00 偶然の再開
前作『因数分解』を読んでからこの作品を読むことを推奨します。
NコードN2361T
僕が彼女と再開する――これは、偶然と言っていいだろう。
僕が書いたあの小説は学校内では話題にならなかった。まぁ、話題になったら問題になっただろう。
軽く、前作『因数分解』の真偽を言っておこうと思う。もし、まだ読んでいないなら先に読んでほしい。NCodeはN2361Tだ。
……いいかな?
アレは、07話――ほら、えっちいシーンがあるところだ――からフィクションとなっている。それ以前までは多少脚色がかかっているものの、殆ど本当のことと言っていいだろう。
とりあえず、僕は柴田を殺していないし、香里野は先生とやっていない。
そして僕と彼女の関係は自然消滅してしまった。
――2011年。春
僕は結局こうやってぐだぐだ小説を書きながら高校三年間を過ごして卒業し、大学に入ることになった。あまり聞いたことのない大学だった。
「和義」
あ、僕の名前は小川和義。入試に受かって入学まで少しある時、母から電話がかかってきた。
「母さんか。どうしたんだ?」
「大学合格おめでとう」
「ありがと」
「そうや、うちに帰ってきなさいな」
「えぇ……と」
どうしようか。ここから実家がある田舎まで約3時間かかる。面倒くさい。
「はい、それじゃあ明日、待ってるからね」
「……はいはい」
仕方無しに行くことにした。久々に帰るなぁ。
僕は荷物を準備し始めた。高校に通うために借りたアパートは殆ど整頓されていた。ここから大学に通うのだが、なんていうか、パソコンと机、冷蔵と、電子レンジなど必要最低限のものしか置いていない。服も制服しかない。まぁ、必要ないからな。
そして次の日、電車やバスを乗り継いで実家のある田舎へ帰ってきた。ここをでた三年前と殆ど変わらない。
「ん~っ!」
大きく伸びをした。
その横を黒い車が通りかかる。
「……ん?」
そしてそのまま横に駐車した。僕は警戒した。このまま車内へ連れ込まれて誘拐されるかもしれないからだ。
バタン。扉の音がして運転席と助手席から人が出てくる。
「……っ!?」
僕は運転席から出てきた奴の顔を見てどきりとする。――忘れもしない、柴田の野郎だった。
「よっ、小川」「こんにちは」
「なん……で……だ……?」
一歩。また一歩と引き下がっていく。僕は恐怖に満ちていた。
……こいつら……いったいどういう関係になっているんだ?
「久しぶり、小川」
「かっ……香里野……」
彼女は変わっていた。こうも変わるものなんだろうか。昔あった幼い雰囲気は全く無く、大人っぽくなっていた。そりゃそうか……って今はそこをとやかく言うつもりはない。なんでこいつらが一緒にいるってことだ。
「私たち、結婚するんだ」
その香里野の放った言葉が心にズシンと突き刺さった。
――もう、なんでもない関係のはずなのに――
僕らは近くの喫茶店に入った。昔からそこになるのだが、僕は未だ入ったことがなかった。三人で中に入り、一番奥側の席に着く。僕が椅子に座り、彼らがソファに座った。
「あ、コーヒー三つ」
「かしこまりました」
僕はオレンジジュースがよかったんだけどね。
「……それで、俺らなんだけどさ」
柴田が口を開く。僕は奴の目をしっかりと見た。
「結婚することにしたんだ」
まさか、本当にそういう関係になるとは思いもしなかった。
「どうして……やっぱり、香里野の思いが通じたのか?」
「うん……そうなのかな」
香里野は幸せそうに微笑んでいた。
「あのさ、小川って小説書いていたでしょ? だから私たちの物語を書いてくれないかなぁ……って思ってさ」
「そんなこといわれても……」
「お願い! 結婚の記念に残しておきたいんだよ」
僕は別にプロでもなんでもない。ただの同人作家だ。
しばらくしてコーヒーが運ばれてきた。僕はシュガーシロップを全部入れ、おまけに机にあったスティックシュガーも二本入れ、ミルクを入れた。
「入れすぎ」
香里野に突っ込まれる。僕は苦いのが昔から苦手だった。コーヒーを飲むときは必ず大量に砂糖をいれている。
「……まぁ、僕のことはいい。とりあえず、なんで僕なんだ?」
僕がそう尋ねると彼らは顔を見合わせて微笑んだ。
「だって、あの小説小川が書いたんでしょ?」
どきりと心臓が跳ねる。こいつらだけにはバレてはいけなかったのに。
「ほら、やっぱり。だからさ、書いて欲しいんだよね」
僕は唸った。これから大学で勉強もあるっていうのに……。
「まぁまぁ、じゃあとりあえず話だけでも聞いてくれ。香里野が日記を付けていたから……」
柴田が口を挟む。
「日記……ですか」
「そう、これなんだけどさ」
奴はかばんの中からUSBメモリーを取り出した。
「小川っていつもパソコン持ち歩いていない?」
図星。僕はいつもモバイルPCを持ち歩いていた。それを取り出して机の上に出す。
「この中に入っているのか?」
「うん。それを読みつつ話を聞いて」
Windowsが起動する。僕は四色のそれを見つめながら不快感を感じていた。なんで元カノから惚気話を聞いて小説にしなくちゃならないのだ。
「あっ……!」
「何?」
「母親に電話入れなきゃ」
「あぁ。そのために来たんだ」
「そうだよ」
僕は失礼と席をたって外に出る。そしてAndroid端末を取り出した。えーっと……
「もしもし、母さんか。ちょっと今日は遅れる。夜になるかもしれない――」
僕は電話を切って、桜の舞い散る並木道を見てから店の中に戻った。
「それじゃあ……始めるね。私と柴田先生……ううん、雄哉との物語を――」




