ジャルダン伯爵、ベルジエル侯爵と次期女王である王女が座るのだが、エーシャル公爵が座るべき椅子にはまだ年若い青年が、王女の椅子にはその王女の夫が代理として座っていた。
「申し訳ありません。ガルネシアは体調がすぐれないと申しまして。」
夫であるギルバードが王に向かって告げる。その瞬間、王と宰相は深々と溜息をついた。
「嘘はいい。」
短く答える王の表情は硬く、諦めの色が浮かんでいる。そのことにその場にいた全てが気づくが問う声はない。身内に悩みを抱えているのは、自分達も同じだからである。
「ギルバード様はお変わりなく、健やかでよろしいですな。」
グレイエール王国の南方の多くを治めるベルジエル侯爵の言葉にギルバードは微笑んだ。一部の人間に天使の微笑みを称される笑みにただ一人眉をしかめ、眉間に皺を強く刻む宰相、ランスロット公爵。ギルバードの父親である彼は日々、王女と縁があった我が子のことで心を痛めていた。
「健やかなのはガルネシアだろ。じゃなきゃ、笑っていられないよな。」
「羨ましいですな、、、、。」
将軍、フェンデル公爵とそして、北方を中心に治めるキャタピラ伯爵の言葉が重なった。二人の悩みの種は息子である。元気すぎるのと、引きこもりすぎるという正反対の内容ではあったが。
「、、、、、帰ります。」
このところ、表面化では動きがないので朝議の話題はほぼなく、王との拝謁のみであるため一番年若い青年は途中退席するのが恒例であった。
「クォーセス、僕もそこまでいくよ。」
いつもは最後まで残るギルバードと連れ立って、青年クォーセスはその場を後にする。当代エーシャル公爵はもう何年も表舞台に姿を見せておらず、その理由もまた公にはされていない。そのため代理と称し、実質エーシャルの役割を引き継いでいるのが、その息子クォーセスである。
「エーシャルが絶えてしまうかと思ったが、なかなかやりますな。」
「当代と違って次代は有能のようですからね、宰相。」
西方を治めるヴィンセント侯爵と東方の要塞を守るジャンダル伯爵が相次いで話すと宰相が言葉を続ける。
「神殿からの要求もよく汲み、本来のエーシャルの役割をこなしていると聞く。ほどなく、舞姫も育つと報告を受けている。神殿の不満が最小のものであるのは彼の采であるな。」
「何を考えてるか読めぬところは相変わらずだがな、、、。」
「エーシャルとは本来そうであるべきだ。」
「当代はその辺ダダ漏れな性質だったしな、クォーセスは苦労してたぜ?」
「それよりも、、、なぜギルバードは一緒に退室を?またよからぬことを考えているのではないと気が気でないわ。」
クォーセスの話題よりも問題だというように宰相が眉間のしわをさらに刻む。
「考えすぎではないか?ギルバードはいい奴ではないか。」
「甘いです。あの二人が揃うと碌なことをしない。周りも止められん。」
――――――それもそうか。あの二人は確かに。
王の言葉に重ねるように言う宰相の言葉に、誰もが思った。自分たちの悩みの種と含め、頭を抱えた。
グレイエール王国のトップに君臨する王とその側近たちの一番の頭痛の種は、国外の情勢でも、国内の情勢でもなく、それぞれ大いなる悩みの元凶でもある次期女王とその側近になるであろう我が子の言動である。
毎回それを言及しては、お互い慰め励ましあうのがグレイエール王国の朝議となっている。
この国、、、、大丈夫かなぁと思う今日この頃、、、、






