VIII 演習場にて
「リノンさん、クマ凄いですよ〜」
「そうかもしれない」
翌朝の私は一睡も出来なかったためひどい顔をしていたらしい。兵舎で『春節の儀』用の華やかな羽根のついた兜を纏ったアルベルトが私の顔を覗き込む。
「もうすぐ『春節の儀』ですね。良かったんですか? 騎手、僕にしちゃって。まぁ、僕としては故郷にいる彼女に良い話が出来て嬉しいですけど」
『春節の儀』の主役はアルベルトに任せた。私はサポート役として全ての手順をマニュアルにまとめる役をしている。
「むしろ助かる」
今のところシグルドのおかげで仕事も順調に進められている。勿論この順調というのは退職の準備が順調、という意味だ。
(これでいつ居なくなっても大丈夫だ)
アルベルトは兜を置くと急にこちらを真剣な目で見つめてきた。
「これでもリノンさんには感謝しているんですよ。最近王国に編入されたばかりの地域の出身である厄介者の僕を育ててくれていて。こんなに都合のいい人はあなたをおいていません。上司としてずっと居てくれるって、約束してください」
(随分と懐かれたものだ)
アルベルトは王都の者からしたら余計な一言を言うし、まだまだ臆病者だ。
「これをやる」
「え、コレ。リノンさんの槍じゃないですか」
「情報料だ」
私は既に第二の人生のスタート地点に目星を付けていた。ちゃっかり槍を懐にしまいながら、アルベルトはシグルドの話を出してきた。
「そういえばリノンさん、聖獣使いとはどうなったんですか?」
「? 何故……」
「何故ってあの人――」
しかし、アルベルトの言葉は最後まで聞くことができなかった。演習場から二人の人物がやってきたからだ。
「失礼します! 春からの新人を挨拶に連れてきました!」
部下が連れてきたのは赤いツインテールの魔導学校の制服の女。見覚えがある。
「お前は、リノン•ハートレット!」
隊長になんて失礼な!と部下に嗜められるが、反省するそぶりはない。
「……いつぞやの泥棒じゃないか」
私が隊長になってからこの部隊には問題児ばかりを放り込まれている気がする。きっとこれは気のせいではない。
「こんな男の下で働くのは嫌! 嫌ですわ! わたくしを誰だと思っているの!」
「あっ、隊長は女性ですよ」
「女ァ!? その背の高さで!? その肩幅で!?」
あれローブに肩パッド入ってるんですよね〜と要らないフォローをアルベルトがしている。なぜ知っているのか。
私が首を傾げている間にもツインテールはポカポカと私を叩き始める。
「ちょっと待ちなさいよ。シグルド様と一緒に居るのが女だなんて。いや、それも! これも! あれも! あんたのせいであの研究所でえらい目にあったんだからぁっ!」
「隊長! 申し訳ありませんでした! 此奴は教育してから連れてきます」
ツインテールを連れてきた部下がツインテールを引きずっていく。私はまだ何かを言っているツインテールを見ながらお姉様のことを思い出していた。
(そういえば最近お姉様から呼ばれなくなったな)
以前は一週間に一度は呼ばれていたのに、最近はめっきり連絡すらない。
(元気にしていればいいが)




