06 夕焼け――7月19日
「先生、私と結婚してください」
そう申し込んだのはいつの日だったか。
私は流れ行く景色をガラス越しに眺めながら回想していた。
確か――小川と付き合い始めて3ヶ月くらいたった頃だったと思う。
そのくらいの時だった。
*
「先生、私と結婚してください」
その声が校舎裏から聞こえてきたのはいつの日だったか。
あの日は夕焼けが綺麗だったのを覚えている。
ショックだった。
ずっと信じていた人が僕を裏切ったのだから。
柴田の答えは聞かなかった。聞くに耐えられない。僕はその場から立ち去った。
今でもそれは鮮明に覚えている。
まさか――まさかそれが現実となるなんて思いもよらなかった。
だけど、それが……
*
夕焼けによってその空間は作られていて、校舎の白い壁を赤く染めていた。
隣の森からヒグラシの声が悲しげに響いている中私は柴田先生に告白した。
「……それは……できないな」
「えっ」
返ってきた答えはそれだった。
心がふっと浮き上がるような感覚。脳裏がヒリヒリとしびれる感じがする。
「生徒と教師が……そういうのはできない」
先生はどこまでも誠実だった。
「だから、お前が卒業して西高校に入ったらいい」
「え……」
西高校はこの辺りで最もレベルが高いと言われている高校だ。私の学力ではせいぜいその下の下の下の下の下の下の下である北高校が精一杯だろう。
「本気ですか? 無理ですよ」
「じゃあ、俺との結婚も諦めてくれ」
「……」
「それじゃ」
先生が私に背を向ける。
「私……行きます。西」
「……そうか」
先生は背を向けたままそういった。『がんばれ』のヒトコトもなかった。
夕焼けに照らされた先生の背中が私の心を少し苦しめた。
だけどなんとしてでも――




