旅立ちの巻
ゲームの世界に降り立ったニセ勇者ポンコツ。
始めに向かった先は?
見渡す限りの平原。
本当にこの先に街があるのだろうか?
ひたすら歩みを進める。
今のところ敵らしい敵もいない。
三十分ほど歩くと、小さな街が見えてきた。
ようやくゲームの中の人と接触できるチャンスが巡ってきた。
小さい割には、店は充実し活気が溢れている。
俺は井戸の近くにいた老婆に話掛けることにした。
「すみません、ここは何処ですか?」
「何だお前さん、汚ねぇ格好して」
〈抑えるんだ〉
俺は作り笑いをしながら、続けた。
「ですから、ここは、何処ですか?」
「ここは、ベルナの街じゃ」
情報はそれだけだった。
〈とにかく街を探索しよう〉
俺は片っ端から、店をあたった。
小さな街だけあって、全体を把握するのにそう時間は掛からなかった。
問題はやはりお金だ。
いくらゲームの中とは言え、お金は必需品である。
俺は大量の満月草を売るために、道具屋に赴いた。
「すみません、これ売りたいんですけど……」
顎に髭を蓄えた店主は、一瞬不思議そうな顔をして、その後鑑定に入った。
「お待たせ!全部で70ゴールドでどうだ?」
不満はあったが、俺は首を縦に振った。
例え少額でも、生きていくにはお金は必要だと考えたからだ。
俺はその少ないお金を元手に〈布の服〉を購入した。
「普通最低でも着てる布の服をなんで買わなきゃいけないんだ」
俺は愚痴りながらも、その布の服に袖を通した。
「く、くっせ~」
古着ということもあり、尋常じゃない臭さだった。
しかも、ズボンの後ろに付いた、カレーらしきシミがう〇こを連想させる。
「俺が何をしたと言うのだ。酷いよ、神様……神様?そうだ、セーブしないと。こんなんで、やられたら、もとも子もない」
俺は匂いを我慢しながら、この先にある教会へと向かった。
「あぁ、神父様。俺を救って下さい」
「くせぇ、あなた神への侮辱です。教会から出ていきなさい」
「そんな、セーブさせてくれよ」
俺は死に物狂いで神父にしがみついた。
「わかった、わかったから、少し離れなさい」
「ありがとうございます。ところで、どうやってセーブするの?」
「あなた面倒臭い人。日記に名前書けばいい」
「名前を書けばいいんだな」
俺はペンを手に取り、日記にポンコツと記した。
「ポンコツ?ふざけないで下さい。真面目に書いて下さい」
「いつだって、俺は真面目だ。ポンコツ……それが俺の名前だ。ん~?本当の名前があったような、なかったような……ダメだ。思い出せない。とにかく俺の名前はポンコツだ!」
「そこまで言うなら信じましょう。では、早く出てって下さい」
「はいはい」
俺は言われるがまま教会を出ようとした。
〈シュッ!シュッ!〉
振り返ると、神父は消臭スプレーを振り撒いていた。
「ゲームの中で、消臭スプレーはねぇだろ?二度と来るもんか!」
「助かります」
さすがに俺はキレた。
ドアノブに一粒のハナクソを塗り込み、俺は教会を後にした。
俺は小さな復讐を成し遂げた。
「神さま、許して下さい」
俺はバチが当たらないように、こっそり祈った。
いつまで、油をうってる気だ。ニセ勇者ポンコツよ。