絡み付く糸の巻
タイムリミットは三十分。
息よ、続け。
透き通るような透明感、鮮やかな色をした魚達も泳ぐ。
空気の果実を食べたお陰で息が出来る。
下へ下へと潜っていくと、徐々に光が届かなくなり辺りは薄暗くなってきた。
「キャ~」
後ろを振り返ると、巨大な触手がキャンディの足を巻き取る。
「かかった、かかった。ワシはポラポラ様の悪魔騎士団の一人、クラーケンだ。お前達はここで死ぬのだ」
またも現れた悪魔騎士団。
身動きのしにくい水中での戦闘だ。
「キャンディ、今助けるぞ! リンとレイは協力してクラーケンに攻撃してくれ」
「嫌です」
「ごめん、お兄ちゃん。私もレイと戦いたくない」
「何を言ってるんだ」
「だって、リンたら昨日抜け駆けして隼人とキスしたんですもの」
〈ドキッ。バレてる〉
「それを言ったら、レイだって、世界樹でお兄ちゃんとキスしたじゃん」
〈な、何故それを……〉
「と、とにかく今は仲間割れをしている場合じゃない。二人とも頼んだぞ」
俺は泳ぎながら剣を振り回し、触手を切り落とした。
水中での攻撃力は極端に落ちる。
リンとレイを横目で見ると、てんでバラバラの攻撃をしている。
俺はようやくキャンディを救出し、少し離れた場所にそっと置いた。
どうやら気を失ったようだ。
「くっ。俺一人でやるしかないのか?」
「お前らの攻撃なぞ、温い、温い」
「言わせておけば……。リン、レイ! 俺に援護するなら文句はないだろ? 頼む力を貸してくれ」
リンとレイは納得がいったのか、俺の攻撃に合わせダメージを重ねる。
クラーケンの触手が、一本、また一本と吹き飛ぶ。
「クラーケン、これで止めだ!」
俺の剣と、リンの魔法、更にはレイの鉄の爪がクラーケンを襲う。
「ぐはっ。ここまでか……だが時間は稼いだ。お前達の息は果たして何処まで続くかな……ぐぁ」
最後に捨て台詞を吐いて、クラーケンは煙のように消えた。
確かに時間がない。
俺はキャンディを抱き抱え、急いで水の精霊を探した。
「もしかしてあれかな?」
リンの指差す方向に小さな家らしきものが見える。
「すみません、水の精霊さんの家ですか?」
扉越しに言ってみた。
「はい、は~い。どなた? いかにも私は水の精霊だけど何か用? て言うか人間なんて久しぶりなんだけど」
「お願いです。この王者の剣に力を与えて下さい」
「あら、王者の剣ね。いいわよ。但し……」
「ほらきた……何が欲しいんですか?」
またかという気持ちで俺は台詞を吐いた。
「何もいらないわ。私の出すナゾナゾに答えて。通常、水の中で、出来ないことを可能にするものを持ってきて見せて。該当するものなら何でもいいわ。それじゃ期待して待ってるわ」
バスローブ姿のセクシーな水の精霊はそう言うと、家の中に戻っていった。
「水中で普段出来ないこと?」
「お兄ちゃん、それより時間がないわ。一度戻りましょ」
「そうだな」
俺はキャンディを抱え直し、陸へと泳いだ。
その後をリンとレイが追い掛けてくる。
「所でお兄ちゃん、私とレイどっちが好きなの?」
「な、なんだよ。いきなり」
「いきなりではありません。さっきの話は終わっていません」
「答えなくちゃ駄目か?」
「駄目!」
「ダメです」
俺に逃げ場はなくなった。
「どっちも好き、じゃ駄目か?」
俺は格好つけて言ってみた。
「駄目に決まってんじゃん。白黒はっきり……ねぇ、何か息苦しくない?」
「そう言えば。空気の果実の効果がきれかかってるんだ。上へ急ぐぞ」
〈苦しい……もう駄目か〉
そう思った時、ようやく光が見えて来た。
「リン、レイ、もう少しだ。頑張れ」
俺はキャンディを抱えながらも、リンとレイを陸にあげた。
「ぷはっ。死ぬかと思った……」
リンとレイは精根尽きてぐったりしている。
「キャンディ、キャンディ大丈夫か?」
返事がない。
〈くそ、人工呼吸するしかないか。キャンディに人工呼吸するのは気がひけるが、俺がやるしかない……よな?〉
俺はリンとレイを横目に、キャンディに唇を重ねた。
ぽってりと柔らかい唇。
〈いやいや、そんな事を考えている場合じゃない。一刻の猶予を争う時だ〉
俺は懸命に人工呼吸を続けた。
「うっ、うぐっ」
キャンディは息を吹き返し、目を開けた。
「ここは?」
「滝壺の前だ。クラーケンにやられて気を失ってたんだよ」
「隼人が助けてくれたの?」
「あぁ」
俺は抱き抱えたキャンディを離そうとした。
「待って。私の大事な大事なファーストキスを奪ったんだから、結婚して」
「え~。そ、そんな……」
リンとレイとの三角関係に悩む俺に、更に複雑に糸は絡み合い、手の施しようがない状態になってしまった。
三角関係が四角関係になってしまった。
それより、水の精霊のナゾナゾを解かなくては。




