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第三話 うろの揺り篭学園

無人駅を出ると、そこは寂れた村だった。

木造の瓦屋根やろくに舗装されていない道路が駅から山の方まで続いている。

人の気配もまるで無く、ここが数時間後にダムの底に沈むと聞かされても納得できる。


だが紛れもなく、ここに俺たちの学び舎が在る。


事前に連絡を入れていた事もあり、学校からの迎えの車が数分経って現れた。

車に揺られる事30分。

学校は、山間の開けた平地に広々と存在していた。


校門は長方形に切り出された石を二つ立てているだけの簡素な物で、塀や柵などは一切無い。

強いて言えば、敷地を取り囲む鬱蒼とした森が自然の柵と言えるか。

セキュリティ上、敷居を必要とする東京のイメージからかけ離れた印象に驚く。


そして敷地に建つ校舎には更に驚かされる。

昭和の前期もしくは中期頃には現存していたであろう、焦げ茶色の木と白の漆喰で出来た木造校舎が横に長々と横たわっていた。

廃坑になるか、建て替え等で木造校舎が実際に使われているケースは全国でも稀だというが、ここはその例外の一か所なのだろう。


校門には【うろの揺り篭学園】と書かれている。


「……兄さん、本当にここなの?」

「そうさ、今日からここが俺たちの学び舎だ」

「……最悪」


綾瀬が吐き捨てる様に言うので、申し訳ない気持ちで一杯になった。


校舎内に俺たちは入ったが、そこでも人の気配はしなかった。

本来なら聞こえてくる筈の生徒同士の喧噪はそこに無く、人の気配は廊下に立って見渡しても感じない。

運転手に校長室へ案内されると、そこでようやく、俺たちと顔立ちの似た女性に会った。


「遠いところよく来たわね。うろの揺り篭学園へようこそ」

「お久しぶりです、朝霞あさかさん」

「最後に会ったのはあなた達が小学生の時かしら」

「はい。正月に帰省した時以来ですね」


彼女は舎人朝霞。父さんの妹で、25歳でありながら学校の校長を務めている。

白と青のワンピースというラフな格好をしており、都会の学校で見たスーツ姿の校長とは漂う雰囲気が違って、随分と親しみやすい。


「こんな時期に俺たちの転入を許して下さり、ありがとうございます」

「いいのよ。それよりも私の方こそ、こんな寂れた村の学校なんかで良かったの?」

「はい。俺たちには、あの家と比べたらここはとても住みよい場所だと思います」

「……事情はおおよそ把握してるから、安心して。綾瀬ちゃんも、私の事は先生兼お母さんと思って大丈夫だからね」

「いらないです、そんな気遣い」

「綾瀬、そんな言い方は失礼だろ」

「……」

「まあまあ、気にしないで。それよりも疲れているでしょう? 何も無い所だけど、お風呂に入ってゆっくり休んで、明日からこの学校について案内しましょうか」

「はい。お願いします」


校長室を後にした俺たちは、運転手に案内されて、今日の宿泊場所に案内される事となった。

ちなみにこの運転手はこの学校ただ一人の用務員で、この学校の職員は現在この人と朝霞さんの二人だけだという。


学校は今、夏休み期間に入っている。

俺たちは、これから一か月と少しの間、10人にも満たない環境の中で生活していく事になる。


聞いた事の無い少年の声が聞こえる。


「ようやく来たね。君の命は後ひと月だ」




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