III シグルドの追求
「起きたか」
朝、目が覚めるとシグルドの顔が目の前にあった。
「………………? シグルド? 何故、我が家に」
「寝ぼけんなここは俺の部屋だ」
ため息をつかれた私はぐるりと部屋を見回す。名門貴族の一人暮らしに相応しく、家具などは必要最低限ながら質のいいものが置かれている。花瓶はなくコップに紫の花が挿されている。
(告白の邪魔をしてしまった)
きっとあの後私は倒れてしまったのだろう。となると、シグルドは想い人に会えなかったはずだ。
「悪い。迷惑をかけた。私は帰――」
私が言い終わらない内にシグルドは私の両手を抑えて動きを止めた。
「相手の男は誰だ」
「黙秘する」
私は咄嗟に顔を背けた。まさか貴方ですとは言い難い。それに、シグルドが何故ここまで怒っているのか、私には思い当たる節がなかった。
(まぁ、確かに目の前で突然倒れられるのは迷惑かもしれないが)
シグルドは私の両手を押さえつけたまま続ける。
「お前、知らないとは言わせねぇぞ。魔工子宮プロジェクトで妊娠が成功するとき強大な魔力を吸い取られる。運が悪ければ急性魔力欠乏で――死ぬ。必ず、一日中相手の男が立ち会って必要に応じて魔力を供給する規定だろ」
「そうだったのか」
急いでいたとはいえ必要な情報を聞きそびれていたらしい。最も、時間があったからといってお姉様が教えてくれていたとは限らないが。
「お前は知らなかったのか。本当に……本当に危なかったんだぞ」
彼が小さく震える姿は初めて見る姿だった。今回はシグルドが魔力を分けてくれたという。
「ではシグルドは私の命の恩人だな。ありがとう」
「お前は俺にとって大切な……仕事の関係者だからな」
あのときシグルドが居なければ軽率に死んでいたかもしれない。それは、困る。
(もしかしたら私にも子供が産めるかもしれないのだ)
必ず、なんとしてでも、私はこのチャンスを逃したくない。
「この先も何度か発作的に魔力が足りなくなることがあるはずだ。紋様が両手に現れるということは、これは双子だ。非常に珍しいケースで二人分の魔力が必要になる」
「詳しいな」
「……あぁ。同僚から聞いた」
シグルドは私には施設に出入りしていたことを明かしたくはないらしい。それはそうだ。私達は仕事の付き合いこそあれ、このようなプライベートなことを話す仲ではないのだから。
「で、最初の話だ。俺は仕事で重要な関係にあるお前に無責任なことをした相手を一発殴らなければ気が済まない。相手は誰なんだ。教えろ」
「教えられない」
「教えられないような奴と結婚するのか」
「結婚はしない。相手は子供が出来たことを知らないし、今後も伝える予定はない。魔力供給は――そうだな。誰か別の相手を探すつもりだ」
「なん……だと……」
シグルドはまさに絶句という顔をしていた。
この後のシグルドはしつこかった。とても、とてもしつこかった。
「誰なんだその無責任な奴は!」
「別に無責任だとは思っていない。詳細は口外出来ないのだが、相手は私が敬愛している相手なのだ。子供が出来たことに関しては嬉しく思っているので、ひどいことは言わないでほしい」
例え本人であっても私が尊敬しているシグルドのことを貶すのは許せなかった。
私は力の抜けたシグルドの手を振り払う。荷物をまとめて、ローブのフードを深く被った。
「帰る。助けてくれたのには感謝しているんだ。ありがとう。また来年な」




