初めての実戦の巻
おやっさんとの訓練が始まる。
俺にもやれることがあるはずだ。
宿屋に戻りベッドに潜り込む頃には、もう明け方近くなっていた。
俺は少しでも睡眠を取ろうと、瞼を閉じたが結局一睡も出来なかった。
朝になり、約束通り武器屋のおやっさんの所に足を運んだ。
「おやっさん、俺です。ポンコツです。」
自分でも気付かないくらい、〈ポンコツ〉という名前が板に付き初めていた。
「あぁ、お前か?早速訓練するか?」
「お願いします」
魔物と戦う恐怖より、〈俺にも何か出来ないか〉という期待の方が大きくなっていた。
おやっさんは、店内に陳列された武器を手に取り、俺に差し出した。
鈍い光を放つ、銅の剣。
「まずはこれを持ってみろ」
おやっさんは片手で軽々と持ち上げたが、俺には重すぎた。
「やっぱり、まだ無理か?」
ここに来て俺に闘志が芽生えようとしていた。
「おやっさん、俺頑張るよ」
「ポンコツ、人間にはなぁ得手不得手ってもんがあるんだよ。まずはこのこん棒で訓練しよう」
正直、悔しかった。
情けないと思った。
いくらニセ者とは言え、俺にもプライドがあった。
「わかりました。でも、必ず銅の剣を装備出来るように努力します」
おやっさんは優しく俺に微笑み頷いた。
「それじゃ、早速訓練に移る。訓練といっても、俺のやり方は実戦が主だ。生半可な気持ちでは命を落としかねない。わかったか?」
「わかった。おやっさん頼むよ」
「この街から南西に、手頃なダンジョンがある。そこにある〈虹色の水〉を取りに行くのが今日の課題だ」
おやっさんは一通り説明を終えると、背丈ほどある鉄の斤を抱えた。
おやっさんと肩を並べ街の出口にたどり着くと、昨日の女の子がいた。
「お頭、私も連れてってよ。私の魔法も役に立つと思うよ」
「仕方ねぇな」
「つーことだから、よろしくな!ポンコツっ!あ、名前言ってなかったね。私はリン。よろしくね」
リンを新たに加え、俺達は南西にあるダンジョンへと向かった。
ダンジョンに近付くにつれ、辺りは物寂しくなり、大地もぬかるんでいった。
足を取られながらも、目的のダンジョンにたどり着く寸前、俺達に予期せぬ事態が起きた。
「魔物だ!気を付けろ」
おやっさんが俺とリンに注意を促す。
「ここは俺に任せろ!お前達は隠れていろ」
俺は何も出来ず、木の影に隠れた。
魔物は俺の体よりも一回りもでかい、オオネズミ。
〈普通最初はスライムでしょ〉と思ったが、次の瞬間そんな余裕も消えていた。
「おらぁ~かかってこい!」
〈これが、実戦?〉
ただの変態なおっさんと思っていたが、その目はいつもと違った。
おやっさんが鉄の斤でオオネズミを切りつけると、オオネズミは断末魔を上げ、その場に横たわった。
「すげ~よ、おやっさん」
俺はおやっさんの勝利を称えようと、飛び出した。
「まだ行くなよ」
叫ぶリンの声が聞こえた時には、すでに遅かった。
もう一匹いたオオネズミの爪が、俺に襲い掛かる。
〈グサッ〉
「お、おやっさん」
おやっさんが、俺の前に立ち、代わりに爪の餌食になった。
「おやっさんーっ!」
〈俺の甘い考えのせいで、おやっさんが……〉
「このネズミ野郎~!」
怒りが俺の中の何かを目覚めさせた。
気が付くと、おやっさんの装備していた鉄の斤で、オオネズミを引き裂いていた。
「はぁ……はぁ……やった……のか?」
「俺の思った通りだ。やれば出来るじゃねぇか……痛てて」
「おやっさん大丈夫か?死なないでくれ~!」
「おい!勝手に殺すな。リン頼む」
リンは瞳を閉じ、何やら呪文のようなものを詠唱した。
「キュアル~〈回復呪文〉」
リンがおやっさんの傷口に手をかざすと、優しい光が辺りを包み傷口はみるみるふさがっていった。
俺はこの実戦で一つ得たものがあった。
それはニセ者はニセ者なりに、頑張れば何とかなるということ。
「おい!お前ら行くぞ!ダンジョンは目の前だ」
俺とリンはおやっさんのもとへと走った。
ポンコツは怒りの中で、何かが目覚め覚醒した。
目的のダンジョンは目の前。
何が待ち受けているのだろうか?