揺れる
眠いけど書くのです。
蓉子はオダギリに引きずられるようについていく。
「手を話さないで」
その約束をオダギリは忠実に守っていた。
やがて、街の中心に聳え立つ巨大な歩道橋に差し掛かった。
その時である。砂埃の中から、二人の行方を大きな影が遮った。
その「影の人」は今まで見た中で一番大きな図体をしている。
携えている大きく太い槍は威圧感があり、返しのついてとても長い。そして重そうだ。
この時ばかりは、オダギリは握っていた手を放し、
「後ろに下がっていろ」
と蓉子を軽く後方へ突き放した。
大きな影とオダギリが睨み合う。
隙を付く間もなく男が素早くオダギリに向かって槍を繰り出す。
その風圧は、10メートルは離れている蓉子のところまで風圧が届いた。
その突きを寸でのところでオダギリはかわし、軽い身のこなしで相手の槍の上に乗る。更にそこから大きな跳躍をして影の後ろを取り、歩道橋の階段際まで追い詰めていく。
影は再び槍の上に飛び乗ったオダギリを振り払った。一瞬の事である、飛び降りざま、オダギリは身を翻し相手の左肩を切り落とした。
「がああああああああッ!!」
大男は不気味な悲鳴を上げると、もう片方の手でオダギリを握って捕まえようと掌を素早く向けてきた。
だが。そこへ大きな影の男の太腿に廃材を突き刺したのは蓉子であった。
「ぐおおッ!!」大男は悶えている。そこへ、オダギリが止めを刺した。
蓉子の手は震え、血にまみれている。
息絶えた影の人を息を切らし放心状態であった。
オダギリはキッと蓉子を睨んだ。
「余計な手出しはするな」
「でも・・・あの」
オダギリは鋭い目で睨んでいる。
「あの、私・・・気付いたら動いていて・・・」
今にも泣きそうな目でオダギリをみつめている。
「お前の手助けなど、足手まといだ」
その通りだ。何も言えない。だが、自分が取った行動を今でも理解できずにいた。
腰砕けのまま歩道橋から街を見下ろすと、あちらこちらで煙が上がっている。だが、夜へと差し掛かった街は闇が落ちてほとんど見えない。
「早く行かねば・・・」
オダギリがため息をついたような気がした。そして蓉子の手を再び掴む。
が、蓉子はその手を振り払った。
「どうなるの。どうしたらいいんですか。このまま死ぬの?家に帰りたい。家族も見つからない。私・・・私・・・もう歩けないし、ここで・・・私以外の方を助けたほうが・・・」
完全に混乱している。支離滅裂でただ、口をついた言葉を発しているだけだ。
その時であった。
蓉子はオダギリに腕をぐわっと掴まれ、彼の傍に引き寄せられた。オダギリは刹那、蓉子を見つめると何も言わずに、仮面の口元を外した。
「・・・信じろ。ついてこい。」
力強い目、無精髭。年齢は分からないが、その精悍で美しい顔に蓉子は一瞬見とれた。
その時だった。
オダギリは蓉子の頭を大きな手で掴み、ぐっと引き寄せると、いきなり強く、熱く接吻をした。
「!?」
訳がわからず蓉子は目を丸くして混乱したが、とにかく彼を信じない、と言う理由が必要ない事はわかった。それほど、男の接吻は蓉子の気持ちを懐柔した。
オダギリは再び口元に仮面をすると、蓉子の手を潰れそうなほど力強く握り、駆け抜けて歩道橋を渡りきる。
やがて、二人は砂埃と闇夜の中をすり抜けて消えて行った。
眠いのです。
ちょっと手直ししたのです。