V 【シグルド視点】俺が告白しようとしたのは
【困惑の人•シグルド視点】
「…………終わった」
告白しようと思った相手に、妊娠紋がある。これは魔工子宮で魔術的に子供を作るときのもので、それがあるということは既に決まった相手が居るということだ。
(両腕……子供が……二人…………)
魔力の相性が良いと複数の子供が生まれるとか、お互いの気持ちが強いと二人になるとか、そんな迷信を聞いたことがある。
(リノンが倒れたときは本当に衰弱して死んでしまうかと思った。こんなことをする奴がリノンに相応しいとは思えない)
百歩譲ってリノンに好きな相手が居るのも、自分とは違う相手と結ばれるのも良いだろう。しかし、その相手が相手を妊娠させて責任を取らないクズであれば別だ。
(絶対にリノンの相手を突き止める)
しかし、周囲に聞き込みをしてもリノンの相手というのは見つけられなかった。
(そもそも、リノンのことを男だと思っている奴が多すぎる)
リノンは男社会である魔騎士の中で過ごすために常に大きな白のローブを纏っている。声も低く、あえて男のような喋り方をしているくらいだ。フードを深く被っていて顔もわかりにくいのでパッと見では女だとはわからないだろう。
(まぁ、俺もわからなかった側の人間だが)
*
3年前。
隣の部隊の成績が急に上がった。どうやら話を聞くと欠員補充された奴が目立たないがすこぶる強いという。俺は興味を惹かれ、そいつに勝負をしかけたことがあった。魔騎士は魔術と槍術の2つのスキルをメインに戦う。決闘場で2人で手合わせをしたが、俺が完敗してしまった。俺は思わず、これきりの縁にしたくなくて声をかけた。
「ここまで強い相手には初めて出会った。良かったら次の武術大会に俺と一緒に出ねぇか?」
この王都では大きな武術大会があり、男のみ2人1組で出場することが出来るのだ。優勝すると王女様からの褒章がいただける。また、良い縁談が貰えるとして武術で身を成すものにとってはチャンスだった。俺は名家の出身ではあるが、次男のため嫁ぎ先を探す必要があるとその時は考えていたのだ。
しかし、その凄腕の魔騎士は静かに首をふった。
「それは難しい」
俺は武術大会のメリットや、出世にも良い影響があることなどを説いたがついぞ相手の意見を変えることができなかった。頑なに出ようとしない理由を問うとリノンはゆっくりとフードを脱いだ。
「私は女だから」
水色の長い髪が夕日に照らされる。髪と同じ水色の瞳は透き通っていて、泉のような静けさを持って居た。
強くて美しい女に、俺は一瞬で恋に落ちたのだ。
*
あのときはわからなかったが、今思えばあのフードに視覚阻害の魔法がかかっているのかもしれない。
(あれからリノンとの接点を増やそうと任務で一緒の機会を作ったりしていたが、俺がうかうかしている間にリノンに恋人ができるなんて。いや、しかし、本当に誰なんだ。誰なんだよ!)
リノンのことを好きになってから、リノンのことを観察していたつもりだが、恋人のような存在はいなかったはずだ。リノンは口数が少なく、交友関係も広くない。ストイックでよく訓練場に居て、魔術の練習をしていたり、トレーニングをしている。それでいて、気取ったところはなく素朴でちょっとボケのタイミングが独特だ。そんな彼女が中途半端な相手のことを好きになるのが本当に許せなかった。
(こうなったらどうにかしてリノンから聞き出して――)
王都の道を考えごとをしながら歩いていると、つい最近話したことのある男に呼び止められた。横に居るのは俺がずっと心を悩ませている女性――リノンその人だった。
「呼んだか?」
「あっ、こんにちは。うちの隊長が具合悪いみたいなので、連れて帰ってもらえますか? 家はあそこです」
「何を勝手に」
軽々とプライベート情報について暴露する男は確かリノンの部隊のアルベルトとかいったと思う。
「わかった」
*
俺はリノンの了解を取るとリノンの部屋を訪れた。弱小とはいえ貴族とは思えない平民のような壁の薄い部屋にリノンは住んでいるらしい。
「魔力が足りないのか」
座り込んだリノンの手に自身の手を重ねた。魔力がリノンに移っていくのを感じる。魔工子宮計画において、胎児は魔術によって研究所の地下の魔術で出来たガラス管に産まれるという。研究所員の不正を防ぐため、誰も立ち入れないようにしているため母親から供給される魔力以外に干渉することは出来ないと説明された。
「お前が今、一番大事にするべきは自分と子供なんじゃないか」
「その通りだ」
目を伏せるリノンは今まで見たことがないくらい弱っている。
「まだ、子供の父親は言えねぇのかよ」
「あぁ」
「甘い。子供ができているんだぞ。その相手はこういう時に助けてこそ誠実というものだ」
「……いいや、十分すぎるほどに誠実だよ。本当に私の子供の父として勿体無いくらいだ」
「そいつのことが好きなのか」
「愛しているよ」
「!」
(……それは俺が一番言われたい言葉なのに)
意味がわからない。リノンと話す度に、リノンがここまでされて尚、相手のことを好いているのがわかって苛立ってしまう。
「シグルド、君には本当にすまない。すまないとは思っているんだ。けれど、君がこのような状況にも関わらず手を貸してくれること、本当に私は感謝してもしきれない」




