エピローグ
あれから二年。
王都の酒場では大きなニュースにざわめきができていた。
「偉大なる先人の功績を盾に非道な実験をしていたゾクレイ家はその悪行を自ら明かし、当主が隠居したらしい」
「新しい当主は若い女だ」
「ネズミみたいに小さいって聞いたぜ?」
「魔工子宮プロジェクトはどうなるんだろうな。あれ、結構金掛かってたのに」
「あれは続けるらしいぞ。実際、人口は少し増えているらしいし」
「そんなことより、昨夜王都に出た魔物を狩った美人の魔騎士を見たか?」
「戦場を舞う女神のようだが、子持ちらしい。魔騎士にもあんな美人が居たならば気付かなかった筈がないんだけどな」
*
「……あなた達を呼び出したのには理由がある」
ひと足先に王都に戻り、ゾクレイ家を整理したリリお姉様は私達を研究所に呼んだ。捕まったときのために掛けていた不能の呪いを魔道具で解いたリリお姉様は、以前よりも調子が良くなったらしい。颯爽とクーデターを起こしお父様を退陣に追い込んだ。
思ったよりも研究所の再建が早かったのは、違法な研究をしていた大勢が元々の狂人達ではなかったからだ。異母兄姉達やスタッフがいつも飲まされていた薬に倫理観を狂わせてしまう成分が入っていて、善悪の判断が危うかったのだといえ。自分たちの行いを顧みたスタッフの中にはこの仕事を離れるものも居たが、ほとんどは研究職を活かせる場所がゾクレイの家の関連しかなかったため留まったという。
「できることがあれば協力する」
私は以前のようにお姉様の研究スペースに立ち入ると、腕を差し出した。以前と違うのは、隣に夫であるシグルドや双子の子供達が居ることだ。
「……私の計画で双子が産まれたのは計算外だった。これを解明したいとずっと思ってた」
高度な魔術式の刻まれた瓶を取り出しながら、お姉様は双子を凝視する。もう流暢に言葉が話せるようになったシドルファスとルティリアは二人で抱き合ってから私の足に縋りついた。
「伯母さんサラリとこわいこと言ってる!」
「私達産まれたくて産まれたのに!」
「大丈夫だ。リリお姉様は自分が仮説を立てた通りにいかなかったのが気に入らないだけだ」
リリお姉様は昔からそういうところがある。シグルドが何か思い出したようにリリお姉様に質問をした。
「その昔からある魔力の相性が良くて二人の愛が強いと双子になるっていう噂は本当なのか?」
「……研究所の方で魔力供給が容易そうな人達で双子を作る実験をしていただけ。不正の一種。抱き合ったりすると魔力譲渡が簡単だから身体接触の多そうな人達を選んでいたの」
シグルドは少し自分の質問が恥ずかしかったのか俯いている。
「……ただ、そうではない例もあったことも事実。あなた達は持ち出しの事故があったとはいえそういう術式は一切かけていなかったから異常」
それ故に今回検証のために私たちを呼んだのだという。
(ちょうどそろそろ三人目が欲しいと話していたところだ)
「つまりこの魔法陣の中に私とシグルドの血と魔力を入れると三人目の息子か娘が出来ると」
「……そういうこと」
「りょーかい」
シグルドは躊躇なく自分の血を捧げた。私もそれに倣う。私の手についた血をシグルドが拭うと、私の両腕にまた植物の蔦のような紋様が描かれた。
「また、双子みたいだぜ。やっぱり想い合う二人だと――」
「……つまり、身体接触でブーストがかかるという訳。魔術が発動してからの時間も関係ありそう。通常ではサンプルを回収した日とは別日に反応をさせるから違いがでる?」
あの『冬至祭』の日も確かにそうだった。私の身を案じたシグルドによって人生が変わったのかもしれない。
(想い合う二人というのは小っ恥ずかしいが、遠くはないのかもしれないな)
リリお姉様の目が怪しく光る。
「……じゃあこの二人が産まれたら次は是非キスを――」
私は子供達を部屋の出口まで導いて先に帰路へと進ませる。振り返って、まるでお姉様に見せつけるようにシグルドにキスをしてみせた。
「……!」
私はもう自分の魔力も身体も自分のために使うことができるのだ。この研究所の有用性はわかっているが、と前置きして私はリリお姉様にこう告げた。
「悪いが見せ物ではないのでな」
――おわり




