07 等加速度運動
「いない……か」
私と雄哉は彼の家に行ってため息を付いた。いたのは彼の家族だけ。もうついている時間らしいが着ていないらしい。心配そうに私たちにそういった。
「……帰ろう」
「うん……」
私たちは家路についた。
「…………」
無言の中で車を走らせる。外の風景を眺めていると違和感を覚えた。煙がそこらじゅうで上がっている。確かにここらへんは田舎で野焼きとかはするけれど――ここまでだったろうか。
「ねえ、おかしくない?」
「……わかってる」
雄哉は更に車の速度を上げて私たちの住むアパートに向かった。まだ引越しはしていないがいろいろなものがそこに置いてある。そんなことはないだろうと頭では考えているが、もしかしてと頭の隅でそれが居座っている。
「……っ」
息を飲んだ。
私たちの住むアパートが真っ赤に燃えていた。
雄哉は車を止めて外に出た。車内に煙の匂いがどっと入ってくる。私はその赤い建物から目を離せず、また突然のことに頭が完全に停止していた。
「逃げるぞ」
帰ってきた雄哉はだいぶ苦しそうだった。
気がつけば他の家も燃えていた。しかし、田んぼや畑、山は燃えていない。
「急いで!」
「あぁ!」
車を急発進させたその時――
「逃すかァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
男の叫び声が聞こえた。
私は怖くて振り向けなかった。
車は更にスピードを上げる。
村の出口の下り坂に差し掛かった。
「ヤバい! ガソリンが切れた!」
雄哉が震える声でそういった。私は恐怖で体中の力がすっと抜けた。車はあと少しで下り坂ってところで停車する。
「嘘だ……嘘だよ……」
「アアアアアァァアアアアア!!!!!」
「さっきの男だ! やばい、自転車で追っかけてきてる。このままじゃ逃げ切れない」
「殺されるの!?」
「あぁ、そうだ」
雄哉はそう言って車を降りた。そしてゆっくりと車が前進しだす。その間も男の叫び声は聞こえる。どんどんこちらへ近づいてくる。
――ヤバい。
そう思った瞬間、車が坂を下りはじめた。
「雄哉! 早く乗って!」
雄哉は走って車の速度に追いつこうとしている。
――が
「殺せェエエエエ!!!」
その声と共に私の視界から彼の姿が消えた。
なんで、どうして。
私はひとり取り残されて坂を下る。真っ直ぐな道を。
等加速度運動する車でもいずれは止まるだろう。
だけど私の不安は止まることなく等加速度運動を続ける。
雄哉は――?
私はただただ、彼のことを想い続けるしかなかった。
目の前には真っ赤に燃える隣町が見えた。
あぁ――もうだめだ。
事態は加速していく。
ただ、それは等加速ではなく、急速に。
それを止める術はあるのだろうか。
私は頭の片隅にそんなことを思い、目を閉じた。
こんにちは、まなつかです。
なんか変な最終回でしたが、これで本作は完結です。
『止まらない、止められない。』となにか共通点を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
きっと――いつかきっと続きを書く時が来るでしょう。
ひと夏の記憶が更新を停止していますが、ご了承ください。受験勉強で忙しいです。
それでは、テスト期間中ですので、このくらいにて。
またどこかで会いましょう。
それでは。




