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5/7

魔法と書いてチートと読む 〔前半〕

 大変申し訳ない、どうにも長くなってしまったので二分割投稿です。

   〔5〕 前半


「んじゃまずいっちばーん! このユーリさんの精霊系からお試しまっせう!」


 と、リョータから数歩程度の距離に立つユーリが、わくわくとした好奇心を抑えきれないといった勢いある笑顔で宣言する。

 手持ちの札を何から確認していくかという話であったわけだが、結局のところ一番の生命線かつ奥の手になりそうなこのファンタジー極まる能力――魔法関係から、まず大ざっぱにでも試してみることにしたのだった。その際、リョータの側の“ウィザード”がどうこうという話は漠然としていて解明に一手間を要しそうだったため、ある意味で形の分かりやすいユーリの側の能力から手をつけてみよう、となった次第である。一つが判明することから芋づる式に分かってくることもあるだろうと。


 数呼吸ほどの間をかけてなにやら意識集中していたらしきユーリが、さらに一息強く吐いてからすっと視線を持ち上げると、おもむろに呪文詠唱じみた言の葉を連ね上げ始める。


「――“風の精さん風の精さん、ちょいと頼みを聞いとくれ。そよ風巻いて渦巻いて、草葉をすくって舞わせておくれ”」


 まるで謡うように紡がれたその言葉は、見えざるも確かなる手応えをともなって波紋のごとく中空へと投げかけられてゆく。

 言葉の示す通り、呼びかける対象は風の精霊だ。これは消去法的な選び方による。魔法行使する精霊といえば一般的には火水地風の“四大”が有名なわけだが、火と水はこの場に手軽な(みなもと)がないことから避けた。特に火は森の中であることから危険かもしれないこと、また水についても地下水脈を無理やり引き上げるようなことも不可能ではないようだったがいきなりそこまで力技を用いる必要もないだろう、と。残りは地と風だが、この内の地に関してはどうせ後ほど工夫を詰めることが必須な対象であることから、“とりあえず軽く試すだけ”であれば風の精霊がいいだろうとあいなったわけであった。


 さて、このユーリの風への呼びかけに対して…………数秒ほどかけて、小さなつむじ風が巻き起こり始める。両手でゆるく包める程度の穏やかな竜巻が立ち上ってゆき、地面から吸い上げた土ぼこりと落ち葉などによって茶と緑に色を薄く帯びながら、ユーリとリョータが立っているあたりの半径十歩分ほどをゆっくりと周回していく。まばらに生えている低木の枝葉や草花を優しくしならせる程度に“踊らせ”て、風が回って遊び抜けた。


 そうして一周を果たした可憐な風の柱が天へと昇り消えたとき、リョータの口からこぼれたものはただ感嘆の吐息だった。それを見て取ったのだろうユーリが自身も感動に震えるところにやや自慢げな調子をも乗せた声で、言葉を向けてくる。


「おっおー、すげー。なかなかすごいんじゃねこれ? どーよどーよ?」


「ああ。これならさすがにトリックがどうこうとも言えそうにない。見事なものだ」


「うっし! ってあれ? ソレ系のセリフなのに棒読み殿下調じゃないん?」


「……ミゴトナモノダナー」


「それそれ」


「ここでそっち引っ張って誰得なんだよ……」


「もっちオレ得! ええやん好きなものは好きなんだし」


「そりゃおれだって好きではあるが、さ」


 リョータは首を一振りすると、息を吐いて仕切り直す。


「しかし、まぁ、おかげで一つ分かったよ。これは口上だか詠唱だかは“本体”じゃないな?」


 先ほどユーリが宙へと投げかけた波紋――あるいはもっと立体的に波動とも呼べるだろうか。それをこれまで生きてきた経験の内にはない新たな感覚としてリョータは全身で感じ取っていた。そして間断なく思い知る。“それ”を入出力するための器官、アンテナのようなものから信号処理するための回路のようなものまで、すべて己が身の内に、第二の神経網のごとく既にしてあるのだと。――“これ”は扱えて当然だと。

 では何が“本体”であるのか。それは、波紋のような波動のような、力の投射そのものだった。これの編み上げる形、織り成される構成こそが、作用の現れ方を導き、結果として望む現象の在り方を決定するのだ。発声や手振り身振りはその補助に過ぎない。

 おそらく制御に熟達したならば無音不動のままでの行使も可能なのではないか。それをごく当然のこととして体感し、納得が落ちゆく。


 そんなリョータの反応をいかように判断したものか、ユーリが片手を上向かせて軽く振り出すようにしながら声を応じてくる。


「おう、どうやらご理解いただけたようだねリョータくん」


「ああ。こりゃたしかに言葉で百回説明されるよりも一回の実演が有効だわ。でなけりゃいつまでも頭抱えてたかもしれん。おまえに先にやってもらってよかったよ」


「ふっふ、そうでしょう? まさに百聞は一見~を地で行くこの先見性!」


 顎元になど手をあて得意げに気取ったポーズでうなずいてくるユーリだった。先んじて実例を示そうという提案はユーリから行っていたことだったので、まぁ得意がることに根拠がないわけではないのだが。

 はいはいそうですねすごいですね、と両手でなだめるように応じながらリョータは話を次へと転じるのであった。


「んで次はおれの番、ということなんだろうが……。とはいえ具体的にはどんな形から手をつけりゃいいかってなると、やっぱり分かりゃしねーぞ?」


「そこは、アレよ。“ウィザード”の基礎にして象徴的な術っていえば十中八九、灯明と書いてライトと読む系のヤツっしょ。できそうにない?」


「マジっすか……。ええと、んん~? ――あ、できそうだわ。うっへぇなんだこりゃ」


「やっぱりィ? そんじゃー一発試してくれや。はやく、はやく、はやく」


「どしたー? われのキャラクターか? ってこんなドマイナーネタおれですら忘れかけてたぞ……。それはともかく、なんだろーなこの感覚、すっげー奇妙なのにしっくり芯から馴染むような」


「まるで“今の自分”にはできて当然って感じの?」


「まんまそれよ。言われたことのイメージを自分の中であらためた途端、やり方が本能的に悟り終わってたというか。理解したというよりも思い出したって感覚に近い。……こりゃあ本気で改造手術済みってことなんだろうなぁ、頭の中まで」


「ああ、まーね。でも今それ言い出してもキリがなくなっちゃうから、ひとまずは実際面の確認を優先しよーぜ。あんまちんたらしてると日が暮れかねないし」


「おう。じゃーいくぞ。ん~……」


 そう宣言して気合一つ、リョータは両手を眼前で軽く交差させるように構えながら、呼吸と集中を整えてゆく。

 灯明を生み出す。すなわち光球を作り浮かべると考えるならば、ただ一定の光量の放射が一点から持続できればよい。そこに熱量は必要ない。質量もそなえない。ならば投じるエナジーは少量でいい。

 己が身の内より湧き出ずる波動を投射する。これを望む結果に即して編み上げる。ただし、リョータがこれから試みる術法は、ユーリが先ほど実演してみせたものとは性質が異なる。ユーリは、謡うように呼びかけることで“そこ”に潜む力あるナニカ――これを「精霊」と呼ぶのだろうか――を引き出し、現すことで術の効果をなした。これに対しリョータの行おうとしていることは、より論理的な、一種の電子回路のごとき立体的な機能パターンを、自らの波動がもたらす干渉によって宙に構築する行為とでも言えた。


 目にこそ映らぬも確かな手応えが、多少の余分なロスを費やしつつも眼前の頭上へ向けて集束してゆく。そこにあわせリョータは、構えていた諸手を肩幅で球を描くように回して下から掬い上げるように上向かせると、軽く広げつつも掲げるようにして見上げる姿勢となりながら。形至る確信とともに。

 一息でそれを唱える。


「――“照らす灯明”」


 ふわり、と。それまで薄暗かった周辺を柔らかに照らし出す白き光球が、リョータの頭上やや前方、手を伸ばした長さをさらに三倍ほど延長したあたりに、染み出すようにも生じて浮かぶ。

 まるで薄めの街灯のように程よく抑えられた光量は、リョータたちの目を眩ませない程度に昼の明るさをもたらしつつ、その後背に改めて影を落としてみせるのであった。


 術の成功を見届け、ふう、と息を吐いて額を拭いつつ集中を解くリョータに、横で見ていたユーリからぱちぱちと緩い拍手が飛んでくる。


「やるじゃんリョータ! で、どーよ? “はじめてのまほう”のご感想は?」


「ありがとよ。ああ、まぁ、感無量の一言だな。まさか本当に生涯の内で魔法使いなんてなぁ」


「この感覚はちょっと言葉では表しがたいものがあるよなっ」


「だなぁ。五感のどれとも違うし、だからって第六感かというとそれも、な。ともかく、これが出来るってことは日が暮れただけで行動不能ってことはなさそうだし、一つ安心材料だな」


 人工の光源がまったくない山野の奥地などにおいては、よほど満月が煌々と照っていて曇り一つない夜空でもなければ、足元などまったく見えず、それどころか己の手元すら見極めが危ういものだ。ましてや茂りそびえる大樹の枝葉が天を覆っている森中とあっては真性の暗闇に閉ざされることだろう。かつて大人たちに連れ立たれてのこととはいえ登山の経験もそれなりにある二人にとっては、野外サバイバルを考慮する上で重要項目として理解することの一つであった。


 ユーリがうんうんとうなずきながら応じてくる。


「んだーね。ま、幸先よさそうってことで、ちゃきちゃきと次いってみよぅ!」


「八時だョ? ってこの繋ぎこそダメだこりゃ状態。それで、次って、どういう意味の?」


「うん。リョータの“ウィザード”能力さ、灯明と書いてライトと読むができたワケじゃん? ならさ、施錠と書いてロックと読むとか、開錠と書いてアンロックと読むとか、それ系はどうなのかなって。まぁこの場にカギ付き扉なんてないけども」


「それ系の定番路線かぁ。んー、ああ、できそうだわ。……なんだろな、この、具体的に言われてみると何となく分かっちゃう感じの」


「なんとゆーか身の内がかゆいのに直接かけない的な?」


「あー、そんな感覚に近い、かな。微妙に悶えるほどでもないっていうところがまたこうさ」


「わかるわかる。まぁそれはともかく、この具合からすると能力検証は互いに思いつく端からどんどん指摘しあっていく、って形がよさそうかなぁ」


「要は総当りか。手間はかかるが……結果としてはそれが最短かもな。ん? とゆーかそういえばおまえの能力設定って、名称とかどうなってるん?」


「はっは、よくぞ聞いてくれました! このユーリさまは種族特性と容姿関連のほかは、アーキタイプ“エレメンタラー”を基本に、カスタムスタイルを“アナイアレイター”で選択してあるのだよっ!」


 ばさり、とマントの裾でも払わんばかりに大仰な腕振りを加えつつユーリは――むろんマントなど実際には羽織っていないのだから単なるそれっぽい素振りというだけだ――偉そうに上体を反らして宣言を打ってくる。

 これにリョータは肩をすくめて呆れるように応じるのだった。


「なぜそこで偉ぶるのか、これが分からない。エレメンタラーってのはこれまでの話からもだいたい推測つくが……アナイアレイターって、殲滅者かよ。ああいや、つまりあれか。いつものおまえの、後衛職やるなら大火力で一面をなぎ払えっ的な」


「イグザクトリー! その通りでございます。火力こそパワー、見渡す限りを粉砕、玉砕、大喝采! の広域殲滅スタイルこそ我が信条なり。――ってまぁぶっちゃけ、ゲームなら“ガンガンいこうぜ”作戦が爽快感あって好きだったってだけなんだけどさ」


「おまけに可愛い女の子キャラで破壊パワーぶっ放し(ぶっぱ)プレイが画面映え的にもオイシイですって?」


「そうそう! またこの落差がいわゆる萌えどころでもあるっていうかさぁ~。さすがリョータさんよく分かってるじゃないッスか」


「そりゃまぁあんだけ何年も見てればな。話を戻すが、つまりおまえは攻撃面に偏向的なわけか? ちなみにおれの方は“ガーディアン”スタイルらしいぞ」


「ほほぅ……。それすなわち、攻撃と防御が両方そなわって最強に見える?」


「一流の攻撃と防御の硬さがあわさってオーラとして見えそうになるとリアル世界よりも充実したファンタジー生活が認可されるッ! 唯一ぬにの盾ヤッター! ……ってまぁそれは、上手くかみ合えたらの話だろうさ。ちっとおふざけは置いといて真面目に検証タイムといこうか」


「あいあい」




 そこからはお互いに、あんな術やこんな術とかできそう? どうよ? と投げかけあって己の内をあらためてみる、術としての行使直前のところまで汲み出してみる、といったことを試していった。

 結果、リョータの“ウィザード”とやらは多種多様な術種を広範に扱えることがわかった。最も得意とするところは防護障壁を張ったり結界を敷いたりといった系統で、次いで治癒回復の系統。また他者や物体に魔力を宿したり術法効果を刻んだりという、いわゆる強化や付与(エンチャント)も得手と言える分野だった。反対に不得意であるのは攻撃系統で、初歩的なエナジー・ボルトのようなものであればともかく、雷撃を放ったり火球を撃ち出したりといったことは不可能ではないものの“コストが重く”連用はとても無理そうだった。比べると防護障壁などは何十発でも連続して使えそうな“軽さ”である。

 なお、防御でも攻撃でもない、単なる便利系統の術――それこそ灯明だの開錠だのから、眠りの雲だの、かゆみひりつきだの、果ては飛行まで、そういった術種であれば軽くも重くもなく普通に使えるようだった。ただし飛行とまでとなると現在の力量では短時間で効果が切れてしまいそうで、まだ実用には適さないという結論を下すに至ったわけだが。


 これはユーリも同様で、地と風に呼びかけ重力中和しつつ風の流れをまとって宙を舞う、といった芸当も不可能ではないようだったが、やはり現状の力量では途中ですぐに墜落してしまいそうで危うく、当面はお蔵入りのアイデアとなったのだった。

 ユーリの得意分野に関してはやはり攻撃系統、それも広範囲を巻き込むようなそれであり、ありていに言ってしまえば火炎嵐だの猛吹雪だのというものであった。いちおう、生体の生命力(もしくは知られざる生命の精霊とやら)に呼びかけて負傷状態などを“快癒”させる術も行使自体は可能なようだったが、やたらとコストが重くあって日に何度もとは使えそうにないという。一面を焼き払う術なら数十発とて連発できそうというのにだ。どこの転がり破壊魔さん状態かと。

 それ以外には“精霊”にじっくり呼びかけることでいろいろと融通を利かせたお願いごとを聞いてもらうことも可能らしい。これはかなりファジーに何でもイケそうという点が利点であったが、ただし時間と手間をそれなりに要する上にかかりきりとなってしまうため、緊急時にとっさの用をなすには適さないだろう。


 またこうした検証の中で浮上した新たな疑問点があった。そう、“力量”という概念である。

 それは単なる術法の扱い方の熟練具合を示す言葉ではなかった。現状でもいろいろと便利使いできる術種を行使可能なリョータたちであったが、それでもいまの自分たちが“力量”の段階としては底辺であるという自覚が厳然とあった。この力量における階梯をはるか幾段と高みへ登ることができたなら、たとえばリョータなら空間転移――テレポートだの、隕石落としだのといったことにも手が届きそうだった。ユーリならば広域に大地震を引き起こしたり火山を噴火させて溶岩流を操ったりなど可能だろう。

 そうした展望が自然と抱けるのだ。なぜかは分からないが、などと、今さら考えるのも舌打ちする対象でしかないことではあったが。


 この“力量”の段階的向上とでもいうべき観点に関して、二人の見解は次のようなものだった。


「なあ、この、段階的な成長性みたいなものって、やっぱりあれか?」


 リョータが疑問に問うところ、ユーリが答えてくる。


「だろうなぁ。お約束というか、もはや様式美というか。つまるところ……」


 そこで二人そろってため息を一つ吐いてから、声を同じくそれを言う。


「「レベルアップさん」」


 そして沈黙である。

 無言のままたたずむ二人の間に、なぜか折よく乾いた風が吹き抜けたりするわけですが。


「ですよねー」


「ッパねぇわ。さすがファンタジーさんはやることパネェわ」


「これなー。いちおう原因らしきことに心当たりがないわけでもないんだよなー」


「まじっスかユーリさん。しからばその心は?」


「うん。あの本のタイトル絡みのお話なんだけどさ、改めて考えれば不自然なところない?」


「あの本が? たしか、世界門の書、とかだったか。不自然、って言われてもな。むしろ不自然のかたまりであってそうでないところの見分けなんてつけようもなく思えるが……そこになお特異な点が?」


 と、首をかしげ問うリョータに、ユーリはやはりうんとうなずきながら。


「世界の門をどうこうという書なのに、なんでそれで願いが叶うのかってことさ。オレはこれを逆に考えてみたら納得するところがあったのよ」


「ほう……。確かになと感心顔になる。門だから、異世界に移動するってことの方がむしろ正当と言えるわけか。かなり無茶なケンカを物理学先生には売ってるとしても」


「そうだね。だからこう考えたワケさ……。願いを叶えるから世界移動するわけではなく、世界移動するついでに願いも叶える。もっと言うと、望む世界に移動するということは、()()()()()()()()()()()()ということだから、始めからこの表裏は不可分なんじゃないかなって」


「ああ……なるほど。たとえば自由に行きたい先が選べるとしたら、それは選択者にとって都合のよい世界となるが、だからといって無制限になんでも理想と願望を放り込んだらそんな世界は新規創造でもするしかない。いやそれですら成り立たない、か。だから一定の制限幅の中で……」


「始めから願望を聞き取り調査して叶えてしまう段取りを取りつつ、“それが可能な世界”を選び出して越境させる――ってまぁ、おおむねそんな仕組みなんじゃないかってさ」


「ふむ。……筋は通っているな。だが」


 納得してうなずきつつも、リョータは新たに思い至る点がありピクリと片眉を動かすのだった。

 それを見やったユーリが問うてくる。


「だがって、なによ?」


「いや……ちょっとした可能性に思い至ったんだが、これは後にしよう。いま話しても無駄に横道に逸れかねない」


「ふーん? 気になるが……ま、いっけどさ。それで話を戻すと、つまりこの世界の環境性とかオレたちのいわばキャラ性能だとかは、オレがあの“門の間”でいろいろ設定するためにブッ込みまくったファンタジー要素のごった煮になっている可能性があるんだよねって。なにせリョータの方は特段の設定持ち込みはしなかったんだろう?」


「ああ。てことは、おまえの好みで魔合成されてる感なわけね。ここまででもいくつか思い当たることはあったけどさ」


「ほほう? イエスだが、思い当たるとはたとえばどのような?」


「かの御大先生の包括的汎用システムっぽい点がちょくちょくあったろ? あと日本で一番有名な“剣の世界”っぽいところとか。どっちもおれらがメインで手をつけてた二大系統じゃねーか。おまえの好みからすると後者成分が優勢にも思えるんだが、実際には前者のクセが強く出てないか? またなぜして?」


「よくぞ見抜いたリョータくん! そう、その二大系統を基盤にしつつ他からの要素もむにゃむにゃぼーんしてあるんさっ。まぁぶっちゃけ、容姿関連を始めとして任意でいじくりつつも、細部までは手間かけきれないから簡易パックセットみたいな形で済ませたくってね?」


「分かるが、その結果がこれか……。まぁアーキタイプだのプレロールキャラクターだのは、基本っちゃ基本だが。カスタムスタイルどうこうってのも、その省力化の関連なわけか」


「ぶるずあい! さすがお察しぢからは長年の相棒ぶりである。重畳重畳」


「ぶるず……ってああ、大当たりとかその通りとかいう意味だっけか。まぁいいや、スタイルの偏りが可否を隔てるものじゃなくて単なるコスト性の問題で済んだのは、幸運だったと思っておこう。ところで」


「おうおう?」


 聞き返してくるユーリに、リョータは静かにうなずきを返しながら。


「それって第三版?」


「もちろんサ。第四版はよく分からんかったし」


「どうしてああなった、は言っちゃいけないことなんだろうか、な」


「いやー、ぶっちゃけスティーブ先生も知ってたら怒ってるんじゃね?」


「おい。おいその名前出しちゃうのかよ、おれがどうしてこれまで曖昧に済ませていたと」


「だいじょーぶだって! スティーブなんて名前は世界中にいくらでもいるありふれたものよっ」


「そうかもしれんが……。はぁ、まぁいい。いくらなんでもこんな遠く隔たった異邦の地にまでどうこうってこともなかろーしな」


 というよりむしろ連絡手段があるなら教えて欲しいくらいなわけだったが。

 そんな嘆息をつくリョータにおかまいなく、ユーリは自身の胸元でぽんと軽い拍手を一つ打つと、次なる話題を振って来る。


「しっかし、あれだよね。防護障壁って、要はプロテクション・シールド系だろ? それが得意ってんならもうあれなワケよ……声あてはアノ檜山さんでお願い申し上げる!」


「プゥゥロテクションッ! ってどこの必殺技やねーん、のあのネタかよ。ジョイフルジョイフルすっぞ。あまりそっちの業界にはお触りしない方がいいどりぃ~む」


「助けてボクらのドリームマン! 夢世界を渡ったりできちゃいますか?」


「むむむ、どりぃ~む……それはさすがに無理っぽいっす。精神干渉系は得意じゃないみたいだわ。いまは敵意感知がせいぜいかな。いずれ熟達すれば記憶探査くらいなら手が届きそうではあるが」


「語れないドリーム!」


「もう森へお帰り……」


 しゅぱっと片手をあげて無駄に元気よく放言かましているユーリに対し、リョータはひどく優しげな一言をもって応じるのだった。

 なだめるようにしつつ、互いの鞄から飲みかけだったペットボトル――500mlサイズのよくある清涼飲料水――をそれぞれ取り出すと、ユーリの分を軽く放って投げ渡すのだった。


 ぶっちゃけいいかげん疲れたし喉も渇いたので、一服タイムである。

 第三版世代でござるゆえ……。

(七つの月の物語世界、好きでした。)

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