プロローグの巻
俺は誰なんだ?
誰か教えてくれよ?
帰りたいよ~
ていうか、何処へ帰るかもわからね~
〈名前を入力して下さい〉
「えっ!名前?面倒くせぇな~。ポンコツでいいや。決定っと」
〈おいおい、なんだよポンコツって。俺には隼人って言うちゃんとした名前があるんだよ。ていうか、どこだよここ〉
目が覚めると、薄暗い隔離された場所にいた。
おまけに勝手に俺の名前は〈ポンコツ〉で登録されてしまった。
俺は何処から来たのか?ここは何処なのか?首をひねっても答えは出て来なかった。
ただ一つ言えることは本当の名前〈隼人〉を忘れかけ、〈ポンコツ〉という名前に馴染みかけているということだ。
「お目覚めですか?ニセ勇者ポンコツ様」
「あんた誰だよ。ていうかニセ勇者って何だよ」
「これは、これは失礼。私、この世界のマザーブレイン兼、支配人のポラポラでございます。以後、お見知りおきを」
「ポラポラさんよぉ、ここは何処なんだ?俺は早く帰りたいんだよ」
「申し訳ございません。私としたことが。ここは庶民的RPGダークドラゴン物語の中でございます。それで、ポンコツ様?」
「何だよ!ていうかポンコツになりかけてんじゃん、俺」
「えっと、私どもも帰したいのは山々なんですけど、不具合が生じてこのままでは帰せないんですよ。私としては、むしろ帰っていただき……いや、何でもございません」
「つまり、バグったゲームの中に閉じ込められたってこと?」
俺は冗談半分で言ってみた。
「その通りでございます」
「当たってんのかよ。んで、このニセ勇者って肩書きと〈ポンコツ〉って名前はどうにかなんないの?」
「お気の毒ですが、一度決めた名前は変更できません。最も、プレーヤーが望めば可能ですが。それと、ニセ勇者の件ですが、何分バグで出来たジョブですので……」
「そうかい、そうかい。んで、俺は何をすればいいんだい?」
「わかりません。とにかくフィールドに出て下さい。(ここに居られても困るので)」
「おい!聞こえてるぞ!一体どうなってんだよ!俺は誰なんだよ」
「ニセ勇者ポンコツでございます」
「いや、そうじゃなくて……もういいや、自分で何とかするよ。世話になったな、ポラポラさんよぉ」
「お待ち下さいませ、これをどうぞ」
「何だ?これ」
「ステテコパンツと朽ち果てた枝でございます」
「いらねぇよ。くれるならもっとマシなものくれよ」
「いや、あの~前を隠された方がよろしいかと……いくらゲームでも捕まってしまいます」
「げげっ。チ〇コ丸出しじゃん。それ早くよこせよ。ていうかブカブカじゃん。サイズあってねぇよ」
「何度も申し上げますが、何せバグですので……」
「わかった、わかった。もう聞きあきた。所でその枝は?」
「武器でございます」
「これで魔物と戦えって?こんなんすぐに……」
〈ポキッ〉
「言わんこっちゃない。他にないの?」
「申し訳ございません」
「だから聞きあきたって。俺に素手で戦えと?何処の世界に素手で戦うゲームがあるんだよ」
「あ、これならあります。どうぞ」
「何?この草の山」
「満月草でございます。麻痺した時に使って下さい」
「こういう時、普通薬草じゃねぇの?それにパーティー俺一人だから麻痺したら、全滅じゃん。使いどころわかんねぇよ」
「大量に余っていたもんですから。それはそうと私どもでも、早急にバグった原因を究明しますので……」
「その言葉信じるよ。一丁やってやるか!」
「いや、やらなくて結構です」
かくして俺はニセ勇者ポンコツとして、旅立つことになった。
目的?わからない。
多分、敵はいると思うが、ある意味みんなが敵である。
果たして俺は名前を取り戻し、もとの世界に……もとの世界って何処だ?
まぁ、いい。
もとの世界に戻れるのだろうか?
〈決まった~ゲームっぽい?〉
「ポンコツ様~」
「何だよ、まだ居たのかよ」
「これが暫定的な設定でございます」
「よ、よわ!魔法使いより、弱いじゃん。それに、この年齢三十歳って……」
「入力ミスで、十三歳が三十歳になってしまいました。すみません」
「もういいよ。とりあえずフィールドに出てみるよ」
「はい。一名様ご案内~」
薄暗い隔離された部屋を抜けると、緑が生い茂る平原へと繋がっていた。
「誰かいませんか?」
か細く放った声が平原にこだました。
「ゲームの中なら街か村がある筈だ」
俺はブカブカのステテコパンツを押さえながら、北と思われる方向に歩みを進めた。
ニセ勇者ポンコツの旅は始まった。
新たなる伝説の幕開けだ。