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IV 魔物討伐へ


「今年もよろしく頼む」

「はい、リノンさん!!」

 年が明けて。私の部隊の者と任務に来ていた。これは私が面倒を見ている若手の男、アルベルト。見た目は巻き毛で背が低く、小動物のような男である。いつもひと言多く、おっちょこちょいですぐにミスをする。

「? あれ、リノンさん、そんな手袋してましたっけ?」

「少し怪我をしたんだ。気にするな」

 私は白い魔術師のローブの下にアームカバーをすることで紋様を隠すことにした。

(『春節の儀』までは与えられた任務をこなそう。その後は――姿を消そう)

 『春節の儀』は大きな儀式だ。今抜けると部隊の者に迷惑が掛かる。私が女である以上、この仕事もこれ以上のキャリアは望めない。やがては辞めようとは思っていたのだ。少し時期が早まっただけのこと。

 お姉様からの呼び出しには何かと理由を付けて断っている。今はなんとかなっているが、長くは持たないだろう。

「今日の任務は西の魔物の討伐だ」

「僕、討伐は本当に苦手なんです。ほら、僕魔物怖いし」

「魔力が多いし魔力操作は得意だろう。今日は落ち着いて狙ってみろ」

(……アルベルトには悪いが、省エネでやらせてもらおう)

 私にとって今、一番大事なのはシグルドとの子供なのだから。

 *

「リノンさんリノンさん!! 助けて!! 助けてください!!」

「動くなと言ったのに」

「ひゃぁぁぁあ怖い!! 怖いですぅ!!」

 数刻後、私は巨大猪を前に震えるアルベルトを木の上から見守っていた。眠っている巨大猪に植物の魔法で捕縛する指示にミスはなかったと思う。アルベルトが極度のヘタレで緊張して魔法を外すどころか、捕縛の魔法を自分にかけてしまいパニックになって巨大猪を起こしてしまうまでは。昼寝を妨害された巨大猪はアルベルトの鼻先まできている。

(少しだけなら、大丈夫か?)

「動くなよ」

 私は呪文を唱えると巨大猪を魔法を付与した槍で突く。

「リノンさん、助かりました!」

「だから、あれだけ落ちつけと......」

「リノンさん本当に強いですよね! うちの村だったらヒーローになれてますよ! うちの村は魔物の被害がひどくて、僕も魔物退治に――」

 アルベルトの村の話は耳にタコができるくらい聞かされてきた。しかし、私が片膝をついたのを見てアルベルトは口を一度閉じる。

「リノンさん?」

「すまない。少し魔力欠乏になってしまって……」

(……あれから明らかに体調がよくない)

 少し魔力を使うだけでも立ち止まらなければならなくなっている。

「あっ、僕の魔力あげますよ。確かに威力もなんかいつもより小さかったですもんね」

 アルベルトは手袋越しの私の手に触れる。しかし、全くと言っていいほど受け取ることができない。

「あれ。おかしいな」

「魔力の相性が悪いんだろう。大丈夫」

 魔力には相性があるという。私とシグルドとの相性は良かったけれど、きっとアルベルトとはよくないのだろう。

「帰るぞ」

「リノンさん、病院に行った方が良いと思いますよ」

「問題ない」

 王都に帰ってきた私達は報告のために兵舎に向かっているところだった。私も歩くくらいであれば問題ない。

「じゃあ、僕だけで後で報告に行きますから、リノンさんは家に帰ってください」

 家、この近くですよね。とアルベルトに手を引かれる。

「すまない」

「いや。リノンさんが倒れたら僕じゃ支えられないので」

「お前本当......」

「うちの村では婚前の女性を抱っこしたら結婚しないといけない掟があるんですよね。僕、村に彼女が居るので王都で間違いを起こしたら半殺しにされちゃうなって」

(? アルベルトは私が女であることを知って居たか?)

 アルベルトが時々話す村の掟が創作なのかどうかはよくわからない。しかし、そんなことを言っている間に座り込んでしまった。

「ほら〜、誰か呼びますね。そこの屈強な方! あっ、そこの黒い服の人です。助けて〜!!」

(……体力には自信があったのにな)

 魔力と妊娠の相性が悪いというのは本当なのだろう。アルベルトが呼んだ助っ人を見て、私は固まる。

 黒のローブに聖獣を連れた人物を私は一人しか知らない。

「呼んだか」

(一番呼んではダメな人じゃないか)

 しかし、とてもではないが逃れるほどの体力はない。私は静かに心の中で白旗を上げた。



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