第二話 兄さんは一生気が付かないよ
街から東海道本線で4時間。ローカル線で待ち時間含めて6時間。
始発で出発して、車窓から見る夕日は深い山々に影を落としている。
二両編成のワンマン電車に俺たち以外の客は居ない。
差し込む橙色の夕日に照らされた緑色のボックス席と携帯を弄る妹を眺めている内に、不安になって口を開く。
「不安じゃないか?」
妹は顔を上げる。
「私が? 何で?」
「一緒にこんな辺境へ転入した事、本心はどう思ってる?」
「別に。あの家、そろそろ出ようかなって思ってたから」
「そうか。何かあったら言えよ。兄ちゃんは何時でも綾瀬の味方だから」
「キモい。この歳になってそれは無いわー」
「……」
妹が何を考えているのかは何時も分からない。もしかしたらあまり考えてないのかもしれない。
でも少なくとも、家や両親の後を引く思いが残っていなさそうなのは安心した。
「……父さんと母さんから、今まで何をされてきたんだ?」
「別に。ただストレス発散に怒鳴られて怒られて殴られてた」
やっぱり。以前からそうだったんだ。
何で俺は気がつかなかったのか。鈍感なのか、俺は。
「気づいてやれなくてごめん」
「別に。理不尽な事にはちゃんと言い返してたし、嫌なことは自分で何とかできるし」
「そうか。強いんだな、綾瀬は」
「……別に」
綾瀬はつまらなそうにため息をつくと、窓枠に頬杖をついた。
そんな綾瀬に、ただ一言。
「人って、何で本当に理解したい事に対して、気付かないんだろうな」
「……そんな理由、兄さんは一生気が付かないよ」
終着駅に着くまでの間、沈黙は続いた。