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『諦めない』の巻

 お待たせいたしました。

 アビスウォームとの戦いに終止符を打つべく、隼人達は立ち上がる。

 リンは生きているのか?

 僅かな希望を胸に救出劇は始まる。


〈リン、今助けるからな〉


 砂嵐は容赦なく吹き荒れ、戦意さえなくさせる。

 王者の剣の鈍い光がアビスウォームの居場所を照らす。


「そこか……風と水の力だけで不完全だが、やってみるか……」


 俺は最後の手段を取ろうとしていた。


「隼人……やはり、リンが好きなんですね?」


「!?」


「何も言わなくても、あなたの目を見ればわかります。行ってあげて下さい。それまで、全力でサポートします」


「レイ……済まない」


 会話が終わると、レイはアビスウォームの懐に飛び込んで行った。

 キャンディもよく凌いでくれている。


「やるなら今しかない……チャンスは一度だけだ」


 王者の剣に祈りをこめ、風と水の力を引き出すと剣の先から、竜巻と渦潮が発生した。

 その反動を利用し、上空へと飛び上がり自らアビスウォームの口内へと向かった。


 粘液が粘つき、思うように動けない。

 しかし、早くしなければ消化され、リンも俺も命はない。


「リン――っ! 何処だ! 助けに来たぞ……」


 防具に粘液の雫が落ちるたび、少しずつ溶けながら煙が泳ぐ。


 体内に生えた小さな触手が、粘液を纏い襲ってくる。

 それをうまくかわしながら、斬り落とし奥へと進む。


「リン――っ!」


 その名を呼ぶが、返事はなく自分の声の反音響が体内に寂しく響きわたるだけだ。


「くそ……終わりか……」


〈諦めないで下さい〉


 俺はレイの言葉を思い出した。

 リンと俺のために、身を呈して引き付けてくれている、レイとキャンディのためにも諦めてはいけないと。


「うぉぉぉ。俺には守るべきもの、大事なものが山程あるんだよ。だから、こんなとこで死ねない!」


 感情が高ぶり、自分を奮い立たせると、額の勇者の紋章が蒼白く光り一点を差す。

 それに導かれるように、触手を掻き分け進むと、アビスウォームの体に吸収され掛かっているリンの姿を発見した。

 衣服はドロドロにとけ、たわわに実った果実と共に全身が露になっていた。


「リン――っ! 目を覚ませ! 助けに来たぞ」


 気を失ったまま、目を覚まさない。

 俺は二、三度リンの頬を叩いた。


「ん……ん……お兄ちゃん」


「気が付いたか? 今助ける、待ってろ」


「痛っ……足、捻挫しちゃってるみたい。魔法ももう使えないから回復出来ないよ……私はいいから、お兄ちゃんだけでも逃げて……」


「ふざけるな――っ! 諦めんなよ……俺はお前を必ず助ける……大事な仲間だから……リンが……リンが好きだから! だから、諦めんなよ」


 俺はリンを力いっぱい抱き締め、唇を重ねた。

 アビスウォームの粘液に負けないくらいの濃厚なキスだ。

 絡み付いた舌を一度ほどき、互いの顔を確認するように見つめ合い再び舌を絡ませる。


「愛している……もう離さない」


 王者の剣でリンに絡み付いた触手を斬り落とし、マントを羽織ってあげた。


「乗れよ、捻挫してるんだろ……」


「うん……わぁ、お兄ちゃんの背中温かい」


 俺は捻挫したリンをおんぶした。

 背中に柔らかいものを感じるが、今はそんなこと考えている場合じゃない。


〈出口を探さなくては〉


 鎧も僅かに粘液で溶けかけている。


 そんな時、勇者の紋章がまたも蒼白く光り一点を差す。

 そこには激しく脈を打つアビスウォームの心臓があった。


「お兄ちゃん、あれアビスウォームの心臓じゃない?」


 耳元でリンが力ない声で囁く。

 生暖かい吐息が俺を刺激する。


「らしいな。あれを攻撃すれば、あるいは……」


 ぬかるんだ足元に気を付けて、その核とも言える心臓に歩み寄る。


「間違いない。奴の心臓だ」


 一旦、リンを背中から下ろし、王者の剣を構える。

 不完全だが、やれるだけやってみるしかない。

 俺は様々な願いを込め、剣を振り上げた。


 アビスウォームの心臓は大量の出血を伴いながら、激しく震えた。


「リン、間もなく奴は息絶える。さぁ、行くぞ」


 俺は再びリンをおんぶした。

 痛みに苦しみアビスウォームは暴れだす。

 やがて、体外でアビスウォームの断末魔が聞こえると、俺達は外に放り出されアビスウォームは煙のように消えた。


「や、やったぞ」


 俺はリンを抱き締めた。



 アビスウォームが消えたことにより、砂漠に静寂が戻った。



 レイとキャンディは抱き合う俺達に、優しく微笑んだ。



 リンを見事救出し、想いを伝えた隼人。

 諦めない気持ちが更に隼人達を強くした。

 さぁ、次に目指すは土の精霊。


 徐々に王者の剣は輝きを取り戻していく。

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