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第十一話 この先も楽しい事はいっぱいありますよね?

夕方になって、ネイスは起きた。

何時も通り朝に眠り、日没と共に起きた様に、自然に振舞っていた。

肌もチクチクするだけで、全然痛くないから気にしないでと俺達に言った。


けれど俺は朝霞さんから聞いている。

彼女の肌は一週間かけて治癒していく事になる。

つまり彼女の痛みは、これから一週間かけて彼女を苦しめる。


痛みが無いワケがない。

彼女の皮膚は未だに生々しい日焼け後を残し、俺にその惨たらしい傷を見せつけてくるのである。


俺は日中ずっと彼女の側で看病をしていたけれど、起きた途端、彼女から遠ざかる様になってしまった。

どうやって顔を合わせればいいのか、分からなかった。

俺の鈍感さが彼女を傷つけてしまった。

その罪が後ろめたさに拍車をかける。


俺は今、校舎入り口のコンクリート床に座り、ボーッと夜空を眺めていた。

気が晴れるという事は無いが、それでも焦燥感に駆られた心を星々の光は少しだけ救ってくれる気がした。

「鶴瀬さん」

「……ネイス、さん」

校舎の中から現れた彼女は、日焼け顔でにこりと笑った。

「寝てなくていいの?」

「はい。けっきょく衣擦きぬずれれでチクチクするのは寝てても変わりませんし。隣、座っても良いですか?」

「あ、ああ……」


彼女と肩を並べて座る。

俺は何を話したらいいのか分からず、顔を背けてしまう。

「その……今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「謝まらないで。むしろ俺の方こそネイスさんに謝らなきゃならない。君は何度も俺にしないで欲しい事を言っていたのに、真面目に受け取らず、君を苦しめてしまった。俺は……」

「……こうなる事が一番嫌だったから、朝霞さんに言わない様にお願いしたんです」

「……」

「真面目に受け取らなくていいんですよ。そうやって距離を取られる方が、私は何倍も辛いです……!」

「けれど、俺はこれから君とどうやって接していけばいい。陽の光に当たる事のできない君を、どうやって意識せずに暮らしていけばいいんだろう……!」

「それは……」


もう関わり合いにならない方がいいのだろうか。

それが一番簡単で、これ以上傷つかない方法。

けれど……肉体が傷つかなくても、心は?

傷つくことよりも俺達との関係を優先した彼女の心は、俺が離れる事でどうなってしまうのだろう。

これは俺一人の考えでは決められない。

これ以上、選択を間違えてはいけない。

相手の心を蔑ろにしてはダメだ。

俺はどうしたらいいのか、彼女の気持ちを参考にする必要がある。

それがお互いにとって一番良い結果へ導いてくれると信じるしかない。


「ネイスさん」

「はい……?」

俺の反応を待っていたらしい彼女は、怖ず怖ずと応える。

「君はどうしてそんなに酷い目に遭っても俺に近づくの? 俺たちと距離をとれば、少なくとも君の身体が傷つく事は無い。俺たちとこれ以上深く関わらなければ、きっとこの先別れたとしても、辛さは少ないと思う。君は、それでも……」

「鶴瀬さんは、出会ったばかりなのに別れた時の事を考えるのですか?」

「っ……!? それは……」

「私は傷つく事を恐れて人と関わらないよりも、人との交流の中で傷つく方がいいです。それに……」

立ち上がり俺を見つめる彼女を、俺は見上げる。

星の光に包まれて微笑む彼女は美しい。


「私は鶴瀬さんとお会いして楽しかったです。痛い事もありましたけど、きっとこの先も楽しい事はいっぱいありますよね?」


それが彼女の真意だった。

それが彼女を象徴し、支える強さなのだろう。

「ネイスさん……いや、ネイス」

「なんでしょう?」

「ごめん。俺は君を傷つける事を恐れて、もっと君を傷つけようとした。許して欲しい」

「そうなんですか? それなら、そうですね……許してあげません!」

「え、じゃあどうすればいい?」

「かくれんぼ、しましょう!」

「あ……」

彼女とすると約束していた他愛ない遊び。

子供じみた行為。

けれどそれが、俺達を繋ぐ約束の様にも思えた。


「……今日はダメ。寝ておきなさい」

「えー、この話の流れでどうしてそうなるんですか!?」

「ダメなものはダメだよ。しっかり肌を直して」

「むー、鶴瀬さんって結構ケチンボなんですね」

「どうとでも言ってくれ。とりあえず遊ぶのは一週間かけて直してからね」

「……一週間経ったら、私と遊んでくれますか?」

「……それまでに、夜型にしておくよ」


この時彼女が浮かべた笑顔を、俺は一生忘れない。

心がそのまま表情に現れた様に、彼女の喜びが俺の心を打つ。

頬の薄い紅が黒の夜空とのコントラストでよく映えて、熱を感じさせる彼女の肌に触れたいと思い、ぐっとこらえた。

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