05 部活――7月18日
「あー、あちぃー」
私は制服の胸元を開いてうちわで風を送り込んでいた。
「うぅー……」
中沢さんはそれでも真面目にパソコンに向かって文章を打ち込んでいた。何を書いているんだろうか。私はちょっと気になってパソコンの画面を覗き込んだ。
「あ、ちょっとやめてくださいよー」
「いいじゃんいいじゃん」
おっ……これは……!
「あんたもエロねえー」
「いやっ! ちがっ! これはっ……!」
中沢さんもやっぱりお年頃なのねーとかどうでもいいことを思いつつも視線を外に向けた。夏と言ったら入道雲! っていうくらい大きな入道雲が浮かんでいた。私がそれをぼけーっと見ているとこんこんと部室のドアが叩かれた。
「はーい」
私は重い体をなんとか持ち上げてドアノブをひねった。
「よぅ」
「あ、先生」
「がんばってるかい?」
「あ、はい」
先生はジャージ姿で首からタオルを垂らしていた。それもまた似合っていてかっこいい。
「ところで……なんのようですか?」
「用もなしに来ちゃいけないかい?」
え……!?
「っていう少女漫画の受け売りみたいなことは言わないから安心しろ」
絶対後ろで小説書いていた中沢さんも固まっただろうな。いまどきそんなんねえよ。
「実は……これを持ってきたんだ」
「はいはい……」
柴田先生が横にあったダンボールから一台の扇風機を取り出した。おおと私と中沢さんが歓声を上げる。柴田先生は得意そうになってふっふっっふーと笑った。
「どうだ」
「ありがとうございます」
「いいっていいって」
しかし、どこから持ってきたんだろうか。
「校門前の溝に落ちていたんだ」
「え!? ちょ、それ、やばくないですか!?」
「大丈ブイ!」
……。
*
僕がぼーっと赤く染まった空を見上げていると突然後ろから押された。
「うわっ!?」
水しぶきを上げて川の中に僕は落ちた。後頭部に強い衝撃が襲う。
とっさのことに何もすることができず、ただただ、沈んでいった。
「伊藤……お前……」
かすかにつぶやいたその声はもう誰にも届かない。耳の中に水が入ってきて完全に音が聞えなくなった。
(やばい……)
そして意識も途絶えた。
*
「雄哉」
私は喫茶店から出て車に乗り、桜並木を走っていた。隣では真っ直ぐ前を向きながら車を運転している雄哉の姿があった。免許をとってから一年経つが、まだ不慣れなところがあるらしい。減速しつつ私の話に付き合ってくれた。
「やっぱり……小川には悪いことをしたのかな?」
雄哉は大きな桜の木の下に車を停車させると前を向いたまま答えた。
「そうだろうな。香里野だって嫌だろう」
そうかもしれない。
「私、小川に謝らないと」
「そうだな。小川のうちでも行くか?」
「うん、お願い」
「はいはい」
雄哉は再び車を発進させた。桜並木を進む。どこまでも。




