VII 【リノン視点】二人の暮らし
【リノン視点】
「寝るところだがここを使ってくれ」
「あぁ」
私は何故かシグルドの家に来ていて、何故か一緒に暮らすることになっている。
(こんな罪悪感に付け込むようなことをしたい訳ではなかったのに)
シグルド曰く、なかなか魔力の相性がいい相手は見つかるものではないという。この魔力の相性は私とではなく、お腹の子供とであるからだそうだ。「それならば既に魔力の相性を試してある自分と居た方が良い」と押し切られて今ここに至る。私は魔力欠乏など今までなったことがなかったから相性云々の深いことは知らない。しかし、シグルドであれば間違いなく魔力の融通が効くことは疑いようのない事実だ。
(当たり前と言えば当たり前だ。お腹の子はシグルドの子供なのだから。シグルドの魔力を受け付けない訳がない)
一緒に住むことに関しては、野営と一緒だと言われてしまえば断りづらい。私達は任務で野宿すらするのに、断れば何を意識しているのだ、と言われかねない。
(早く出ていけば大丈夫。シグルドは善意と責任感を混ぜこぜにしているだけだ)
シグルドはたまたま私が倒れたところに居合わせただけ。助けを求められたときに居ただけだ。そんなことは――わかって――居るのに――。
「リノン、今日はお前の好きな魚料理にしたぞ!」
「任務で行った街で綺麗な首飾りがあって、お前に買ってきた」
「リノン! 一緒に買い物に行かないか?」
シグルドはかつてないほどに私に構ってくる。とてもではないが「もう出ていく」なんて言い出せない。
(これは最早同棲初期の恋人仕草なんじゃ……ないか……?)
私にそのような経験はないが、なんだか、なんというか、甘い雰囲気すら感じてしまう。
極め付けは毎晩のコレである。
私達は就寝の準備をした後、必ず互いの手と手合わせる。魔力の譲渡のためだ。指と指を絡めて繋ぎ、半刻程そのままになる時間がある。この時間は手持ち無沙汰なのでその日あったことや取り留めのないことについて話したりする。
(こんなの……困る)
シグルドから離れなければならないのに、繋いだ手の体温から、交わした言葉の破片から愛しいという気持ちが溢れてしまって離れられないでいた。
*
一ヶ月が経った。
いつもであればシグルドはもう帰ってきている時間なのに。しかし、今日この日は部隊の飲み会とやらで帰ってこなかった。
(今日はそれほどまで魔力が減っていない。大丈夫)
自分の身体に変化がない分、妊娠しているという自覚はあまりないが、無理をするのはよくないだろう。私はシグルドを待たずにそのまま布団に潜って眠ることにする。
私が微睡み始めたタイミングで耳元で小さく声がした。
「リノン、もう寝たか?」
シグルドだ。帰ってきたらしい。お酒の匂いがする。
「ん……?」
「眠いよな。悪い」
帰ってきたばかりのシグルドはきっと就寝まで時間がかかる筈だ。今夜の魔力譲渡は私が眠っているときにしてくれるのかもしれないとぼんやり考えた。
(意識があるときに触れたかったな)
私がそう考えたときにシグルドがこう切り出した。
「そういえば魔力譲渡が早く終わる方法を聞いたんだが、試してみるか?」
私は頷く。
「じゃあ、こっち向いて」
それは確かに一瞬のことだった。唇と唇が合わさる感覚――。
(!?!?)
「確かに一瞬で終わるけど、俺的にはいつもの話す時間があるのも捨てがたいな……。おやすみ」
シグルドは湯浴みに行ったのか姿を消す。私はというと、まどろんでいた筈が一気に眠気が消え去った。
(今のはキス……キスでは??)
シグルドは酔っていた。完全に酔っていた。
(これは……! やはりここに長くいるわけにはいかないな)




