北村高校の生徒
私立北村高校は山の上に敷地を構える共学の高校である。
県下一の進学校というわけでもなく、名前さえ書けば入れるといったアホな高校でもない。
名門スポーツ高でもないため、特に活発な部活動もない。
まあ、とにかく普通の学校である。
唯一普通でない点といったら、その立地であろうか。
山の頂上にあり、麓からにかけて、道中に店や家が一件もない。
車がギリギリすれ違うことができる道路が蛇のようによこたわり、人が2人ほど通れる山道が学校に向ってまっすぐ伸びている。
麓から頂上まで歩いて30分。遅刻魔にとっては魔の坂を30分もあるかなければいけない。
自転車通学をするものは少なく、柔道部やラグビー部などがトレーニングの一貫とする程度である。
そんな北村高校の麓に店を構えているのが山下商店である。
北村高校の学食は味噌汁以外が破壊的に不味く、売店はカロリーメイトしか食事になるものが売ってないほどの衰退ぶりである。
そのために、山下商店は北村高校の生徒にとってはオアシスであった。
そんな学生からの需要を見込んで店側も様々な種類のパンや弁当を用意するようになった。
店の一番人気がマボロシパンである。中二病くさいネーミングだが、中身にコロッケと焼きそば、卵焼きを挟んだただのコッペパンだ。
しかし、このコロッケと焼きそばがとてつもなく美味い。
それ故、棚に並べた10秒後には既に売切れてしまう人気を博しているので、マボロシと言っても過言で無い。
あまりの人気ぶりに、開店直後の店が戦場となり、肋骨をおるなどの重傷者が多発したため、山下商店のおばちゃん(推定年齢56歳)が特別な措置をとった。
マボロシパンお一人様3つまで毎日13時発売。
北村高校の生徒にとって、余りに無慈悲で残酷な措置であった。
北村高校の昼休みは13時から14時の1時間である。
そのため、授業をさぼらない限りマボロシパンを買うのはむずかしい。(ゆっくり買いに行ったらそれだけで昼休みがおわるのだ)
それでもお一人様3つの制限がつくのだから、サボるものが続出している証拠である。
そんな北村高校の1年である網走ももかはちょっとした有名人である。
「マボロシパン1個に、メロンパン2個ね。...他は?あ、杏ジャムパン...はいはい。あ、前払いね。」
よろしくねーと、ももかの手のひらにひらりと千円が渡る。お釣りは人件費というのは暗黙の了解である。
まいどありーと言って、受け取った千円札を制服のポケットにしまいももかは屋上を後にした。
網走ももかは足が速い。
小学校の頃からリレーは必ずアンカーだし、男子に混じっても速い方に食い込むほど速い。
部活には入っていないが、陸上部からの熱烈な勧誘は入学して半年たった今でも続いている。(本人は面倒臭いという理由で断わりつづけている)
そんなももかが特に得意とするのが坂道である。家が坂の上にあるため、昔からの成果か、箱根駅伝もびっくりの山の神である。
ある日ももかが昼休みの20分後にマボロシパンを頬張っていたことからももかは一躍有名になった。
「あの坂道を往復20分で行き来できる女」
全校生徒から一目置かれるようになった。
それからことが動いたのは一週間後だった。
ももかがいつものようにマボロシパンを頬張っているとクラスメイトが取引を持ち込んだのだ。
私のぶんも買ってきてくれないか。お釣りはとってていいから。
ももかは食いついた。
それ以来ももかは山下商店にパンを買いにいく際の機動力としてビジネスを始めた。
「一人千円です。千円以内でしたら何でも買ってきます。お釣りは人件費としていただきます。」
表向きにはできないこの事業は、北村高校のもので知らない人はいなかった。
網走ももかの本名を知るものはあまりいない。クラスメイトや中学が同じだった人ぐらいだ。皆、ももかのことは、ぱしりちゃんと呼んだ。
「はい、これ頼まれたものです。」
ももかが差し出したレジ袋には先程頼まれたパンが入っている。
「うわっ本当に20分なんだ...わあぁぁ、マボロシパンもある!ありがとう!!」
「いえいえ。そんじゃ、またご利用下さーい」
ももかは屋上を後にした。
「おかえりー、ももか。あ、またマボロシパン食ってやがる。」
「おー、橘。...一口食べ 「いただきます」
「......」
ももかが教室に入ると橘美咲が話しかけてきた。橘とは中学からの腐れ縁である。
「味覚音痴のくせに、3日に一回これを食べることが許せないわー。あんたどうせ、食堂のカレーとこのマボロシパン、同じ価値としか考えてないでしょ。」
「いや、マボロシパンのほうが10円安い。」
「いや、違くて。...や、もういいわ。あんたにきいた私がばかだった。」
「わかってんじゃん。」
橘はももかを締め上げた。
「網走。」
「あ。」
「げ。」
仲良く(?)戯れていた二人のまえに、高身長の比較的顔の整った男が立ちはだかった。その男の出で立ちはイケメンと呼ばれる部類なのに、制服の下に着ているシャツのセンスが救いようがないくらい残念だ。
「今日こそ首を縦に振ってもらうぞ!」
いつも通りの口調と台詞にももかはうんざりした風にマボロシパンを頬張った。
「何度も言ってるじゃないですか。私は部活に入るつもりはありません。」
「もうそのセリフは聞き飽きたぞ!」
「私も言い飽きました。」
「陸上部にはお前の力が必要なんだ!お前なら全国大会も夢じゃ......ってこらまて!!」
逃げるが勝ち、とももかは走り出した。
昔から逃げ足はピカイチでカツアゲに遭遇しても連戦連勝である。
「......久我先輩も毎日大変ですね。」
「......橘からもあいつにいってくれないか。」
「無駄ですよ。あいつ、汗水流して青春するような奴じゃないですもん。」
陸上部主将の久我はその場でうなだれた。
うえー。疲れたー...
陸上部主将久我から難なくのがれたももかは中庭にいた。
北村高校は山の頂上にあるだけあって、自然が豊かだ。
特に屋上と、校門付近の桜の木の岡からの展望は車で1時間かけれるレベルだ、とももかは自負している。
中でも意外に知られてないのがこの中庭である。
ただ草木が鬱蒼としている中庭はあまり人気がなく、殺伐としている。
ももかはその植え込みにおもむろに近づくと、人がしゃがんでやっと通れるくらいの小さな隙間に入り込んだ。
トンネルからでれば、小さな子供ならば秘密基地と言って遊びばにするのに格好の小さな広場があって、目の前にはこぢんまりとした街を見渡せる絶景スポットがあった。
綺麗に整えられた芝生に足を放り出して座る。はしたなかろうと、誰に見られるでもない。幽霊がでるという噂があるほど昼なのに暗い中庭に近づくものはあまりおらず、非常に静かで居心地がとても良い。ももかは残りのパンを頬張った。
秋の涼しげな風が心地よいためか、ももかはだんだん眠くなってきた。
以前そのまま睡魔に身を任せたら、目を覚ました時には辺りはオレンジの夕焼けに染まっていたということがあった。
誘ってくる睡魔を吹き飛ばすようにももかは大きく伸びをした。
「平和だなぁ。」
気の抜けた声が秋の空に溶けていった。
はじめまして、ふぇのーるです。
小説を書いてそれを人にみてもらうというのは初めてのことなので、大変至らないことがたくさんあると思います。暖かい目でみてもらえると幸いです。
多忙のため不定期更新になります。あらかじめ謝っておきます。ごめんなさい。




